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わっしょい生活



耳が音楽を拒絶し始めたので僕はワイヤレスのイヤフォンをゴミ箱に捨てました。洗面台には馴染みのロックが原型を失い、最後の最後まで目が合ったまんまそいつは排水口に吸い込まれていきました。さよなら音楽、さよなら生活。そうやって視界がグルグルグルと目眩を起こします。少しして排水口に流されてるのが僕自身である事に気づきました。僕が生活を捨てたのではなくて僕自身が生活に捨てられてしまったのです。僕はたった今悪臭漂う下水道をノロノロと前へ進んでおります。水球選手のような足のばたつきを辞めてしまうと簡単に溺れ、体や心の輪郭を下水に奪われてしまうような感覚になります。流れに逆らって僅かに見える光に体をくぐらせようと試みますが、カップ焼きそばの麺の香りを含んだ熱湯やで干からびた麦茶のような液体によって引き戻されてしまいます。向こうでは退屈にも美しい日々がどうやら続いているようですが仕方がないのでゆっくりと前に進む事にします。これから僕は海になって雲になって雨になってまた最初に戻ってきます。そういう心持ちです。僕は元気です。わっしょい。

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