僕がタバコを吸いたくなる時

ふと、唐突に、いつもは吸わない煙草が恋しくなることがある。

普段は全く吸わない。
むしろ煙草は嫌いで、害悪でしかない煙を吸っているくらいなら新鮮な空気を吸っていた方がましだと思っている。

それでも、本当にたまに、半年に一回くらいの頻度で
「煙草を吸いたい」と、そう思う。

何故だろう?

煙草は嫌われやすい。
「タバコを吸っている人は恋人にできない」とよく周りの友達が言う。

お前らの基準で生きてねぇよ、やかましい

煙草を吸っていない私ですら思う。
確かに煙草は吸っている本人にも、その周りの人間にも害を及ぼす。
吸わないことに越したことはないだろう。
でも吸いたい人はいるのだ。
そこに依存してしまうのだ、そこに「居場所」を感じてしまうのだ、確かな時間がそこには流れるのだ。

何も持っていない手で、架空の煙草を取り出す。
箱から一本、素早く取り出しポケットに入っていたライターに火をつける。
風で火が消えないように手で壁を作りながら、そっと、先端に火を当てる。

スッと息を吸う。

すれば簡単に求めていた時間が、空間が、匂いが、居場所が現れる。

一度目を瞑り、そしてゆっくり瞼を持ち上げる。

目の前に広がるのは現実だ。
どんなに目を背けようと、私は現実に目を向けなければならないのだ。



私は現実に目を背けたいと思う時に、煙草を吸いたいと思う。
仕事、人間関係、自己否定――――。
挙げたらきりがない、私の嫌いなもの。
生きにくいもの、喉を詰まらせる。

苦しい。

こちらを見ようとしない焦点を追ってしまう。
粘着質のある言葉に目が行ってしまう。
そして私は、精神が逝ってしまう。

目頭が熱くなる感覚も、鼻の奥が酷く痛むのも、喉元まで出かけた言葉も、私は煙で誤魔化したくなるのかもしれない。


あぁ、煙みたいにあやふやになって、消えてしまいたいんだ。

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