街灯

カーテンの隙間から街灯を眺めていた。
輪郭さえもわからなくなるくらいの暗闇の中、青白い光だけが目を奪う。小さい子のバースデーケーキみたいに光が等間隔に立ち並ぶ。
か細い声で「何見てるの?」と彼女が聞いてきた。

「外を」
見ている。
言葉尻は掠れて声にならなかった。
彼女もやっぱり聞き取れなかったようで、頬が触れそうなほどに寄り添ってきた。
後ろに伸びる影は、一つの塊になっているだろう。

「誰もいないね」
横を見ずとも、彼女が笑ったのがわかった。
「世界に私たちしかいないみたい」

この前見た映画に、そんなセリフがあった。いや、小説だったか。
内容なんて覚えてないけれど、恋愛ものだったのだろう。おそらく。


なんとなく息苦しくなって、窓を開ける。寒いから開けないでよ、と遠くで聞こえた。ろうそくの間を走る風が、僕らの隙間に入り込む。

まぶしい、と感じた。隣の彼女が。
まぶしい、と思った。数メートル先の街灯が。

部屋を包む真っ黒な影に、溶け込んでしまいたいと思った。
隣のあの子が眩しすぎるから、僕の輪郭を明らかにしてしまう。


いつの間にか、窓は閉まっていた。
彼女がシーツにくるまって宙を見ている。
街灯はもう必要ないくらいに、空が白んでいた。

サポートしていただいたお金は、デザインの勉強の本を買うために使います。