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富士山登山鉄道構想について

 令和3年(2021年)の2月に、登山鉄道構想の検討資料が用意されていますので、その内容をもとに整理しています。

 登山鉄道構想の主目的は、富士山の世界文化遺産登録に関して、イコモスから指摘されている緒課題の解決です。
・適正利用:収容力を踏まえた来訪者管理
・環境保全:自家用車・観光バスの排気ガス汚染抑制と、路面(山体)負担軽減
・景観改善:吉田口五合目の諸施設や周辺の外観・意匠等の景観調和


登山鉄道構想の仕様

2021年(令和3年)2月付構想資料 より、想定数値を抜粋
・定員 120人/車両(全席座席)
・車両寸法 30m/車両 を 最大2連結
・最高速度 40km/h(上り)、25km/h(下り)
・所要時間 約52分(上り)、約74分(下り)
・登坂性能 8.8%
・鉄道延長 約28km、富士スバルラインの路面に軌道を敷設
・運航車両 48両
・年間利用者数 約300万人
・運賃(往復) 10,000円
・富士スバルラインへの一般車両の通行は全規制。

仕様に基づく試算

ー 往復 126(52+74)分 ≒ 2時間強
- 300万人/年想定より、ピーク時最大 60万人/月と仮定すると、最大 2万人/日 ÷ (120人×2両) = 84 便/日 必要
- 運行 03:00-20:00 なら 17時間、 (17 × 60分) / 84便 = 12分間隔で出発
- 12分間隔のとき、1編成往復 146分 (126分走行+20分停留)とすると、 146 / 12 = 12.2 ・・・ 13 +1 = 14編成(28車両)で運行可

1.時刻表イメージ

12分間隔、03:00 - 20:00 運行、86便往復、14編成(28車両)、20,640人/日

■ 参考
・ 5合目への観光客数は 231万人(2012年) → 506万人(2019年)

クリアすべき課題

2021年(令和3年)2月付構想資料 p.33-p.38に挙げられている課題、ほか

1.技術的課題

1-1.厳冬期を含めた登坂性能及び制動性能
・LRTで、8.8%勾配を登れるのか・下れるのか、28km区間を連続勾配走行できるのか、極低温下で走行できるのか。
・急勾配で停止した場合に再起動(発進)できるのか、連続勾配を一定速での安定運行できるのか、勾配を一定距離内で制動・安全停止できるのか。

1-2.架線レスシステムの安定給電
・蓄電池や燃料電池を搭載する「バッテリー等車載方式」にした場合の、山岳地での冷暖房使用条件下や低温・降雪条件下での安定稼働ができるのか。
・給電線またはワイヤレス送電コイルを軌道に設置する「地表集電方式」にした場合の、積雪時の給電ができるのか。

1-3.橋梁・路面の耐力
・9か所の橋梁や道路面の、車両総重量、活荷重への耐力は十分なのか。車両重量+定員乗車での最大荷重に対し耐えられるのか。

2.環境的課題

2-1.雪崩・落石
 雪崩による道路破損や、落石による車両事故が起きていることへの対策。
2-2.積雪・凍結
 冬期は路面が凍結し、2m程度の積雪もあり得ることへの対策。
2ー3.土砂流入・落葉
 火山性の堆積物・小石がレールの溝に流れ込み、落葉期にはカラマツなどの葉が流れ込むことへの対策。
2-4.落雷
 夏季を中心に落雷の発生が多いことへの対策。
2-5.動物との衝突
 シカとの接触によるロードキル、車両事故が起きていることへの対策。
2-6.火山噴火
 緊急時の避難方法、避難場所。

3.ほか(思いつく課題)

3-1. LRTでアプト式が使えるのかどうか(アプト式を導入せずにLRTが富士山の勾配と砂石流れ込む路面を登り下りできるのかどうか)
3-2. 緊急車両(自動車、マイクロバス、バイク等)の流入時の鉄道オペレーション
3-3. 冬季の降雪時の除雪(自動車?、LRT車両?)オペレーション
3-4. 土砂崩落時の障害物除去オペレーション
3-5. 軌道の維持清掃オペレーション
3-6. 乗客に急病等発生時のオペレーション
3-7. LRT車両(定員120名)の車両荷重に、道路面(山体)が保てるのかどうか。

現行の確認

1. 富士スバルライン

・延長 約29.5km、標高差 約1200m、平均勾配 4.1%
・通行料金 普通車 2100円(往復)、バス 4780円(往復)
・マイカー規制 7月中旬~9月初旬は、マイカーの通行禁止、駐車料金(1000円)
・営業時間(R5.9現在)
- 冬期  9:00 - 16:00(下り - 17:00)
- 3-4月  9:00 - 17:00(下り - 18:00)
- 4-5月  6:00 - 18:00(下り - 19:00)
- 6月  3:00 - 20:00(下り - 21:00)
- 7月上  3:00 - 20:00(下り - 22:00)
- 7-9月  3:00 - 18:00(下り - 20:00)<マイカー規制>
- 9月下  3:00 - 20:00(下り - 22:00)
- 10月  3:00 - 18:00(下り - 19:00)
- 11月上 4:30 - 17:00(下り - 18:00)
- 11月下 9:00 - 17:00(下り - 18:00)

2. シャトルバス(現行)

・所要時間:登り45分、下り35分
・バス運賃:大人往復 2500円(小人半額)
・29 便/日 運行(2023年7月15日 ~ 9月10日)

3. シャトルバス時刻表(現行)

30分間隔、03:30 - 18:30 運行、29便往復、4編成?、1,300人?/日

4.タクシー

所用時間:登り約 45 分
料金:片道約 13,100円(有料道路料金含む)、深夜早朝は2割増し。

バス輸送試算

富士スバルラインを観光バス・タクシー含め、全て車両規制して旅客輸送をシャトルバスのみにする場合。

1. 連節バス

・定員:2連バスで 120 名前後(ただし立席を含む)。全席座席にするには、3連バスが必要か。
・所要時間は、現行シャトルバスに倣えば、登り45分、下り35分
・20,000人 / 120 人 = 170便必要
・170 便を 6 分間隔とすると、連節バス 18 台で運行可。
・下りは回生ブレーキで発電し充電。電気バス・水素バス導入。

2. 連節バス時刻表イメージ

6分間隔、03:00 - 20:00 運行、170便往復、18編成、20,400人/日

3. バス輸送の課題

3-1. 電気バス・水素バス(燃料電池バス)の導入を考えた場合、富士山の勾配を登り下りできるのか。
- 電気バス(EVバス)は、すでに導入され実走している。
- 水素バス(燃料電池バス)は、まだ。
3-2. 1編成に、120席程度の着座席を確保できるのか。
- 半分の座席なら、2倍の増便、1/2 の発車間隔。

大井川鉄道井川線 (勾配9%)

・日本で唯一のアプト式鉄道:歯車を使って急坂を登る特殊鉄道で、1000分の90(1000メートル進む間に90メートル登る)=9%の勾配に対応。

■ 鉄道なら、歯車(ラックレール)に小石や落葉は溜まらずこぼれ落ちるが、LRTの場合、路面軌道の「溝」内で、歯車周辺に吹き溜まらないか。

リンク

富士山登山鉄道構想検討会 - 山梨県
富士山世界文化遺産協議会作業部会 - 富士山世界文化遺産協議会

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