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【詩】狂い羽化

デザートカップで育てた蝿は 
蛹のときの3倍は大きく
どうやって身体を折りたたんでいたのだろうと
えらく不思議に思ったのをよく覚えている

狂い羽化したギンヤンマに食べさせるため
羽化させた蝿は結局のところ
骨折り損のくたびれもうけに終わった

真冬に羽化したギンヤンマは
室内でしか生きられない
生まれてすぐさま羽を負傷し
その羽は再び返ってくるような
シロモノではなかったから

飛べない彼、もしくは彼女には
飛んでる蝿など到底捕えられなかった

餌を追うための羽が
生まれて2時間もしないうちに失われたのだからしかたない

羽化したばかりの生まれたての羽は
きらきらと艶めく透明色で
徐々に黄色くシャリシャリとした色質感に変化していった

”それだけのことを私に伝えるために狂い咲いた生命だったのだろうか″

なんて人間中心主義な考えが頭をよぎる

生まれてすぐ不具になったギンヤンマは
飼育容器に入れられて
ヤゴのときから口馴染んだ白サシを
シャミシャミと食らう

左右に開く異世界への扉のような蠱惑的な口吻を
自動ドアの如く一定のリズムで開閉させる

私はせっせとピンセットで摘んだ白サシを
彼もしくは彼女の口元に運ぶ

ちょうど、次男へ離乳食をやっていた
3年前のあの日を思い出しながら

”可愛いと言っても嘘になる
可愛くないと言っても本当じゃない”

言葉にあらわせない
曖昧な隙間に宿る
それが愛だとしたら

こんな生き様も悪くはない

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