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中国のレガシー半導体生産能力と半導体輸出規制(CSISの記事)

写真出展:tasukaranによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/tasukaran-19084744/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=6226244

 CSISは2024年4月5日に、アメリカの半導体規制の改正に関する記事を発表した。内容は、10月17日に商務省安全保障局から発表された、新たな半導体規制について概観するものである。本質的な議論は中等品クラスの半導体にあるのだが、貧困な日本の言論空間ではこういった情報はほぼ皆無であり、真の意味で半導体の問題を理解することができない。今後の技術覇権を考える参考として、その概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Evaluating Chip Overcapacity and the Transatlantic Trade Tool Kit)
https://www.csis.org/analysis/evaluating-chip-overcapacity-and-transatlantic-trade-tool-kit

1.記事の内容について
  ・半導体を巡る問題において、今注目されていることは、中国の主流(中等品)半導体生産能力とその能力がもたらす問題である。2024年1月の米欧貿易技術委員会において、欧州委員会のヴェステジャー副委員長は、成熟した技術に関する生産能力と世界のマーケットに対し、環太平洋の国家は緊密に連携し対処してきていると評しており、アメリカ商務省産業安全保障局の成熟半導体評価の取組のような情報収集の取組を推進することを考慮している。2024年4月の米欧貿易技術委員会においては、欧米が連携して情報を収集し、早期警戒情報を共有する制度を創設する構想が示されるに至っている。
  ・中国との半導体覇権を巡る政策は、最先端半導体を中心に展開されてきた。2022年10月7日の輸出規制においては、14~16ナノメーター以下の半導体が安全保障対策の対象とされた。半導体及び科学法では、最先端ではない半導体、先端工場のうち最先端ではない半導体生産をしている工場などについては、安全保障上の規制が適用除外となっている。また最先端ではない半導体についての定義も曖昧であり、「基本的」、「成熟」、「レガシー」、「主流」といった文言が政治的な文脈において使い分けられていることからもわかるように、政治家・各国間でも半導体に対する理解は統一されていない。
  ・半導体及び科学法において、レガシー半導体は28ナノメーター以上のものとされているが、このサイズの半導体は家電から自動車まで幅広く使われており、米国の経済にとっても重要である。ただこの半導体への投資は重視されておらず、390億ドルのうち20億ドルしか予算が計上されていない。アメリカはこれら半導体の生産能力を欠いているが、中国と台湾は大きなシェアを占めており、20~45ナノメールの半導体では80%、50~180ナノメールの半導体では70%となっている。このような状況下においては、レガシー半導体への投資は不可欠である。
  ・レイモンド商務長官は、半導体及び科学法にて計上されたレガシー半導体向け予算20億ドルに加え、更なる予算を計上することを表明しており、対象となる4社が発表されている。BAEシステムズのマイクロエレクトロニクスセンターには3500万ドル、マイクロチップテクノロジーには1億6200万ドル、グローバルファウンドリーズには15億ドル、インテルには85億ドルが拠出されている。
  ・中国は、そのレガシー半導体生産能力を武器として使う危険性がある。考えられる問題としては、①中国依存を進めつつ輸出規制をする、②ダンピングにより各国の補助金政策の影響力を減退させる、③バックドアを設けた半導体を拡散させる、というものがある。2024年に入って、中国はレガシー半導体生産能力を向上させており、18もの生産工場建設が発表された。習近平主席は自立可能な半導体生産能力の確保を最優先課題としており、中でもアメリカやオランダのASMLなどの依存を軽減しようとしている。
  ・先進国側も中国に依存しない半導体生産能力確保に努めているものの、過剰な生産能力確保や過剰在庫も同様に危険である。半導体の歴史は、急成長と価格低下による減速を繰り返しており、更には過剰生産・在庫問題を把握できる情報も不足しており、同様の問題は現在でも起こっている。また規制対象となる半導体の追跡方法についても確立しておらず、完成品をベースに判定していることから、全てのレガシー半導体を把握することができず、結果として関税対象とする製品を決定することが困難となっている。
  ・中国の半導体生産能力に的確に対応するためには、やはり的確な情報が欠かせない。情報提供は民間企業に多大な負担をかけるものの、良い情報がなければよい判断はできない。また各国間の連携も必要不可欠であり、無分別に輸入品に関税をかけると、連携している国の製品にも間接的に悪影響を及ぼす可能性がある。情報共有の精度かは迂遠であるようだが、実際には最も近道なのである。

2.記事読後の感想について
  日本ではあまり話題になりにくい、中等品クラスの半導体についての話が中心だったが、皆さまはどのような印象を持たれただろうか。TSMCの熊本工場やラピダスに係るお花畑的なニュースが支配的な日本の言論空間に浸っていては、米中技術覇権問題の本質など理解できないということがわかるだろう。
  この問題は様々な課題が含まれている長期的なものであり、長い目で粘り強く対応していく必要がある。ただ日本人は総体として圧倒的に劣等かつ後進的であり、少しでもネガティブなニュースが出回っただけで右往左往して安易な政府批判でこういった政策をつぶしてしまうことになるだろう。たとえ国民が我慢できたとしても、半導体に携わる人間が卑しい政治家や官僚などが中心になっている限り、成功などおぼつかない。ただ民間企業を信じ、側面から支援するだけに留められれば希望はあるが、そのようになりそうにはない。
  ダメな日本人ができることは、せいぜい先進国・有志国の中で足を引っ張らないという程度のことだけであろう。中国に対する幻想を捨て、反中に舵を切る、これしかないのである。

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