煙草

「ごめん、煙草くれる?」

最近になって増えた言葉だ。

「いいけど、吸う人間だったっけ?」
「いや吸ってこなかったし、今も吸うか悩んでる」

そう言いながら煙草に火をつけ、息を一吸い。
赤い灯が付き、煙があがる。

「吸うか悩んでる人間の手つきじゃないけどね」

呆れ笑う顔を横目に、私は異物に侵食されていく様を想像する。
煙は体内に入り、毒となる。

口内に広がる苦み、器官が圧迫される感覚、より鮮明に感じる空気の味。

「……やっぱり煙草は好きになれないな」
「じゃあなんで吸うの?」

今にも咽てしまいそうになるのをなんとか、堪えながら、もう一吸い。
吐いた煙は空へと昇っていく。

「……吐いた煙を眺めるのが好きなんだと思う」

私も煙のように、空に昇れたら
儚く消え去ってしまえたら

「煙草、始めようかな」
「もう始めてるし、多分手遅れだから」


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