見出し画像

「記録が一切ないとは通常考え難い」~町が犬保護団体に作成を指示した「危機管理マニュアル」の記録を残さぬ神石高原町に審査会が苦言

あって当然のものが存在しない

「文書管理上問題はあるが、不存在と認められるため、妥当である」

 広島県神石高原町の情報公開審査会(会長・折橋洋介広島大学教授)は、ピースワンコという事業名で巨大な犬保護施設(シェルター)を運営する同町のNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、大西健丞代表理事)が町役場の指示を受けて作成した「危機管理マニュアル」に関する行政文書を「非開示」とした町役場の決定を妥当だとする結論をまとめ、3月22日に入江嘉則町長に提出しました。

 「妥当」という表現を使っていますが、決してほめているわけではなさそうです。

 あって当然と思われる行政文書が残されていないため、「非開示」という決定となったのは仕方がないとしても、大切な文書はしっかり保存しておかなければならないのではないか?「文書管理上問題はある」という指摘は、町役場に対する率直な苦言なのです。

「付言」が「結論」の3倍もある意味

 冒頭に掲げられた結論はわずか3行ですが、文末に掲げられた「付言」の分量はその3倍、9行ありました。全文紹介します。

「先の本件決定の妥当性で述べたとおり、本件対象文書を現に保有しているとは認められないことから、該当文書は不存在であると認められるとして非開示として原処分を妥当と判断した」

 「しかしながら、その該当文書の重要性から考えるに、通常その文書が作成、保存され、当然保有されているであろうこれら一連の文書が、一切存在しないことについては疑問を抱かざるを得ない」

 「今後、町政に関し町民に説明する責任を全うされるように、公文書管理の適正化の観点から、必要な文書の作成と管理が適正に行われることを強く望むものである」

 結論より付言のほうが長く、詳しいのは、この答申においては「付言」こそが本当の結論であると受け止めてもよいように思えます。

 審査会から町役場が小言を頂戴することとなったこの問題の経過を振り返ります。

不祥事発生を機に町役場が指導

 PWJが危機管理マニュアルを作成したのは、神石高原町長の指示によるものでした。PWJは2018年に狂犬病予防法違反、動物愛護管理法違反などの容疑で立て続けに広島県警の捜査を受け、書類送検されました。

 検察はその後、不起訴としたものの、町役場には「ふるさと納税で犬の殺処分をゼロにする」というPWJの企画を取り下げるべきではないか等の意見が寄せられていました。

 町役場が情報公開請求に応じて開示した行政文書によると、町役場は2019年6月、外部からの意見を受けて「ピースワンコへのふるさと納税に対するご意見について」とする文書を町長名でまとめました。

 「過去の一時期にあった不適切事案をもって、支援を行うことが不適格な団体であると結論づけることは、ご寄付頂いている全国の方々の思いにも配慮し考え合わせると、適切ではないと考えます」

 町長はピースワンコに再生のチャンスを与えました。この文書は、PWJは県や町の指導により業務改善を行っていて、県は動物の飼育状況に問題ないと判断して犬の引き渡しを再開していることに言及。加えて町役場はPWJに法令順守の徹底や緊急時の「危機管理マニュアル」の作成などを指示したことも明らかにしていました。

 問題の「危機管理マニュアル」については2018年12月の町議会でも町長がNPO法人に作成を指示したと答弁していて、町役場は犬保護シェルターでの事故や不祥事を予防する措置としてマニュアルの必要性を強く感じていたことをうかがわせます。

マニュアル概要すら記録に残さず

 では、町の指示で作成された「危機管理マニュアル」はいったいどんな内容なのだろうか?私は2021年5月10日付で町役場に情報公開請求しました。「保護犬事業における緊急時の危機管理マニュアルに関する行政文書一式」(当該NPOとの協議記録及び提出を受けた危機管理マニュアル、役場内関係部局及び役場外関係機関との連携について検討、確認した文書を含む)という内容です。

 しかし、残念なことに、町役場の決定は文書が残されていないので非開示というものでした。町役場とNPO側のやり取りなどはもちろんのこと危機管理マニュアルの概要すら記録に残されていない、ということでした。

 思いもよらぬ通知でした。そこで私はこの非開示決定を受けて審査請求しました。議会答弁に関わるような重要な案件に関しては作成されたメモは通常なら町の記録として残されているだろうからもう一度よく捜索して見つけ出し、開示してほしい、という趣旨です。

 もし、再度探しても見つからないようなら、これは「記録保存の不備」であって、事後的な行政の検証をきわめて困難にし、情報公開条例の目的も満たされません。審査請求では「行政文書として保存するようなルール作りが必要ではないか」ということも指摘しました。

文書不存在は「甚だ不自然」と審査会

 審査会が調査したところ、町役場は「当該事業(犬保護事業)は広島県への届出に基づき行われていることをから、県において危機管理を含めた指導、助言等がされるべきだ」と主張し、「当該危機管理マニュアルの提出は受けていたものの、内容の確認に留めコピーやメモの記録等を残すことなく返却し、文書記録として保存していない」と説明しました。

 しかし、審査会は「町長が、緊急時の危機管理マニュアルの作成を指示していること、災害などの緊急時に数千頭にも及ぶ保護犬の取り扱いについて、当然、保護犬のシェルターが立地している自治体として、対応を迫られるため、当該NPOと町の連携が図られる必要があることに鑑みると、実施機関に当該危機管理マニュアルについての写し等、マニュアルの内容が確認できるものが一切ないことは甚だ不自然である」と判断しました。

 「実施機関である町が、作成を指示したものであるにも関わらず、その写しや記録が一切ないことは通常考え難く、文書管理上問題があると言わざるを得ない」

 審査会は審査請求に対する役場からの弁明書、請求人からの反論の文書を踏まえて、口頭陳述、証言聴取など2021年11月から今年3月まで合計3回審議し、答申をまとめました。

 山火事に襲われたシェルターから犬たちを救出しなければならない、事故や災害で大半の従業員が出勤できない、周辺で狂犬病の発生が確認された、考えればきりがないほど犬保護事業をめぐるリスクは存在します。

文書管理の問題、改善を期待

 個人であれ、団体であれ動物たちの世話をする人は、不測の事態に見舞われたとき、動物たちとどう行動するかを考えておかなければなりません。特に数百、数千もの数の動物の世話をしている大きな保護施設なら、ありとあらゆるリスクを想定し、その時の対応策について思いを巡らし、地元の自治体や消防、獣医師、動物愛護関係者らとも情報を共有しておくことも必要だと私は考えます。

 町役場が危機管理マニュアルの作成を指示したのも同じような気持ちからだと思いますが、出来上がった内容をどうして関係機関や地域住民とも情報共有し、お互いの役割を確認しあうことをしないのか不思議です。

 神石高原町は4月20日付で、「審査会答申を尊重して、主文の通り裁決する」と決めて、審査請求人に通知しましたが、「非開示は妥当」という結論に満足することなく、「文書管理上問題がある」という指摘に対しても、具体的な行動を起こして欲しいと思います。

 いまからでも遅くありません。万が一のとき、巨大な犬シェルターと地域住民、行政、消防、獣医師、保健所などが連携が図れるよう町役場はしっかり危機管理マニュアルの内容を把握しておいて欲しいと思います。

(お読みいただきありがとうございます。サポートしていただいた場合、その資金は情報公開請求と開示文書の受け取りに使わせていただくことにしています)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?