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見送る

いつも家の前の道路まで、
ご夫妻そろって出ている。
60代のご夫婦なんだろうと思う。

旦那様が、バス通りに出る交差点を曲がって
その後ろ姿が見えなくなるまで、
奥様がずっとお見送りされている。

旦那様が最後に振り返るのは、
道路を横切るための安全確認なのか、
それとも見送りに応えるためなのか。

どちらかはわからないけど、
通勤途上でその光景を見かけるたび、
ほわっと幸せな気分になる。

おそらく、もう数十年もあたりまえに
繰り返されてきたのであろう、その光景に。

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これはFacebookノート2019年に投稿したものだった。

あれからもう、この光景を見ることはなくなった。

いや。
その後、一度だけ見かけたのだけれども、旦那様のほうはだいぶラフな格好でお出かけになっていた。
奥様も変わらずお見送りはされていたけれども、なんだか送り出し方も違ってみえた。

ああ、定年されたのだろうなぁ。

なんとなく、昭和っぽい感慨にひたる。
「ごくろうさまでした」、と。

そしてそれからも今も、わたしはそのお二人の住んでおられるおうち――きれいにお掃除の行き届いた車庫、門扉まわりのおうちを横目に、通勤を続けている。
その時間帯にお見送りを見かけることはすっかりなくなったけれど、変わらずそこを起点に暮らしていらっしゃるであろうおふたりの幸せを、勝手ながら願っている。

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