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中国の技術戦略に対抗する政策を変更するべき(BROOKINGSの記事)

写真出展:Military_MaterialによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/military_material-5427301/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=2461099

 2022年1月6日にTHE DIPLOMATは、中国の巨大技術企業規制に関する記事を発表した。内容は、今年9月に施行されたデータセキュリティ法及び個人情報保護法の影響を概観するものである。中国についての見方及び政策を修正していく時期に入っていることが良く分かる内容であることから、参考としてその概要について紹介させていただく。

↓リンク先(Beijing’s ‘re-innovation’ strategy is key element of U.S.-China competition)
https://www.brookings.edu/techstream/beijings-re-innovation-strategy-is-key-element-of-u-s-china-competition/

1.本記事の内容について
 ・一般的に中国は先進国の技術を盗み、真似をするとされており、海外の技術を入手することが中国の主要な戦略であるとされてきた。しかし技術の入手は戦略の一部でしかない。中国は資本主義的、自由民主主義的体制に依らずにイノベーションを確立する社会体制を構築するよう取り組んでいるのである。
 ・中国は、国営企業と民間企業をつなげた生態系を構築する政策を推進している。バイドゥ、アリババ、テンセントは、国家からの支援と民間部門のイノベーション環境や資源をバランスよく活用することにより、世界的な企業に成長した。バイオテクノロジーのBGIも、民間部門の投資と政府の補助金・支援を活用して、遺伝子組み換え技術で世界覇権を握っている。
 ・中国の政府ガイダンス基金(GGFs)は、この生態系構築の基礎となっている。この基金は中国共産党の産業政策を推進させる産業に財政支援を行っており、AIや半導体のような戦略的技術への投資、国内の都市への企業誘致などに活用されている。また、長期的かつ安定的にスタートアップ企業にも投資しており、技術開発から商用化までの「死の谷」を超えることを支援している。
 ・長期にわたる大規模な政府支援事業も多く、1997年に開始された国家基礎研究事業(973件)、1986年に開始されたハイテク研究開発事業(863件)があった。2009年には、国家基礎研究事業は123件の新しい科学事業と424件のその他の事業を支援している。ハイテク研究開発事業は、スーパーコンピューター天河一号の開発支援を行っていた。その他中国は高等教育改革も行っており、北京大学と清華大学は、アメリカのニュース世界報告のランキングで100位以内に入っている。
 ・中国はイノベーションのために国内の資産を積極的に活用しており、中でも顕著な例は、WeChatだろう。単なるメッセージアプリとして登場したWeChatはデジタル社会の象徴となっており、オンラインショッピング、支払い、ビザの申請までできるようになっている。フィンテックの分野の進展も目覚ましく、アントフィナンシャルやJDファイナンスの提供するサービスにより、オンライン支払が一般的となっている。2019年の調査では、95%の中国のオンライン消費者が、平均1日に4件オンライン取引を行っており、少なくとも3か月に1回モバイル支払いを行っている。(2018年の調査では、アメリカ人の20%しかモバイル支払いをしたことがない。)
 ・中国のスマートシティの市場は1兆ドル規模であると見込まれており、3つの組織(ファーウェイ、中国科学院、国家電網)がスマートシティの特許を独占している。2020年11月時点の国家電網の特許数は7156件で世界一であり、二位のサムスンの3148件の2倍以上である。
 ・ただ、中国のこういった試みが全ての分野で成功しているわけではない。中国の先端半導体製造企業の中芯国際集成電路製造有限公司(SMIC)は、最先端の半導体を量産できていない。SMICは生産機器を入手することができておらず、アメリカの輸出規制により半導体設計ソフトや生産機器が停止され、ファーウェイハイシリコンも事業が大幅に制限されている。
 ・中国は、このことを十分に認識している。2018年の教育省の記事によると、35の重要技術を海外に依存していると指摘している。その技術には、高耐性ガスタービン、高圧ピストンポンプ、高品質ベアリング、フォトリソグラフィ装置、中確定産業ソフトなどがある。
 ・中国は統制や規制が厳格であるが、イノベーションを創出するだけの環境を整備できている。もし自由主義や民主主義的体制でなければイノベーションを創出できないという考え方から脱却できなければ、中国の戦略的意図を見誤ることになるだろう。今求められていることは、このような状況認識に基づいた、新たな取り組みである。

2.本記事読後の感想
  今回の記事は、CSET(安全保障及び新興技術センター)が紹介している記事である。CSETはCSISと同じようにジョージタウン大学関係のシンクタンクであり、やや民主党寄りの主張が多い。今回の単純な対抗措置ではなく別の方法を模索するべきという提言は、一見バランスが取れているように見えるものの、中国に融和的とも捉えられ、保守系論者にとっては親中的に見えるだろう。特に今回は現状分析に留まり、具体的な提言がなかったことから、こういった要素が垣間見えることは確かであるが、技術の問題を単純な競争関係と捉えたり、これまでの経済犯罪や経済スパイの取り締まりのような手段だけで防止できると考えることは望ましくない。
  技術については公開情報だけでも優れたものが多く、企業が保有する情報の多くは正規ルートで入手可能であることを考えると、情報の流出を抑制することは困難である。また中国の研究開発環境は非常に優れており、先進国でもこれだけの環境を用意することがほとんどできないことから、単純にイノベーション競争でも対抗し得ない可能性があることを考えるべきである。
  当面の間、民主主義陣営にできることは、各国で連携することであろう。独裁的体制の国家は表面的な連携は可能であるものの、相互不信からファイブアイズのような連携が不可能である。中国が半導体で成功できないのは、技術に優れた国々と有効な連携ができないためである。1国だけで駄目なら、複数の国々で対処するのは定跡である。クアッドのような枠組みが今後大きな影響を及ぼすことになるだろう。  

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