ひしゃげたトマトが笑っている。
盛り付けまで完了した皿が落ちて
割れた。
スローモーションで流れる映像。私はただ茫然とそれを眺めることしか叶わず、虚しくガラスが割れる音が響いた。
飛び散る破片、ソース、肉――――
今まで耐えてきたものが、我慢してきたものが、まだ大丈夫だと繋ぎとめていたものが、崩壊した。
私は膝から崩れ落ちる。
飛び散ったガラスの破片が、ふくらはぎに刺さる。
痛みを感じたのは心臓だった。
私は何をやっているのだろうか――――
最近は何をやってもうまくいかない。
仕事も、趣味も、料理も、人間関係も、何もかも。
「何をしているの?」
誰かが声をかけてくるが。
その顔には靄がかかっている。
私を見ないで。
そんな目で私を見ないで。
何もできない私を、見つけないで。
私はできる人間でありたかったはずなのに、現実はそう甘くはない。
見ないで、見ないで、見ないで見ないで見ないで見ないで――――
声をかけてきた誰かは、私の肩に手を回す。
ゆっくり、滑らせるように、不快感を私に与える。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――――
それでも私は抵抗しない。
抵抗できない。
存在意義のない私が、何の役にも立てない私が、唯一求められる瞬間。
堕ちるしかないのだ。
深く、深く――――
私は、あのトマトよりも醜い。
あぁ、なんて醜いのだろうか。
「お前、もう捨てられるしか選択肢はないんだよ」
私は笑った。
返事をするはずもないトマトに向かって、笑い、そして泣いた。
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