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インテリジェンスと民間クラウドサービス(RUSIの記事)

写真出展:Mudassar IqbalによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/kreatikar-8562930/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=3406627

 2021年11月5日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、イギリスのインテリジェンス機関がアマゾンとクラウド契約を締結した件について論じる記事を発表した。内容は、クラウドサービス利用上の課題と今後必要とされる取り組みを概観するものである。日本でもデジタル庁のAWSのクラウドサービス契約について批判があるが、一歩引いた冷静な視点から論じられた有用な記事であることから、その概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(UK Intelligence Agencies and the Commercial Cloud: What Does It All Mean?)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/uk-intelligence-agencies-and-commercial-cloud-what-does-it-all-mean

1.RUSIの記事について
 ・世界のデータが2年ごとに2倍に増加するようになっており、インテリジェンス機関が取り扱う情報が増大している。この流れを受け、インテリジェンス機関は古いシステムに依存していては今後のインテリジェンス活動に支障をきたすと認識しており、大規模なデータを取り扱う技術を取り込もうとしている。英国政府通信本部(GCHQ)のフレミング長官は、「中国がAI能力で先行しつつある」と表明しており、こういった状況に対処するため、データの蓄積や組み合わせにより十全なインテリジェンスの作戦を立てるイノベーションが求められるようになっている。
 ・ただクラウドサービスの安全性については懸念があるが、それはサービスプロバイダーのリスク管理にかかっている。つまり、ネットワーク設計や細分化、イノベーティブなセキュリティ対策への投資、最新技術への対応、人材育成、コンプライアンス、データの保管方法など、多岐にわたる項目について十分に対処する能力を有していなければならないのである。
 ・安全保障のためにAIと機械学習を組織的に取り込んでいくには、大規模かつ安全なデータセンター、データ処理のコンピューター導入などが必要であるが、こういった設備を自前で整備するのではなく、民間からリースすることが可能になっている。民間サービスの利用には短期的な利益があり、自然言語処理、機械翻訳、音声認識などで作業が効率され、インテリジェンスの職員がより高度な業務に専念できるようになる。
 ・クラウドサービスの利用により、リアルタイムでの多地点のデータベースの利用が可能になり、即断即決が容易になる。個々の小規模クラウドを利用して統合していくことにより実現することも可能であるが、AWSほど高度なものではなく、開発資源も限られており、変化への対処が困難になることが予期される。ただ、クラウドサービスの利用は良い面ばかりではない。まず国内企業へのイノベーション投資が減少することが予想され、一つの企業に依存することでベンダーロックインなどの危険性がある。
 ・今回の契約は劇的な変化と言うよりも、ここ20年程度の長期的なインテリジェンスインフラの取り組みの集大成である。ただ、イギリスのデータ主権に関する懸念があることも確かである。現在知られている情報では、機密情報はイギリス国内で保存、保護され、アマゾン側がアクセスできないとなっていることから、このような危険性が一定程度軽減されるだろう。本来であればイギリス国内の企業に委ねることで安全性を確保するべきであるが、残念ながら国内には事業を担える企業がなく、育成するにしてもコストや質の面で及ぶべくもない。この問題は短期的に解決することはできないのである。
 ・インテリジェンス機関への監視についても懸念事項である。クラウドサービスは現在の規模を拡張するものであり、新しい機能を付与するものではない。収集されるデータの分量が必ずしも大きく変化するわけでもない。従って、現在のインテリジェンス監視機構が十分に機能すると思われる。ただ民間企業の評価については、継続的な取り組みが必要になる。情報通信事業者と同様に、リスクの高低に応じて安全性等を定期的に見直していく必要がある。
 ・またアメリカでは、議会が産業と協調して対処することとしており、包括的なルール、ガイドライン、データ生態系を構築する技術要件の設定を行うこととしており、イギリスもこの動きに倣うべきである。クラウドサービスの採用に関しては、「構築した後は、どこでも展開可能にする」という理念がを中心に据え、ベンダーロックインなどで相互運用が阻害されることが無いよう、監視していくことが重要である。

2.本記事についての感想
 保守系論者が非常に厳しく批判している、アマゾンのクラウドサービスの利用である。イギリスも日本と似たような問題意識を抱いているようで、非常に参考になるのではないだろうか。イギリスはリスクを取る行動を好むところがあり、ここが日本と大きく異なっている。文化的差異だけでなく、政治家の力量と言うか胆力というものを感じさせる。大英帝国を築いた礎のようなものを感じる。
 これに対して日本の議論は非常に稚拙かつ非生産的に感じる。国粋主義的言説が受けるためか、保守派がすぐに二者択一的な議論を展開し、日本企業に投資するべきと言った発言で盛り上がってしまう。確かに懸念があることは事実であるが、日本の国内企業で信頼できる企業がどれだけいるだろうか。また、中国とズブズブではない企業がどれだけあるだろうか。少し考えれば短期的かつ容易な解決策がないことぐらいわかりそうなものであるが、冷静な言説は面白みがないのか、一向に広まっていかない。
 ではどうすればよいのかと言うと、今は経験を積み重ねることだと思う。成功も失敗も含めて検証の材料とするべきであり、その過程で必要なこと、対処するべきことなどの課題が見えてくる。目の前の小さな失敗に目くじらを立てず、10年、20年という長期的な期間で成功を勝ち取るというぐらいの気構えで対応していかなければ、日本にとって最善の解決策を見出すことはできないだろう。

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