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2023年2月の記事一覧

【詩】エポカソポ

【詩】エポカソポ

歯槽膿漏用の歯磨き粉を口にし

唱える魔法の呪文は

エポカソポ

苦くてしょっぱい病室のにおい

婆ちゃんの体重が30キロになった

唱える魔法の呪文は

エポカソポ

子犬のような濡れた瞳で

鬱と痴呆の違いを教えて

唱える魔法の呪文は

エポカソポ

あの日あの時が砂嵐に消えようとも



窓の外

しんしん積もる雪の音は

エポカソポ

行かないで

行かないで

私を置いていかないで

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【詩】捨てる

【詩】捨てる

捨てる

捨てる

全部

捨てる

愛も

渚も

恋も

病も

捨てる

捨てる

全て

捨てる

夢も

ビジョンも

喜びも

悲しみも

捨てる

捨てる

何もかも

捨てる

過去も

轍も

虐げられたあの日の記憶も

捨てる

捨てる

もう

捨てるものが何もない

それでも捨てる

肉体を

魂を

片笑窪の可愛い

あの子の笑顔を

【詩】内側

【詩】内側

煮凝りを温めて溶かすように身体をほぐす

温めて温めて温めて向き合って

沸き立つ不安に先立つ生命

運命の輪の外側に逃げてきたはずなのに

いつのまにか囚われていた

解きほぐし解きほぐし解きほぐしてまた

元の場所に帰りたい

生きている意味を問われないで済んだあの場所に

他者の介在する人生とは

刺激的で面白く世知辛くて孤独だ

今回も耐えられるのか

補償はどこにもない

どうしようもな

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【詩】鬼

【詩】鬼

生温い温度の絶望が

身体を巡る血液と同じ温度であることに

安堵と気味悪さを覚える

腫れた眼球をもたげ、文字を追う

眼球に貼り付く文字は意味をなすことなく

深淵不覚に消えていく

あれは何?

それはあれ?

これは違う

どれも嘘

疑心暗鬼に駆られ

自らが鬼へと変わっていく

復活はないの

成長もないの

劣化だけなの

それだけなの?

【詩】initiation love

【詩】initiation love

何があったの?

ねえダーリン

答えられないならそれでいい

答えられるなら答えてもらいたい

イニシエーションの愛の形を

微分積分もわからない

私にもわかるように

愛を込めて

復活した見知らぬ園には

誰かが撒いた種が宿っていた

ヤドクガエルが沼地で歌う

痺れるような恋の歌

ねえダーリン

何もなかったのよ

私たち

最初から何も

【詩】ただそれだけ

【詩】ただそれだけ

試されていた、全てに

漆黒に太陽に

レンズに斜陽に

傾いた肉体をどうにか立ち上がらせて

闇に煌めく誘惑に

一矢報いた尻切れとんぼ

悪夢が実体化した

黒い飛沫をあげていた

薄墨の眉をしたあの人に

どうしようもなく似た現実は

音もなくただ崩れ去る

生まれてこなければよかった

そんなこと言わないで

そんなふうに思わないで

生まれてきた方が良いなんて人

誰一人いないのだから

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【詩】pain

【詩】pain

雪のように

しんしんと

下手糞なバイオリンのように

ギーギーと

溺れる狸のように

ゔぉっぷうぉっぷと

痛覚の琴線が奏でるポリフォニー

カラダ中に響き渡る壮大な交響曲

響かせる音楽ホールとして存在している

ワタシノカラダ

季節外れの綿毛のように

ふぁらふぁらと

ぬか漬けを混ぜた指のように

がもがもと

寄せては引いていく波のように

サーサーと

痛みが徐々に引いていく

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【詩】カブトムシの終活

【詩】カブトムシの終活

兄が死んだとき

あなたは兄の上に馬乗りになっていましたね

ママは驚きましたよ

肉体というしがらみに囚われた

兄の魂を解き放とうとしていたのですか?

あなたが開いた兄の羽は

ちょうどあなたの羽化不全で

はみ出た右羽と同じ分だけ

左半分が開いていていましたね

あなたは兄と融合して

死後の世界へ

飛び立たとうとしていたのでしょうか?

一緒に送り出してあげられなくて

ごめんなさい

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【詩】べく

【詩】べく

べく

あれば

なす術もなく

旋律

焼却炉の奥に立ち顕れる

マッチ一本より

シャビィな真実

受け取れよ現実

遠慮するわと演じる

訣別

哀しからず

悪しからず

ごめん

どうしようもなかったの

死別

【詩】血潮

【詩】血潮

やわらぎが意志にまとわりつき

固く閉じた岩となった

文脈の奢りから溢れ出る果汁が

道を浸し川となった

誘惑の風圧が痛いくらい強い日

わだかまりは溶けて貝となった

今あるだけの希望を空に解き放ち

揺れ落ちる塵は雪となった

向こう見ずなドライフルーツを

隙を見て食いちぎり

それは

それらすべては

やがて私の血潮となった