2024.06.04

職場で電話によるアポ取りをしていると、名前やアドレスを聞く場面に遭遇する。齟齬なく伝えようと思うとなかなかハードルが高く、様々な人が試行錯誤しているのをよく聞く。
私が「亜空間のアです」と説明していた文字を「亜細亜のアです」と説明している人を初めて見たときに「教養だ」と思ったのを思い出した。

インターネットでよく聞くネタではあるが「樹木希林のキです」と伝えて「どのキですか?」となるようなポンコツアナウンスもまれに発生する。それほどまでに口頭で伝えることは難しい。

以前コールセンターで働いていた際、電話口の方の名前を漢字で控える必要があった。物腰柔らかで、おとなしそうな声色の女性が「テイコ」と名乗った。漢字を聞くと「ドウテイ」の「テイ」だという。私は疑う事なく「道の道程ですか?」と聞いた。少し間があって「貞子と同じです」と返ってきた。少しして彼女の言う「ドウテイ」が正しく変換できて面食らった。まさか「童貞」の方で伝えていたとは。そんなことを言いそうにない声だっただけに驚きが大きく、終話後緩やかに笑いになった。

別の方は、「キの文字がキシダンのキです」と言った。脳内に二つのキシダンが浮かぶ。「Knightの騎士団ですか? 歌手の氣志團ですか?」と聞くと大爆笑の後「歌手の方です」とあった。想定外のことを言われると人は笑う。これが失礼とかでなくてよかったなと思った。

今日、営業電話の後、メールでのやりとりに移行するためのアドレス確認の時間があった。鬼門である。こちらからメールを送るため、相手方に問うことになる。つらつらと並べられたものに対して私が復唱すればいい。どんな言い方でもいいのだ。

「えっと、まずナトリウムのN」

このように単語とセットで伝えてくれる方はとても優しい。「N」と「M」は口頭だと迷う。

「ドラゴンボールZのZ」

もっとあったのではないか? 確かに迷うことはないが、多分もっとあった。続く単語で「アメリカのA」「ブラジルのB」「カナダのC」のタイプの方のようで、わかりやすいという感情と全部を英単語にしなくていいよという感情と、Zはもっと他にあっただろうという感情で笑うのを堪えるので必死だった。

例えば、「動物園のZ」とか「最後のZ」とか。「ゼロのZ」「ZOOMのZ」でもいいかもしれない。「ドラゴンボールZのZ」? これだけずっと引っかかってしまう。伝われば別に問題はないのだが。

自分の名前を聞かれたときのシミュレーションをしておいた方がいいかもしれない。

「みっつの山が重なるで三山重です」

……不要か。

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