くちびるに銃を

無くしたものがわからない。それなのに、胸に広がるこの焦燥感は何だ。
どこから来たのかわからない。それでも痛み、引きずる足には、長い道のりを歩んできた疲労が澱のように溜まっている。
「バカ野郎、死にたいのか!」けたたましいクラクションの音。俺のすぐ横をすり抜けていくセダンの窓から、若い男が身を乗り出して悪態をついた。
「見えねェのか、赤信号だろうが!」
目を上げると、確かに信号は赤だった。のろのろと辺りを見回す。水中で膜に包まれているようなぼんやりした思考が、次第にハッキリとした像を結び始めた。
スクランブル交差点のど真ん中で、俺は膝をついていた。雑踏の音が、全身を包む。俺は、疲れ切った体を起こし、歩き始めた。

どこに行けばいいのか、今はわからない。しかし、答えはこいつが知っているはずだ。俺は上着の内ポケットに忍ばせた鉛の塊にそっと触れた。

<続く>

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