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【漫画感想】シオはそのうち修羅場を迎えると思う『圕の大魔術師』1~6巻まで

 Twitterやってると色んなことがあるもので、この漫画はFFになった方に教えてもらったのが読むきっかけだった。つまりそれまで自分の視界には入ってなかったわけで、好みに合うかは読んでからのお楽しみだったのだが、何事もとりあえず試してみるものだ。最高でしたよこの漫画。

 語りたいことがいーーっぱいある作品なんだけど、やっぱりまずはキャラクターの魅力について。
 主人公であるシオ=フミスは明るく健気で思いやりと理性を備えながら動物ともすぐ仲良くなる金髪美男子のハーフという要素てんこ盛りの強強なキャラクター。本をこよなく愛する彼は世界中のすべての本が揃っているといわれる本の都“アフツァック”に思いを馳せながら姉とともに暮らしていた。ある日シオは、セドナという司書(カフナ)と出会い親交を育んでゆく。そしてこの出会いを通して、のちに世界の命運を握ることとなる、彼らの物語が動き出してゆくのだった――。

 ネタバレしないように1巻のあらすじと主人公シオについて書くとこんな感じ。

 2巻以降に詳しく語られることですが、この世界にはかつて災厄と大戦の時代があり、それを退けた7人の大魔術師たちが英雄として語り継がれています。司書(カフナ)とは彼ら7人のうち1人が「過ちを繰り返さぬよう」大陸の中心に図書館を建立し、書を護るために生み出された職業のことなのです。主人公シオの物語はそれより95年後のアムンという小さな村から始まるのでした。

 シオ以外にも様々な登場人物がいるけれど、絵が美しいことも手伝ってみんな魅力的。そう、この漫画キャラが良いのだ。様々な主張が飛び交うビブリオ漫画だけど、作者がそれぞれのキャラクターに愛情をもちながら描いているのが伝わってくるので、読み手であるわたしたちは必要以上に不愉快な気持ちにならず物語を追うことが出来る。

 壮大かつ緻密な設定、多様性のある登場人物たち、それらを美しく彩る作画。どれをとっても非常にレベルが高く、一度や二度読んだ程度ではその深奥にたどり着けないほど作りこまれた作品だ。6巻の段階でバラ撒くように伏線を配置しており、登場人物たちを掘り下げていく過程でより大きな物語が動いていることを予感させながら、かつ1巻ごとの面白さもしっかりと担保されている。
 ただし情報量は多いので、表の物語を追う分には問題ないが、裏の作りこまれた設定を味わうにはある程度読み込む必要があるだろう。

 本と魔法のファンタジー漫画。一言で言えばその通りなのだけど、この作品はその様な枠組みの遥か先を目指して物語を紡いでいる。おそらく本作はエンターテインメイトであると同時に、広い射程で「議論」を誘発することを目指しているのではないかと思う。
 それは主人公に降りかかる受難として、わたしたちが住むこの現実世界と同じ「差別」や「排斥」の問題が、民族間やキャラクターレベルでデフォルメして再現されている点から明らかだろう。理性的な登場人物が多いので、ある説に対して、また別の説を必ず置くことを常に意識しており、そうすることでフラットな視線で世界を概観させようとする試みを感じる。

 とはいえ、そこに説教臭さはない。読んだ人それぞれが自分と似た、あるいは身近にいる誰かを登場人物たちに見出し、「じゃあどうすればいいのかな?」そんな風に優しく考える機会を与えてくれる、そんな漫画です。

 色んな人に読んでほしいと思う。この世界が、いびつで、理不尽で、残酷で、どれだけ声を張り上げても解決しないあらゆる問題を孕んでいるという現実を描いているから。そしてそんな境界線のある世界で私たちは生きており、もしかしたらある程度“歩み寄る”ことで少しだけ何かが変わるのではないかという、作者の思いを感じるから。

 みんながみんな自分のなかに自分だけの「ものさし」を持っていて、それぞれが持っているものさしは必ずしも相手と同じじゃない。わたしたちはそんな世界に生きている。あたり前のことだ。あなたと、わたしが、異なっていること。その差異によって価値観や生き方の違いが生まれること。

 ではその「ものさし」がまったく理解できないものだとしたら、受け入れられないものだとしたら、わたしたちはどうすればいいのだろう。どうしたってわたしたちは独りで生きていくことは出来なくて、価値観の異なる誰かと一緒に同じ世界を生きているというのに。
 これはある少年の目を通して、そんなモザイクの様に多様な色合いを持つ世界を見つめた漫画だ。そしてそこにいる隣人といかに折り合いを付けるか、その妥協点を追い続けていく物語だ。

 わたし自身がこの漫画の存在に気づいてなかった様に、誰かにとっての大事ななにかをスルーしながらわたしたちは生きている。でもそんな中で、少しでも相手を理解したいと思う気持ちから世界は広がっていくんじゃないかな。そうだといいなあと思うのだ。

 ああ、あと個人的にはこの漫画、主人公シオがいかに司書たちを篭絡していくかという穿った目線で読んでます。さながら“ときめきシオフミス”。そういいたくなるくらい主人公のジゴロっぷりがすごいです。次巻以降も男女問わずあらゆるキャラクターが彼に攻略されて行くことだろう。というわけで(というわけで?)本好き、図書館好きにおすすめの漫画なので気になったらぜひどうぞ〜。

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