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刈谷メソッド_12「テストプレイ」

 順番で言うと次は「ゲームルール作成」に触れるべきですが、これは割愛します。
 まず「こういうゲームを作ってほしい」とゲームデザイナーさんに依頼させていただく状況が少ないですし、依頼させていただくシチュエーションもまさに千差万別です。
 そもそも「ゲームデザイン論」であれば、本職のゲームデザイナーさんに語っていただくべきであり、わざわざわたしが語ることもないでしょう。

 そういうわけで、今回はテストプレイについてです。
 テストプレイももちろん、ゲームデザイン論でも語られるべきテーマだと思いますが、ゲーム編集論でも触れられるべきテーマです。
 とにかくテストプレイは重要です。
 ゲームの完成度は、基本テストプレイの精度にかかっていると言って過言ではありません。

 ちなみに、海外で活躍されているゲームデザイナーさんのインタビューとかを見ると、「テストプレイは100回はするべき」とか、それ以上の意見を目にしたりもします。ですが、(パソコンでプログラムを組んでシミュレーションするとかであれば別ですが)原則的にはそこまでやらなくても大丈夫だとは思います。
 もちろん大事なルールに変更が加われば、そのたび5回くらいはテストするでしょうから、変更が多かったゲームなどは、結果的にテストが100回以上になることはあると思います。ですが「100回テストしないと販売するクオリティにならない」といった話は存在しません。目的と手段を見失わないように気を付けてください。
 重要なのはゲームの完成度であり、テストプレイは完成度を高めるために行われるのです。逆に言えば、ゲームの完成度を高めることに貢献しないテストプレイは、100回やろうが1,000回やろうが無意味です。

 またゲームの性格によっても、テストプレイの風景はずいぶん変わります。戦術性の高い、運要素の少ない緻密なゲームは、少人数のメンバーで繰り返しプレイして調整する必要があるでしょう。 勝ち負けよりも場が盛り上がるかが優先されるパーティゲームなどは、可能な限り多様な方に遊んでいただき、なるべく「誰でも楽しめる」ものになっているかどうかを確認する必要があります。
 最近ですと、マーダーミステリー作品のテストプレイの大変さが取りざたされることが多いですね。一度遊んでストーリーを知ってしまうと、もうプレイできないのがネックです。8人用のマーダーミステリーを10回テストするためには、80人のプレイヤーが必要ということで、これはなかなかゾッとする数字です。

 かように千差万別ですので、テストプレイで注意すべき点もなかなか一般化できませんが、ざっくり「戦術性の高いゲーム」と「パーティゲーム」に分けてお話しすることにしましょう。個々の説明をする前に、「ゲーム性に関係なく注意すべき点」から説明していきます。


◎ゲーム性に関係なく注意すべき点
・オリジナリティはあるか
・そのオリジナリティは、ゲームの面白さに寄与しているか
・ゲームの収束性は適度か
・プレイ人数によってゲーム性は変わるか

◎戦術性の高いゲームをテストする際に注意すべき点
・必勝戦術が存在しないか
・極端に強いカード(タイル、効果etc)が存在しないか
・先手有利、後手有利が存在しないか
・ダウンタイムが長すぎないか
・キングメイカー問題に配慮されているか
・適度な逆転要素が存在するか
・ルールはスリムか

◎パーティゲームをテストする際に注意すべき点
・ターゲットは誰か
・遊びやすいルールか
・誰もが楽しめるか(誰も傷つけないか)
・会話が自然と盛り上がるか
・プレイ時間は長すぎないか


 ……気付くとガッツリ「ゲームデザイン論」みたいになりつつありますが……あくまでテストプレイ目線で書いていきたいと思います。
 順番にいきましょう。


◎ゲーム性に関係なく注意すべき点

・オリジナリティはあるか
 遊んでみて、「どこかで遊んだことがある」ようなゲームは、その時点でほとんど検討する価値がありません。大体において(あえて数字で言えば95%以上)既存の似たゲームに勝てないからです。
 既存の似たゲームより明確に優れているなら、テストプレイを重ねてブラッシュアップしてみてもいいかもしれません。
 既存の似たゲームより「ちょっと面白い」程度では、評価されることはありません。インディーズで作る場合は止めませんが(苦い思い出を得ることができるでしょう)、わたしの部署で商業タイトルとして開発する可能性はゼロです。

・そのオリジナリティは、ゲームの面白さに寄与しているか
 残念ながら斬新なアイデアは、「面白さにつながっていないので採用されなかったアイデア」であることが大半です。採用されないアイデアには理由があるのです。テストでは、そうした残酷な事実を確認することになります。

・ゲームの収束性は適度か
「ゲームの収束性」と書くと難しそうですが、ようは「ゲームが終了条件を満たせず、ダラダラ続くようなルールになっていないか」ということです。言い換えれば、「何分くらいでゲームが終わるか」ということとも言えるでしょう。
 未就学児向けのパーティゲームなら5~15分で終わるべきですし、複雑な戦略ゲームであれば2時間ほどかけてじっくり遊びたいものです。

・プレイ人数によってゲーム性は変わるか
 プレイ人数によってゲーム性が変わること自体は、悪いことではありません。プレイ人数によって面白さが変わるなら、むしろ素晴らしい話です。
 問題は「3人で遊ぶと滅茶苦茶面白いけど、4人で遊ぶとまったく面白くない」といった状況が発生する場合です。
 そういうチェックのため、テストプレイはさまざまな人数のシチュエーションで行うべきです。


◎戦術性の高いゲームをテストする際に注意すべき点

・必勝戦術が存在しないか
 戦術性の高いゲームを遊ぶプレイヤーは、通常「勝利すること」を目指してプレイします。いや、もちろん何のゲームでもそうですが、戦術性の高いゲームでは特に勝ち負けにこだわって遊ぶことになりますし、逆にそうでなければ本当の意味でその手のゲームを楽しむことができません。
 そうしたプレイヤーがもっとも萎えるのが、「こうすれば勝つ」という必勝法が存在することです。
 テストプレイでは、必勝法と言えるほど強いムーブが存在しないかを潰していくことになります。そのためには時に極端な戦術も試します。そうしたテストプレイは、往々にして楽しくありません。特にゲームデザイナーにとっては、不愉快な時間になることが多いでしょう。ですがそうしたテストによって、面白さの強度が磨かれ、担保されていきます。

・極端に強いカード(タイル、効果etc)が存在しないか
 これも必勝戦術と考え方は同じです。数字のバランスは慎重に取る必要があります。特にランダムに引くカードに明確な強弱があると、戦略ゲーム好きは強いストレスを感じることになります(「くじ引きで勝ち負けを決めるのと何が違うの?」)。極端にバランスの悪いデータは、テストを重ねて丸める必要があります。
 ちなみに、ランダムさが悪いわけではありません。ランダムさによって試されるのが臨機応変の能力であり、「複雑な状況の中から最適解を見抜いて対応できれば誰にでもチャンスがある」――といったゲームであれば、ランダムさは強烈な魅力になります。

・先手有利、後手有利が存在しないか
 これもゲームのバランスの問題ですね。手番が存在するゲームでは、往々にして「最初に手番を行うプレイヤーが有利」だったり、「最後に手番を行うプレイヤーが有利」だったりします。
 テストプレイではそうした先手有利、後手有利が存在するかしないか、存在するとして、有利不利はどの程度か(初手の手札が1枚少ない程度で収まるのか)といったことをチェックすることになります。

・ダウンタイムが長すぎないか
「ダウンタイム」というのは、自分の手番が終わり、次に自分の手番が回ってくるまでの時間のことです。これが長すぎると、プレイヤーにとってはストレスになり、気付くとスマホを見ているプレイヤーが現れたりして、空気が悪くなったりします。
 一昔前はダウンタイムのことなど配慮していないゲームが多かったのですが、近年は配慮したゲームが増えているので、配慮できるなら配慮した方がいいです。ただどのくらいまでなら大丈夫で、どのくらいが適切というのはなかなか明確にしづらいところですので、このへんもやはりテストプレイが重要になります。
 ダウンタイムを考えるうえで重要なのが、「他人の手番の時に考える要素がどれくらいあるか」ということです。他人の手番の間、いろいろ考える余地があるなら、ほとんどダウンタイムを感じずにすみます。ですが「ひとつ前の手番のプレイヤーのアクションで盤面が大きく変わるので、自分の手番が来るまで考えても仕方がない」といったシステムだと、ダウンタイムは体感としてひどく長く感じられることでしょう。

・キングメイカー問題に配慮されているか
「キングメイカー問題」とは、「勝利の可能性がないプレイヤーのアクションにより、誰が勝利するかが決定する状況」が生まれる問題です。
 例えばAとBが勝利を争っていて、最後の手番、何をやっても勝てないCが線路を作ればAが勝ち、都市を建てればBが勝つ(しかもCの順位や得点はどちらでも同じ)といった場合です。どっちが勝っても後味の悪いものになるのは、お判りいただけるかと思います。
 これもテストプレイを重ねることで潰すことができます。……と言いますか、潰せるようテストプレイで気付く必要があります。

・適度な逆転要素が存在するか
 最初の1~2ラウンドで生じた差が、逆転の機会のないまま10ラウンド続くとしたら、勝っている方はともかく、負けている方はたまりません。そのため、適度な逆転要素を盛り込むべきです。ただ、最後のラウンドですべての決着が付くといったバランスですと、今度は最終ラウンドまでの過程に意味がなくなります。
「適度」というのはそういう意味です。
 これもテストプレイで極端なプレイを試すなどして、良いバランスを探します。

・ルールはスリムか
 戦術性の高いゲームは特に、テストプレイを重ねスクラップ&ビルドを繰り返すので、気付くと例外処理の塊になっていた……ということがあります。
 ゲーマーは特に、ゲームが面白くなるためならどんなに難しいアイデアでも追加しようとします。またテストプレイ終了時には、すでにそのゲームに対して一通り理解が進んでいますので、多少のルール追加は負担になりません。ですがそのゲームを最初に遊ぶ人は、それらすべてのルールを最初に頭に入れなければならないのです。
「こうした方が絶対面白い!」と主張するテストプレイヤーの意見を、なんでも鵜呑みにしない判断力も重要です。
 すべてはバランスです。


◎パーティゲームをテストする際に注意すべき点

・ターゲットは誰か
 戦術性の高いゲームのターゲットは、「そういうのが好きな人」という話で、まあ中心は大学生から30代前半の男性ということでブレが少ないですが、パーティゲームのターゲットは千差万別です。
 一口にパーティゲームと言っても、20代の働く女性をターゲットにするのと、小学校低学年をターゲットにするのでは、話がまったく異なります。
 テストプレイをする際も、常に「どういうユーザーをターゲットにした商品なのか」を意識して行う必要があります。当然テストプレイヤーは、ターゲットに近い存在の方が望ましいです。
 ……場合によっては(ゲームが面白ければ)、テストプレイによってターゲットの方を変えることもあります。

・遊びやすいルールか
 パーティゲームは特に遊びやすさが重要です。
 そういう意味で、初めて遊ぶプレイヤーがルールを読んですぐに遊べるかというテストは、非常に大事です。

・誰もが楽しめるか(誰も傷つけないか)
 誰もが楽しく過ごせることに気を遣うのは当然ですが、誰もが傷つかないようにという点にも気を遣うべきです。誰かが笑いものにされるようなシチュエーションが生まれる要素があれば、テストプレイで潰していきます。
 ちなみに人間の想像力は無限大ですので、悪意を完全に封じることは不可能です。そういう悪意を持った人とは、そもそも一緒に遊ばないようにするしかありません(笑)。
「誰も傷つけないようにというのは、誰も愛さないということと同義だ」といった話もあるかもしれませんが、そのへんの議論は実人生の営みで確かめてください。少なくともゲームは、誰もが楽しい時間を過ごせるものになるよう努力すべきだと思います。

・会話が自然と盛り上がるか
 誰も傷つけないかを慎重に考える傍ら、やはりパーティゲームですから、盛り上がれる要素を磨く必要があります。盛り上がりの基本は、やはり会話でしょう。
 自然にいろいろな会話を引き出せるなら、パーティゲームとしては可能性があります。ターゲット以外のいろいろなメンバーでも盛り上がるなら、かなり有望と言えるでしょう。

・プレイ時間は長すぎないか
 パーティゲームでは特に、1ゲームが長くなりすぎないように気を付ける必要があります。なるべく1ゲームは短くし、もし気に入ってもらえたら「もう1回!」と言いやすいようにデザインするのがオーソドックスな考え方です。
 収束性の話と似ていますが、収束性は「ダラダラ続く展開が生まれないように」という工夫の話ですので、パーティゲームのテストプレイを考えるうえで分けてみました。


 ……ざっとこんなことを気にしながらテストプレイを行います。
 さらに贅沢を言えば、「問題点を浮き上がらせ、それを潰すテストプレイ」と「純粋に楽しもうとするテストプレイ」の両方ができるといいですね。あまり問題点を潰すことに注力しすぎると、最後の方はなぜこのゲームを作るのか見失うこともありますし(笑)。
 先にも書きましたが、ゲームはあくまで「楽しい時間を過ごす」ために存在するもののはずです。

 あと最後に蛇足ながら。
 インディーズでゲームを製作している場合、仕事でテストプレイヤーを集めるということにはなりません。そうすると、原則仲の良い人としかテストができなくなり、意識的にせよ、無意識的にせよ、彼らの趣味嗜好に影響を受けていきます。
 たまには別の人の意見も聞きたいと思い、世間で開かれているゲーム会で自作ゲームのテストプレイをしてもらうことを考える人もいることでしょう。そうした場合、かなり慎重に考える必要があります。
 そもそも完成していないゲームの調整に付き合うのは、たいてい楽しい時間になりません。ゲームデザイナー同士が自作ゲームを持ち寄ってテストし合うのであれば別ですが、基本的に相手にはメリットがありません。
 ですのでまず強要はしないようにしましょう。「未完成のゲームがプレイできるの? 楽しそう!」と思ってくれる奇特な方であれば問題ないと思います。
 そしてそのプレイがどういう結果になろうと、遊んでくださった方全員に深く感謝しましょう。

 テストプレイは本当に重要です。その重要な時間を可能な限り有意義なものにできるよう、モックアップ作りなど含め、準備をしっかり行ってテストプレイに臨むようにしましょう。

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