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刈谷メソッド_20「カードのグラフィックデザインについて」

 ボードゲームのグラフィックデザインについて語るうえで、カードのデザインは丸ごとひとつ項目を使う価値のある重要な要素だと考えています。

 まずボードゲームのカードのグラフィックデザインに求められることですが、これは圧倒的に「遊びやすいデザインか」ということになるかと思います。そして「遊びやすい」というのはほぼ「見やすい」と同義です。

 その「見やすさ」は、手札と場札でも異なります。
 手札は当然ですが手に持ちます。手に持てば一番上のカード以外は大部分が隠れてしまいます。そうすると手に持ったときの見やすさを意識する必要があります。
 逆に場札は、普通場に出すことで機能しますので、場に出したときの見やすさが重要になります。

 それぞれ説明していきましょう。


手札のデザインの注意点(右利きと左利き)

 手札にするタイプのカードのグラフィックデザインで注意すべき点は、「ゲームに必要な情報を上部隅に集める」ということになるかと思います。
 またまたアークライト版『モンスターメーカー』(グラフィックデザイン:decoctdesign 出嶋勉さん)のカードで見てみましょう。

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「6D+2」とか「20」といった、ゲームに必要な情報がカードの上部にあるのがお分かりいただけるかと思います。
 逆に「戦士 ディアーネ」とか「迷宮」といったゲームにとっては意味の薄い情報はカードの下部にあります。

 またカード上部の右隅に集めるか、左隅に集めるかも重要な問題です。
 世の中右利きの人が多数ですので、世の中のさまざまなことが右利きに都合のいいように作られていますが、実は右利き左利きは手札のカードデザインの上でも重要なのです。

カードの持ち方の図

 写真を見ていただければお分かりのように、右利きの人は普通カードを左手で持ちます。右手はカードを引いたり、コマを動かしたりするのに使うからです。
 そしてそのとき、左手の親指は通常カードを左から右にスライドさせながら保持します。いま実際にやっていただけたら体感できると思いますが、決して右から左には動かしません。おそらくまず親指と人差し指で保持し、そこから中指方面(左から右)にスライドさせることで安定させることを無意識にやっているのでしょう。
 ですので右利きの方の場合、手札になるカードは左上隅に情報が集まっているのがもっとも検索性が良い、つまり遊びやすいということになります。

 ところが左利きの方にとってはまったく逆で、右上隅に情報が集まっている方が見やすいということになります。

 写真を見ていただければ、右利きの方が普通にカードを持ったときに得られる情報と、左利きの方が普通にカードを持ったときの情報量が大きく違うことに気付かれるかと思います。

 ただ一応フォローしておきますと、『モンスターメーカー』において「迷宮カード」と「キャラクターカード」「モンスターカード」では使われ方が違うのでこのデザインを採用したということはあります。

 ゲームルール上、「迷宮カード」の情報は非常に重要です。これが終了条件に直結するからです。
 ですが「キャラクターカード」は、自分が進んでいる迷宮にモンスターが置かれない限り、参照する必要がありません。いざモンスターが置かれてはじめて、「キャラクターカードの強さはどうだっけ?」という情報が必要になります。そのときはカードをずらして情報を確認すればいいのです。
 また「モンスターカード」もやはり、相手のダンジョンにモンスターを置こうとしない限り、参照する必要はありません。またこのゲームにおいては「モンスターで邪魔をする」という行為の意味合いが非常に大きく、それに比べればモンスターの強さは副次的です。

 上記のような条件を諸々鑑みて、「イラストを魅力的に見せる」こととどこで折り合いをつけるかをグラフィックデザイナーさんと探りながら、デザインを決めていくことになります。

 ちなみに『モンスターメーカー』で言いますと、「モンスターカード」の右上隅と左下隅に、数字が90度回転して入っているデザインも非常に特徴的ですね。
 まず「モンスターカード」が「迷宮カード」や「キャラクターカード」と向きが違う(長辺が天地で短辺が左右か、短辺が天地で長辺が左右か)理由ですが、これは「モンスターカード」が迷宮を封じる、移動をストップする存在だからです。
「迷宮カード」は、これを連続で出していくことで迷宮を進んでいることを表します。このとき「モンスターカード」も向きが同じだと、違和感が少ないですが、向きが逆になることで、迷宮に置かれた際の違和感と言いますか、「行く手をふさがれている」感じが非常に強くなります。
 そういう理由でこのデザインを採用させていただいたのですが、場札にするときはそれでよくても、手札に持つとき困ります。どっちが上でどっちがしたかも定かではありません。
 そんなわけで、どっちを上にしてもらってもいいように右上隅と左下隅に小さい数字が入っているわけです。また数字の向きを見れば、このデザインの意味するところは直感的に理解できるはずです。

 左利きの方にも右利きの方と同じ条件で遊んでほしいと考えれば、右上隅、左上隅、右下隅、左下隅に同じ情報を載せるのが一番です。トランプはそういうデザインになっているものも多いかと思います。
 ですが情報が多いカードや、イラストをなるべく大きく魅力的に見せたい場合など、非常に葛藤することになります。

 下の写真は『デカスレイヤー』の「キャラクターカード」になります(グラフィックデザイン:株式会社タンサン)。ゲームに必要な情報が左上(と左ソデ)に集まっていることが分かると思いますが、右上にも小さくではありますが、ゲームで使う数字が書いてあることに気付かれるでしょうか。

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 さまざまなデザイン案を検討する中で、最終的にわたしが左側に情報を集める案を採用した際、グラフィックデザインを担当してくださっているタンサンさんが、それでもどうしても左利きの人のために何かしてあげたいということで、採用された情報ウィンドウです。
 グラフィックデザインとしてはあまり美しくないのかもしれませんが、タンサンさんの左利きの方に対する愛情が形になったデザインです。


場札のデザインの注意点

 手札に比べ、場札はあまり注意することがありません。
 ようはみんなから見えやすければいいということになります。
 先の『モンスターメーカー』の「迷宮カード」で、上部右隅、上部左隅に迷宮の数字が書いてあるにもかかわらず、しつこく上部中央に大きく数字を載せているのは、場札になったときの見やすさを考慮してのものです。

 下の写真は『デカスレイヤー』の「キャラクターカード」と「宝物カード」「怪物カード」ですが、手札となる「キャラクターカード」と、手札になることがない「宝物カード」と「怪物カード」のデザインの違いがよく表れています。

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 特に「怪物カード」は情報が下部に集まっており、手札にするとまったく情報がつかめませんが、そもそも手札にすることがないわけですから、考慮する必要がないわけです。
 ちなみに「怪物カード」は怪物名が相当読みづらくなっていますが(左がクラーケン、右がドラゴンです)、これはタンサンさんの遊び心ですね。つまりモンスターがめくられて場に出たとき、モンスターの外見は分かるわけだけど、「この不気味な怪物は何だ?!」と戸惑う時間を演出したいという意図です。

 次に紹介するのも、タンサン株式会社さんがデザインしてくださった『のびのびTRPG ザ・ホラー』です(細かいことを言えば『デカスレイヤー』はタンサンの朝戸さんが、『のびのびTRPG ザ・ホラー』はタンサンの吉田さんが担当してくださいました)。

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『のびのびTRPG ザ・ホラー』も、すべてのカードを場にオープンして遊ぶゲームです。ですので手札にすることは考慮されていません。

『のびのびTRPG ザ・ホラー』のカードデザインで特徴的なのは、カードのフチですね。これが全部フチなしのデザインになっています。
 例えば『モンスターメーカー』はすべてのカードにグレーのフチが付いていますし、『デカスレイヤー』のキャラクターカードにも黒のフチが付いています。
 ですが『のびのびTRPG ザ・ホラー』にはフチがありません。
 フチがあると、そのぶんグラフィックデザインに使える面積が減り、窮屈になりますね。なるべくイラストを大きく見せたい場合など、本来フチはない方がありがたそうです。

 実はこれは、「混ぜる」か「混ぜない」かが重要な意味を持ちます。
 下の写真をご覧ください。

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『のびのびTRPG ザ・ホラー』の各種カードを積んだものですが……カードが裏を向いているにもかかわらず、横からカードの色がある程度わかってしまっています。
 もちろんカードの裏側の色が統一されていれば、もう少し分かりづらくはなりますが、それでも完全に分からなくなるわけではありません。

 シビアなゲームを遊んでいる中で、山札の次のカードの種類が分かってしまったらどうでしょう。興覚めになることは避けられません。といいますか、そもそもそんなカードではシビアな勝負ができません。

 一方『のびのびTRPG ザ・ホラー』は、「イントロダクションカード」「場面カード」「クライマックスカード」「光カード」「闇カード」を混ぜることがありません。
 それぞれ個別の山としては混ぜますが、「光カード」と「闇カード」を混ぜて使ったりすることはありません。むしろ分類する際スムーズな方がいいので、まったく違う方が良いくらいです。
 そういう話なので、『のびのびTRPG ザ・ホラー』はフチのないデザインでも大丈夫と言いますか、むしろフチがないほうが良いというデザインになっています。

 さらに付け加えるなら、ワーッと盛り上がるパーティゲームなどでは、カードのフチとかにはそこまで神経を配らないこともあります。そうしたゲームでは、ウラ向きの際のフチの色がどうとかいうことよりも、やはりイラストの見栄えを気にした方が良いことも多いからです。
 ただ本当に「次引く1枚が何かによって戦局が大きく変わる」みたいなゲームでは、山のフチを見つめればカードの種類が分かるといった仕様は絶対に避けるべきです。


 今回は写真を多用しながら基礎的な注意点を書かせていただきました。
 当然ながら、気にすべき点はもっと多岐にわたりますが、本当に重要なことは今回語ったようなことになるかと思います。
 つまり

・手札か場札かでデザインの考え方は変わる
・手札のデザインでは右利き左利きの見え方を意識する
・カードのフチは裏から見える

 ……といった話ですね。
 まとめると情報量は少ないな。
 あとはまあ、ゲームの情報部分を見えやすくするために、囲みをどうするかとか、色をどうするか(彩度、明度)と言ったことだと思いますが、まあそのへんはカードデザインに限ったことではないですしね。

 あ、最後に1つ。
 これもカードデザインに限った話ではないですが、色弱の方に対する配慮は細かく気を遣った方がいいです。
 気を遣うと言っても、「緑と赤の区別が付きにくい世界がどんなものか、感覚として分からん」という話があったわけですが、最近はこのへんを可視化するアプリも存在しています。
 わたしが使っているのは「色のシミュレータ」というアプリですが、これを使うことでようやくはじめて「なるほど、こう見えているのか!」ということが理解できました。

 ゲームによってはたくさんの色を使う必要があるなど、完全に配慮することは難しい場合もありますが、可能であれば気を遣ってあげるべき要素ですので、意識しておくとよいと思います。

 赤と緑を混在させる際も、「赤は暗めに、緑は明るめに」といったメリハリを付けると見分けがつきやすくなります。
 あと弱視の方から多く聞くのは、「茶色が赤なのか緑なのか分かりづらい」ということですね。
 茶色を積極的に使うことは少ないかもしれませんが、赤青黄緑白黒を使ったあとだと、候補にあがることもあるでしょう。
 その際は、「色+シンボルマーク」で表現するなど、ひと工夫あると遊びやすさが向上します。
 気を付けてみてください。

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