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民間企業とロシアへの電子機器輸出規制(RUSIの記事)

写真出展:Ioannis KarathanasisによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/panals-3111125/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=4570995

 2022年8月19日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ロシアの兵器に利用されている電子機器の輸出規制と民間企業とのかかわりに関する記事を発表した。内容は、先日公開されたロシアの電子機器に関する報告書の分析に基づき、民間企業がどのような形で電子機器輸出規制に関わることが可能であるのかについて問題提起するものである。
輸出規制の困難さが良く分かる内容になっており、今後の経済安全保障の動向を探るうえで参考になると考えられることから、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Can the Private Sector Help Cut Russia’s Silicon Lifeline?)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/can-private-sector-help-cut-russias-silicon-lifeline

1.RUSIの記事について
 ・先日発表された電子機器に関する報告書により、ロシアの西側諸国への電子機器依存が明白となった。しかしこのことは輸出規制が有効に機能していないことも示しており、規制をかいくぐって調達することが可能な状況となっている。このため、各国政府及び民間企業によるより実効性のある取り組みが必要である。
 ・ロシアはKGB第一総局の工作員により最新技術を入手してきた歴史があり、巧みに規制を回避しながら、第三国経由で物資を確保してきた。対して各国政府は各国単位で独自の輸出規制で対処してきており、多国間の枠組みで協調する場合であっても、友好的でない国家が含まれている、規制内容を調整しきれない、情報の共有が不十分などの理由から、有効な取り組みにはなっていない場合が多い。
 ・また現代の技術は軍民両用であり、たとえ軍事専用のものであっても民間部品で代替可能である場合も多い。このような場合、規制の対象外品であっても脅威になりえるのであり、技術の特定が非常に困難である。その他の問題として、経済と安全保障のバランスのとり方があり、経済への影響、安全保障上の有効性なども考えなければならない。
 ・ロシアの調達先として選択されているのは、取引先を十分に調査する能力がない、厳格な手続きを持たない企業が多い。電子産業は取引先が限られていることから、最終販売先を十分に認識しないまま一部な企業と取引を繰り返している。
 ・このような状況下で重要なことは、法的枠組みを超えた対応である。例えば、輸出規制にある程度の幅を持たせるという対応が考えられる。対象外の製品であっても、軍事転用される蓋然性が高いと予見されるものについては免許を必須とすれば、柔軟な対応が可能となる。
 ・その他重要なものとして、金融部門の対応がある。ブラック企業のリストは主に輸出企業向けに作成されているが、銀行などの金融部門が活用しやすい形式とすることで、最終購入者を有効に特定できるようになる。アメリカのレッドフラグ指標はこの一例である。またコンプライアンス研修、企業相談、非政府組織の活用などもあるが、重要なことは今まで違法取引に関わったことがない企業や、やる気のない企業をどのように巻き込んでいくかである。いたちごっこのこの状況下においては、政府ではなく企業が中心とならなくてはならない。

2.本記事についての感想
 今回の記事は問題提起に留まっており、具体的な提案がほとんどないのが残念だが、このことは有効な手段がまだ存在しないということをも意味している。政府ができることは規制対象製品の列挙やブラックリスト企業の公表程度であり、対応の中心はどうしても企業にならざるを得ない。
 日本政府は機微技術を十分に把握する機能を持っておらず、企業や大学も政府に対して必ずしも協力的でないことから、この手の対応は出遅れている。経済安全保障担当大臣が設置されたが実際の手足はほとんどないことから、経済産業省が中心にならざるを得ず、官僚組織に特有な多大な時間を要する業務になるだろう。
 高市新大臣に期待したいが、手足がない中でどれだけ有意な人材を内閣府に集められるか、どの程度予算を計上するのかが当面の課題である。こういった安全保障の対応は1日にしてならずであることから、辛抱強く待ちながらも進捗については注視していきたい。

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