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ロシアの兵器と電子機器

写真出展:WikiImagesによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/wikiimages-1897/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=63033

 2022年8月8日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ロシアの兵器に利用されている電子機器の分析に関する記事を発表した。内容は、ウクライナで回収されたロシアの兵器を分析結果から、西側諸国の電子機器の使用状況、ロシアの兵器生産の国産化状況、輸出規制の在り方と今後の展開を概観するものである。
 今回の記事は報告書の概要であり、本格的な内容については別途取り扱う予定であるが、おおよその内容と結論が分かる内容となっている。今後のロシアの動向を探るうえで参考になると考えられることから、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(SILICON LIFELINE WESTERN ELECTRONICS AT THE
HEART OF RUSSIA'S WAR MACHINE)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/special-resources/silicon-lifeline-western-electronics-heart-russias-war-machine/interactive-summary

1.RUSIの記事について
 ・2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、RUSIはウクライナで回収されたロシアの兵器の実地分析を進めてきた。専門家の協力の下、現在まで27の武器や装置を分析し、少なくとも約450点に上る、アメリカ、ヨーロッパ、東アジア企業が生産している超小型電子機器を発見した。
 ・これだけ多くの海外製品が発見されたという事実は、ロシアが先端的な部品を海外に依存しているという何よりの証拠である。ロシアは一貫して経済制裁に対抗するため、兵器や重要部品の国産化政策を推進してきたが、この試みは成功していないようである。
 ・450の部品のうち、317はアメリカ企業の製品だった。その他は日本、台湾、スイス、オランダ、ドイツ、中国、韓国、イギリス、オーストリアなどの製品だった。(詳細な内訳については、表1のとおり。)

・今回の分析によると、ほとんどの部品については56のアメリカ企業により生産されたものであり、たった10社の製品が200点にも上っている。もっともロゴが入っているからと言ってそれが本物であるとは限らないが、兵器システムにおける役割やロシアの海外依存体質などを総合的に勘案すると、本物であると考える方が妥当である。
 ・今回の分析において最も多く見られたのは、ダラスに本社を置いているテキサスインスルメントの製品であり、合計で51点に上る。製品が使用されていたものは、神風ドローン「KUB-BLA」、E95M 標的ドローン、オルラン10無人偵察機、無線機などだった。またKH-101巡航ミサイル、9M727イスカンデルミサイルにも使用されていた。
 ・約450点のうち18%に相当する約80点については、軍事システムに利用されると考えられる場合、アメリカ政府から免状を受ける必要があるが、2014年のクリミア侵攻前から定められていたものである。軍事転用可能と見なされない場合は輸出管理規則99
扱いとなり、2022年のウクライナ侵攻前までであれば、ロシアへの輸出に免状は必要ない。(輸出管理規則99は、北朝鮮、キューバ、シリア向け輸出のみが規制対象となる。)最も、輸出企業は軍事転用されないように管理することを求められるが、それでもロシアの兵器に多く用いられている。このことはフロント会社など経由で調達されているないしは、転売の最終段階で軍事転用されている可能性を示唆している。またロシアはソ連時代からインテリジェンス機関を通じて、西側諸国の先端技術を入手してきており、KGBの第1総局T局はこの一例である。
 ・アルタナアトラスの貿易データによると、2017年から2022年にかけての超小型電子部品及び関連製品の取引件数は、約100万件に上っている。(詳細表2参照)

 中国、アメリカ、ドイツ、イギリスなどの輸出企業が関わっていることが判明している。またよくある手口として第三国経由の輸入があり、香港のEMC SudがFSBへの密輸疑惑でアメリカ財務省から制裁を受けた。
 ・ロシアのウクライナ侵攻は想定通りの展開とはなっておらず、兵器に多大な支出を要している。今回の分析でロシアの海外依存は明白であり、重要部品を国産化できておらず、代替製品の調達先も確保できていない。今後ロシアは経済制裁を回避する手段を模索すると考えられることから、多国間の枠組みによる輸出規制が重要になるだろう。

2.本記事についての感想
 一部でロシアが西側諸国の製品を利用している件について話題になっているようで、若干煽り立てるような記事も出ている。ただ私としては、価値観に立ち入るつもりはない。意図してロシアにこういった機器を密輸する業者がいたとしてもそれは全体の中の少数派であり、戦局を決定付けるだけの役割は果たせないだろう。また経済制裁回避は持続困難なものであり、継続性にも疑問が残る。一部に不心得者がいたとしても、それが全てであるようなイメージを抱くべきではないだろう。
 今回の記事で明らかになったことは、正規ルートでの調達をいかに取り締まるかが重要であるという事実である。第三国経由での調達についてはなかなか有効な規制手段がなく、民主主義陣営に敵対的な国に輸出されてしまえば、情報は途絶えてしまう。多国間の輸出規制枠組みに多くの国を取り込んでいく必要があり、そのためにはある程度の利益を提示しなければならないだろう。スイフトからの締め出しと言った脅迫的手段では、中国などにつけ入る隙を与えてしまうことから、ブロック経済圏を確立する、なるべく利益共同体を守るといったような融和的な政策が必要になるだろう。
 また日本に目を向けると、こういった局面では、外務省や経済産業省が中心となるべきだが、今回の内閣改造を見るに肝心の司令塔の部分に難がある。高市経済安全保障担当大臣の力量に期待したいものの、手足は各省庁であることから無任所大臣の果たせる役割がどれほどあるのかは不透明である。日本の強みは、アジア各国などと割合友好的な関係を構築できている点にある。アメリカなどの西側諸国では入手できない情報も収集可能な場面も出てくると思われるため、クアッドやASEANなどの枠組みをうまく活用して欲しいものである。
 最後に本件についてはある程度詳しいことを記事にしている方がいることから、参考までご紹介させていただく。
「ロシア軍ドローンにソニー製ビデオカメラと斎藤製作所製エンジン 日本も露の秘密調達網を規制せよ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20220809-00309385

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