肉体労働のすすめ!

この記事は東京大学応用物理学系 Advent Calendar 2020 4日目のものです。1~3日目の記事からいらした方には申し訳ありませんが、応用物理学に関する話は一切しませんのでご了承ください。

3日目の記事はこちら↓
信号処理と不確定性原理と量子力学と

はじめに

初めての方ははじめまして。計数工学科B4のかせがお(@Kasega0)です。昨年の応物Advent Calendar(以下、応物AC)では自由エネルギー原理について記事を書きましたが、例の事件後Qiitaを退会してしまったので現在は記事が消滅しています。申し訳ありません。余力があればそのうちどこかで再掲します。最近は卒論でQuantum decodingの研究をしていますが、今回はその話には一切触れません。卒論についてはこちらで不定期連載しているのでよければ見てやってください。代わりに今回は1ヶ月ほど前から始めたイベントスタッフのバイトがあまりにも素晴らしかったので、その布教も兼ねて「肉体労働のすすめ!」について書きたいと思います。このような記事を応物ACに載せて良いものかどうか悩みましたが、昨年の応物AC 2019においても4日目の記事は「柏生活のすすめ!」という事だったので12月4日のご縁にあやかろうというアレです。お許しください。余談ですが「柏生活のすすめ!」は院で柏の研究室に進学することを少しでも考えている人には非常にありがたいお話が聴けるのでおすすめです。

肉体労働との出会い

冒頭でイベントスタッフのバイトを始めたと書きましたが、そもそも何故そのようなバイトを始めたのか疑問に思う方も少なくないと思います。この記事の読者のほとんどはおそらく東大生だと思いますが、東大生がよくやるバイトといえば塾講師、家庭教師、システムエンジニア、機械学習エンジニアあたりだと思います。私もイベントスタッフのバイトを始めるまでの2年半ほどは機械学習エンジニアのバイトをしており、特に自然言語処理(NLP)に関する研究・開発を行っていました。完全リモートでの勤務が許可されており、時給も悪くなく、学べることも多かったので何の不満もなく勤務していました。

事件は4年後期に起きました。私の所属する計数工学科では卒論の研究室配属が4年後期に行われます。そこで私は理論系の研究室に配属され研究を始めたのですが、そこで機械学習のバイトと卒論の両立が(私の能力では)不可能であることがわかりました。そもそも脳のリソースは有限であり、一日に9時間も10時間も集中して頭を使い続けることは(私の能力では)できません。NLPの研究と卒論はどちらも頭を使うので限られたリソースを両者が食い潰し合うことになり、結果としてどちらかを諦めない限り両方とも微妙なパフォーマンスで作業をすることになります。卒論を開始してすぐにそのことを実感し、このままではいけないと取り敢えずは卒論の方に集中することにしました。

しかしながら、バイトをやめてしまっては収入が立たれます。私の家計は常に火の車なのでバイトをやめると資金繰りが上手くいきません。そこで対策を考えた結果、頭を使わない仕事であれば問題ないのではないかという結論にたどり着きました。理想的なのは短調作業でなるべく頭を使わなくて済む仕事です。最初はコンビニバイトを思いつきましたが、近年のコンビニ業務は複雑化しどう考えても短調作業には思えません。飲食店のスタッフも考えましたが、こちらも言うほど短調には思えないのとそもそも接客はあまり得意ではありません。そこでイベントスタッフの特に準備や片付けといった裏方仕事であれば、短調作業かつ接客も回避できて理想的なのではないかと思い応募することにしました。

肉体労働の良いところ

イベントスタッフのバイトを始めて既にいくつかの現場で勤務しましたが、当初の目的はほぼほぼ達成されています。基本的に各現場で短調な作業を6~10時間ほどこなすだけなので肉体は疲れますが頭が疲れることはありません。家に帰って風呂経由でベッドに入り4時間ほど研究をしてもパフォーマンスの低下は実感できませんでした。実験系の研究であれば話は別だと思いますが、iPadとApple Pencilさえあれば横になってでも研究ができるのは理論系研究の良いところだと思います。他にも当初は考えていなかった嬉しい副産物もいくつかあります。

まず、身体を動かすので健康的です。卒論やNLPのバイトをしていると一日中机につきっぱなしなんてことがよくあります。その点、イベントスタッフのような肉体労働をすると強制的に身体を動かせるので、普段から運動する習慣がない私のような人間には非常にありがたいです。

次に、早朝から勤務開始の現場が多いので強制起床により生活習慣が改善されます。生活習慣はわりと悪い方の人間だったので、このバイトを始める前は起きたら午後だったなんて日も珍しくはなかったのですが、バイトによって起床義務が生じると健康的な時間に起きることができるので生活習慣が改善されます。

最後に、社会性が改善されます。NLPのバイトにしても大学にしても基本的に似たような専門や嗜好を持った人間ばかりなので、話題といえば物理、数学、情報科学、声優、アニメ、競馬あたりで完結します。無論それはそれで悪くないですし居心地も良いのですが、イベントスタッフのバイトをしていると色々な背景を持った人々と出会えます。正直な話をすれば興味のない話題が95%ほどを占めるのですが、たまに自分が知らなかった非常に面白い話が聞けたりします。また、こちらも普段は全くしないような話題を振れるようになったりするので社会性の改善が期待できます。

肉体労働の悪いところ

ここまで肉体労働をベタ褒めしてきましたが、もちろん肉体労働にも悪いところはあります。まず、何と言っても単価は低いです。特に東大生がやりがちな高時給バイトに慣れていると最低時給近くの仕事は信じがたいかもしれません。ただ、基本的に指示待ちに徹していればよく、意思決定も高度な技術も要求されないので、業務内容を考えれば妥当な給与かと個人的には思っています。そもそも我々にとって致命的なのは脳のリソースを食われることなので、短調作業をしている限りは何もしていないのにお金がもらえたぐらいの感覚でいられると思います。

次に、これは文化の違いだと思いますが上司がすぐにキレます。もちろん心から怒っているわけではないことがほとんどだと思いますが、これまでそう言った環境に身を置いたことがなかったので新鮮でした。ただ、これもよくよく考えてみると私のような初心者ばかりのスタッフを従え、イベントを回さないといけない上の人たちは本当に余裕がないだろうなと同情する部分もあります。基本的に言われたことを言われた通りに行い、勝手な判断をしなければ怒られることもそうそうないと思うので、要は指示待ち人間に徹しろということだと思います。

最後に

この1ヶ月ほどイベントスタッフのバイトを経験した上で私が考える肉体労働向きの人の特徴を挙げます。
・頭脳労働が学業に支障をきたす方
・考え事が得意な方(作業中は虚無です)
・理不尽な怒られを流せる方 ←重要

最後に個人的な感想ですが、イベントスタッフのバイトはこれまで経験してきたどのバイトよりも非常に楽です。もし少しでも興味をお持ちの方がいれば騙されたと思って是非応募してみてください。

一緒に肉体労働の悦びを知りましょう!