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アメリカはデジタルガバナンスを先導せよ(2)(CSISの記事)

本記事は、前回のアメリカはデジタルガバナンスを先導せよ(1)(CSISの記事)続編である。前回の記事は、以下のリンクを参照。

1.記事の内容(2)について
  ・アメリカは長い間「基準の設定者」として外交を展開してきており、国際的に法の支配、責任ある政府、経済的規制などを実現してきた。中でもインターネットはアメリカのソフトパワーとして機能し、世界の民主主義化の原動力となってきた。しかし各国も独自の動きを見せており、アメリカにとって国益に資するデジタルガバナンスを構築するには、バイデン政権は2つのことに取り組むべきである。
   まず、超党派による議会からの支援を受け、デジタルガバナンスの原則を定義し、データ流通、信頼、プライバシー、安全保障について整理すべきである。超党派の支援によりイデオロギーの壁を越え、政権交代においても揺らがない価値観を提示することが可能となる。次に、環大西洋、環太平洋の同盟諸国と緊密に連携するべきである。EUの指導者層とデジタルガバナンスに関する国益や問題について共有し、重要な部分で差異を残しつつも、権威主義的体制を抑止する原則や価値観を模索していくべきである。

   そして、以下の戦略に基づいて外交を展開するべきである。
  ① 民間部門と連携し、国内の基準及び技術を発展させる。
    アメリカは、世界に通用するガバナンスモデルを構築するよう、前向きかつ建設的な構想を提示するべきである。このためには、国内の政治的な隔たりを埋め、リーダーシップを明確に示し、ソフトパワーの保護に努めるべきである。アメリカは、EUの大陸法的な指図的規範よりも受け入れやすい、コモンローの伝統に基づいた慣習的な規範を提示するべきである。
    国内における具体的な取り組みとして、まず議会は連邦レベルの個人情報に関するデータ活用規制に優先的に取り組むべきである。アメリカは伝統的にヘルスケアや金融部門での個人の自由としてプライバシーを保護してきており、デジタルデータも同様の考え方でイデオロギーを超えて取り組むことができるはずである。また、民間の最新技術の活用も有効であり、デジタルプライバシー技術法制を整備することにより、国家科学基金が民間に研究資金を拠出することができるようになり、NISTの基準策定を支援することにもなる。
    その他、AIの分野での規制についても同時に取り組むべきであり、第116期の超党派によるAI規制に関する議会決議を参考に、今後のAIガバナナンスの枠組みや、デジタルデバイドを回避しながら経済発展に結びつける政策を考案するべきである。


   ② 多国間の組織に積極的に尽力する。
     バイデン政権は、外交で多国間での取り組みに意欲を見せており、これはデジタルガバナンス基準の策定にとって望ましい姿勢である。G7、G20などの同盟国や友好国、地域においてはアジア太平洋経済協力などと連携し、デジタルガバナンスの基準を調整するべきである。
     2021年6月のG7サミットでは、民主主義の価値を守るために国際機関に働きかけること、デジタル技術基準に共同で取り組む声明が発表された。今年秋のローマにおけるG20サミットでは、2019年デジタル経済に関する大阪宣言に立脚し、自由で開かれたインターネットの提唱及プライバシーの保護を共同声明とするよう、会議を主導するべきである。更に、バイデン政権が計画している世界民主主義サミットにおいても、デジタル権威主義と対抗するデジタル政策の枠組みを共同で策定することが有効になるだろう。
     また国際標準化団体での取り組みも重要である。アメリカはITU議長選の候補支援を表明しているが、単なる意思の表明に留まらず、実質的な行動に移るべきである。対抗馬はロシアの候補であり、この選挙に敗北すると2026年までITUを支配されることになる。 

    ③ 途上国との貿易合意を通じて、デジタルガバナンスの基準設定を促進する。
     アメリカは、特にプライバシー及び国境間データ流通について、途上国と合意を取りまとめるよう尽力するべきである。米国・メキシコ・カナダ協定のデジタル貿易の章は、幅広いデジタルガバナンスに触れたアメリカ史上初の協定となっており、データローカライゼーションの禁止、個人情報保護措置の義務化などを含んだものとなっている。これは途上国との協定策定の基礎とすることが可能であり、貿易協定をテコとしてデジタルガバナンスの基準策定を促進することが有効である。自由貿易の原則に基づいて貿易協定を締結することにより、途上国の新興企業の育成を阻害することのない原則を確立することが可能になる。
     別の手段としては、実験的に拘束力のないデータガバナンス原則を模索することも有効であり、敷居を下げながら途上国を取り込んでいくことが重要になるだろう。

   ④ デジタル能力構築及び強化を促進する。
     ①から③の取り組みは、途上国のインフラが整備され、デジタルガバナンスに対応できる人材が育成されていなければ、十全なものとはならない。これまでアメリカは、各省庁がそれぞれの政策目標に応じて、途上国の政府職員に対して、行政、外交、安全保障等の研修を実施してきた。デジタルガバナンスの基準作りについてもこれまでと同様の取り組みが有効であり、経済の発展、民主主義の促進、エネルギーなどとの組み合わせでデジタル化の影響を認識できる人材を育成することが重要である。
    また、2019年に実験的に導入した、デジタル生態系評価の拡大も重要である。これは、デジタルの必要性、影響、プログラミングの理解を促進する事業であり、ケニアとコロンビアで先行して実施され、デジタル化促進に有用である。その他、サイバーセキュリティ能力構築事業も重要であり、かつては基金を活用して途上国の事業を支援してきたが、更なる財政支援により、効果的な事業にすることが可能になる。最後に、2020年中国影響力工作対抗基金は、デジタル規範策定及びデジタル規制を主な目的としており、中国のデジタル圏において強力に対抗していくべきである。

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