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環境省からの情報公開請求取り下げ要求に私が応じない理由

環境省幹部からの電話 

10月12日、私は環境省に情報公開請求(行政文書開示請求)を行いました。

中央環境審議会動物愛護部会での環境省幹部の説明の根拠となる文書を開示して欲しいと思ったからです。

 すると本日(13日)、ご本人、環境省の長田啓・動物愛護管理室長から私に電話がかかってきました。請求された内容に関して、まず会って説明をしたいから、日時を調整したい、というのです。

 打ち合わせた結果、14日午後に私が環境省に出向くことに決まったその時です。長田氏が持ち出したのが情報開示請求の取り下げです。

 予感がしたので、長田氏が言い出す前に「申請だったら取り下げはしません」と伝えました。

「そうですか、だったら(面会を)急ぐ必要はないかもしれない」

 長田氏はそう言いました。申請を取り下げないのなら、決めたばかりの面会の約束も取り消す、急いで会う必要はない、といいたげでした。

 私がどうしても情報公開にこだわるのかを知りたかったようです。

「そのような人もいるので」と、彼は言いました。

 そして、私はどうしても根拠となる文書を読みたい「そのような人」なのです。

 私は新聞記者だった時代から情報公開制度を使って行政文書を入手して記事を書いてきました。最初に利用したのは1985年、神奈川県の条例に基づく情報公開請求でした。

 いまも問題のある広島県のNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(広島県神石高原町、大西健丞代表理事)の活動の実態を分析するため、県や町役場の情報公開制度をフルに活用させてもらっています。正確な報道、根拠のある報道に取り組むためには欠くことのできない大切な制度なのです。

「あなたは、いま言っていること、やっていることの意味を分かっていますか?」

 私は聞きました。

「いや、いままだ検討途中の段階なので、請求をされても開示できないものばかりだから」

 長田氏はそのような趣旨の説明をしました。

 しかし、私はすでに検討を終えたものばかりだと思います。ただ単に面倒だと思っているか、いま詳しく説明すると、おおざっぱな結論の導き方に批判が出ると思っているのかもしれません。

 仮に、私の請求が通らず、たとえ全部黒く塗りつぶされた文書でも、黒塗り文書に真実がたくさん隠されていることがわかることを、経験上、私は知っています。

 弁護士ら専門家による審査会に審査請求をして、非開示決定を覆したことも何度かあります。

 また、請求があったのを知りながら官庁が当該文書を「廃棄」したのは不当だという決定を下してもらったこともあります。

情報公開請求3つ

 私が請求した内容を紹介しましょう。

① 10月7日開催の中央環境審議会動物愛護部会提出資料3-1②の2ページ目 最上段の「従業員の員数」に関する条文案において、検討会報告が検討課題とした「上限値強化、上限値緩和」について採用しないことを決めた検討経過を示す検討資料、議事録、稟議書当の行政文書一式(国会における動物愛護議連、メディア等との質疑応答記録、電子メール等を含む)

② 10月7日開催の中央環境審議会動物愛護部会において、数値規制案について見直し、慎重審議等を要望した繁殖業者等の要望FAX書面等に記載された経営データを分析したところ、半数以上が規制の要件を満たせると答弁した担当室長の発言を裏付けるデータの集計、分析を行った記録一式(要望文書そのものは別途開示申請を検討する)

 ③ 動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会に提示された数値規制のうち従業員1人あたりの飼養頭数案を提示するにあたって、各団体等の要望及び省内独自の案を含めて、環境省内で比較検討し、またはその是非について理由を付した行政文書一式(大臣の同意、決裁、承認等を求めるために作成した説明資料を含む)

 以上の3つです。申請1つにつき手数料として300円の印紙を貼って環境省に提出しました。

 申請書には誤変換や事実誤認があることもあり、その訂正のために確認の電話がかかってくることもあります。

 あるいは、ある団体の個人名を特定するとプライバシー保護上、存否さえも回答できないから、開示しやすいよう個人名を「団体職員」と書き換えてもよいか、という質問が来たこともあります。

 それを含めて、目的はできるだけ正確に文書を特定し、情報公開を積極的に行うことです。とてもうれしく思います。

 今回のように「取り下げ」をあからさまに求められることは極めてまれです。そもそも、個別に会えば説明できることを、情報公開では開示を拒むというのもおかしな話です。

 開示請求対象の文書を特定すると、開示・不開示が決定するまで、「その内容について説明できなくなる」という説明を受けたことはあります。しかし、開示請求するのは多くの場合「検証」が目的ですから30日程度時間がかかっても文書の開示決定を待てる場合がほとんどです。

 せっかくの時間ですから、私は会って説明を受けたいと思います。もし、私が情報公開請求を取り下げないことで、先方から提案してきた説明を取りやめるというのなら残念なことですが、それも環境省の情報公開に対する姿勢として記録にとどめておく必要があると思います。

 証拠に基づかない口頭の説明を信じることもできますが、より重要なのは説明の裏付けとなる証拠、行政文書や資料だと思うからです。

国の情報公開制度

「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づく国の情報公開制度は、以下のような仕組みです。

(1) 開示請求権者  何人も、行政文書・法人文書の開示を請求できる。

(2) 開示される文書の範囲   行政文書・法人文書に次に掲げる不開示情報が記録されている場合を除き、開示。

(不開示情報の類型)

① 個人に関する情報で特定の個人を識別できるもの等。ただし、法令の規定又は慣行により公にされている情報、公務員や独立行政法人等の役職員等の職に関する情報等は除く。
② 法人等に関する情報で、公にすると、法人等の正当な利益を害するおそれがあるもの、非公開条件付の任意提供情報であって、通例公にしないこととされているもの等
③ 公にすると、国の安全が害されるおそれ、他国との信頼関係が損なわれる等のおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある行政文書に記録されている情報
④ 公にすると、犯罪の予防、捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある行政文書に記録されている情報
⑤ 国の機関、独立行政法人等及び地方公共団体の内部又は相互の審議、検討等に関する情報で、公にすると、率直な意見の交換が不当に損なわれる等のおそれがあるもの
⑥ 国の機関、独立行政法人等又は地方公共団体等が行う事務又は事業に関する情報で、公にすると、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの

(3) 公益上の理由による裁量的開示 不開示情報が記録されている場合であっても、行政機関の長又は独立行政法人等が公益上特に必要があると認めるときは、開示することができる。

(4) 行政文書・法人文書の存否に関する情報 行政文書・法人文書の存否を答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、当該文書の存否を明らかにしないで、開示請求を拒否することができる。

 環境省の室長は不開示情報の類型⑤の「国の機関、独立行政法人等及び地方公共団体の内部又は相互の審議、検討等に関する情報で、公にすると、率直な意見の交換が不当に損なわれる等のおそれがあるもの」に該当すると言いたいようです。

 しかし、3つの申請のうち③はすでに審議を終了した検討会が報告を発表しており、いまさら意見交換が損なわれる恐れなど発生しないと私は考えました。

意見提出のために必要な情報

 また、①、②についても、審議会に環境省が提示した省令案を決定するに至った根拠として環境省自身が説明したものです。そのような分析、検討が実際になされたかどうかを確認すること、そして、その内容を詳しく知って、環境省の判断が妥当なものかどうかを検証することは公益にも資するものだと思います。

 今回の省令案には、犬猫のブリーダー(繁殖業者)やペット販売店、譲渡団体などが死活問題だと騒いでいる数値規制が盛り込まれています。例えば、従業員1人あたり犬の場合は15頭~20頭を上限とする、という規制案です。詳しくは以前のnote記事をお読みください。

 審議会の部会でも業界や愛護関係者、学者らが真剣な議論をたたかわせていました。パブリックコメント実施にあたって、その資料や議事録をよく読むよう呼びかける行政学者打越綾子教授のような委員もいるくらいです。

 しかし、その議論の中で、環境省が示す考え方の大枠はしっかりしているのですが、その根拠についての説明は抽象的で、聞いていて腑に落ちない説明がいくつもありました。いかにコロナ対策とはいえ、わずか2時間程度の会合で議論を尽くすことは難しいなと思いました。

 時間が足りず、質問を紙で渡して回答を求める委員もいましたが、これらのやり取りは今後公表されるのでしょうか?本来なら時間を延長してでも議論を深めて、環境省も詳しく検討経過を説明すべきだったと思います。

 私が情報公開請求した文書は、省令案についてパブリックコメントを実施するにあたって、国民が適切な断を下したり、意見をまとめたりするのに必要な情報だと思います。私の請求が意味をなさないくらい環境省は積極的に情報を公表したらよいと思います。

 公益性を考えれば、法に基づいて、組織の長、つまり環境相が事務当局に内容を即時公開させてもいいくらいです。

 情報公開制度が地方自治体による条例制定から始まってもう40年近い年月が経ちます。この制度は、新聞やテレビ局のような報道機関に所属しなくても政府や自治体の持つ情報にアクセスできる仕組みとして定着しています。

 私は環境省にすぐに出向いていける距離に在住・在勤していますので、環境省に行って話を聞くことができます。

 しかし、情報公開制度を利用しなければ、政府情報にアクセスできない人たちはどうすればいいのでしょう。

 直接説明を受ける機会が得られるのはうれしいことですが、その代わりに情報公開請求を取り下げてくれというようなやり方は絶対にやめて欲しいと思います。

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