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極超音速兵器の役割(RUSIの記事)

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 2021年10月15日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が、極超音速兵器が安全保障に与える影響について論じる記事を発表した。内容は、極超音速兵器開発の現状、現実とその認識との齟齬及び安全保障上の意味について概観するものである。自民党総裁選などで言及されたことから、にわかに注目を浴びているが、その安全保障上の意味について冷静に論じた優良な記事であることから、その概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(Hypersonic Weapons: Fast, Furious…and Futile?)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/rusi-newsbrief/hypersonic-weapons-fast-furiousand-futile

1.RUSIの記事について
 ・ロシアが最新の極超音速巡航ミサイル実験を実施したニュースにより、極超音速兵器がにわかに注目されるようになっている。これはICBM以来の重要な技術革新であり、その速度は核抑止に風穴を開け、2020年代中盤には戦略的不安定性をもたらすものになると見られている。速度と政策さを兼ね備えた性質を持つゲームチェンジャーと喧伝されているが、その可能性は未知数である。
 ・巷間言われている極超音速兵器の性能は技術的に不可能であり、政治家はその性能を過大評価しがちである。核抑止に与える実際の影響はそれほど大きくないと考えられるが、こういった宣伝文句にはそれなりに軍事的な価値があり、中国やロシアはアメリカの弾道ミサイル迎撃システムへの抑止になると考えている。
 ・極超音速兵器には、現実的に様々な問題がある。その速度により、政策決定の時間が極端に短くなることになるが、ICBMとそれほど変わることはない。また高度や飛行軌道の組み合わせにより迎撃不可能と見られているが、標的に近づくほど速度が大幅に低下し、障害物を回避しながら進むと実際の速度はマッハ5以下となってしまう。このことにより、軌道のコントロールが大幅に制限され、大陸間で十分な威力を発揮できるのか否かについて疑義が呈されている。
 ・また正確性にも難がある。摩擦熱等によりミサイルの表面温度が2000℃以上となり、ナビゲーションシステムを混乱させるイオンガスが発生する。ICBMですら直径120mの誤差が発生するのであり、更に飛行に伴って発生するプラズマのため、センサーやドローンに検知されてしまう。極超音速兵器も同様であり、低高度の大気を飛行する際に課される物理的制限により、容易にセンサーで検知されてしまうことになる。
 ・現実に問題を抱えているものの、宣伝レベルの話では事情は異なっている。極超音速兵器が実現されれば、THAADやイージス艦のような既存のミサイル迎撃システムを凌駕することができると言う認識を広めることができる。またその速度によりレーダーが検知されることなく飛行することが可能であり、相手が対処する前に攻撃することができると思わせることが可能になる。
 ・安全保障専門家の間でも、極超音速兵器についての見解が分かれている。既存のシステムが極超音速兵器に対処可能となるよう改修されたとしても、ごく狭い地域しか防衛することができず、大陸全体の防衛は非常に困難になることは確実である。
 ・2019年12月に、ロシアは初となる極超音速兵器を配備したとされており、中国は2020年に配備しているが、アメリカは2023年になる見込みである。またロシアは2000km飛行する間にマッハ10にまで達するミサイルを開発しており、中国は核兵器を搭載することができるミサイルの実験を実施している。ロシアは、大陸間弾道ミサイルでの優位性は確保できないものの、戦略上の保険として取り組む価値があるとみなしている。中国は、南シナ海や台湾海峡でアメリカの防衛をけん制するために開発に勤しんでいる。
 ・アメリカは中国やロシアに対抗して予算を増額しているが、国防総省は公式にプロトタイプの開発についてのみ発表しており、調達事業はないとしている。今後、正式な調達事業が示されるだろうが、核兵器搭載可能な極超音速兵器は放棄しているとしている。(奇妙な噂が付きまとっているが)また陸海空各軍においての開発は進められており、国防宇宙機構の一環として、極超音速兵器の防衛システムも開発されている。
 ・極超音速兵器を巡る安全保障観は、非常にゆがんだものになっている。技術的には進歩的であり、革命的ではないが、政治家が過大評価することにより軍事競争に拍車がかかる恐れがある。このような状況では、極超音速兵器は兵器制限合意に含められるべきであり、新たなSTARTなどにより兵器数を制限することが一つの選択肢になるだろう。ただ、大陸間軌道の50%以下しか飛行しない兵器は新しいSTARTの制限対象にはなっておらず、2026年に失効することを考えるとほんの一時的なものにしかならない。
 ・実験を禁じるのも選択肢だが、これは非現実的である。非公式な方法であれば、自ら実験事業を縮小する、事業を停止するなどの方法があるが、相手がこれに従うとはかぎらない。相互の信頼構築が重要になるが、相互に実験の監視団を派遣する、定期的に3か国で防衛対話を実施する、兵器を増強しない、共同で研究するなどの方法がある。いずれにせよ、極超音速兵器はその能力がまだはっきりしていない兵器であるが、認識のゆがみを生むものであり、適切に対処しなければ軍拡競争に発展し、安全保障環境が悪化することになるだろう。

2.本記事についての感想
 自民党総裁選で高市候補が言及したことから、若干話題になった兵器である。要するにすさまじい速度を持った兵器と言うことであるが、期待や夢物語のようなものが先行している印象があり、冷静な評価がなされていないようである。
 完成すれば確かに強力な兵器にはなりえるが、その道のりは非常に困難なものになるだろう。まず日本国内では非常に危険な兵器と見なされ、開発そのものが困難だろう。完成したとしても、非常に高額な兵器であり、簡単に使用することはできず、更に一度でも見せてしまえば手の内を明らかにしてしまうことになる。
 サイバー防衛が脆弱な日本においては、コントロールを奪われる可能性が高く、折角開発してもかえって有害なものになってしまう可能性もある。夢のあるニュースはいいのだが、兵器を開発するなら、できることややるべきことに取り組んでからにしてもらいたいし、国民も過度な期待をするべきではない。

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