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刈谷メソッド_13「ルールブックの執筆」

 ルールブックの書き方についてはゲームマーケット2016秋(5年も前か)以降のカタログに拙文が載っており、かなり重複してしまうのですが、本稿で触れないのも不自然ですので書いていくことにします。

 ルールブックはインディーズ版があるならすでに存在しているはずですので、その修正をすることになります。またゲームデザイナーさんに依頼をして、イチから作り上げたゲームシステムであっても、ゲームデザイナーさんが初稿を執筆してくださることがあります。ですので実際には、編集者がイチからルールブックを執筆することは多くありません。ですがないわけでもありませんし、インディーズのタイトルの場合、結局ほぼイチから書き直すこともありますので、基本の部分は身に付けておくべきでしょう。

 ルールブックを書く上で一番大事なことは何でしょう。まあ、なんでも同じな気がしますが、結局は「ルールブックを書くことが好きであること」だと思います。
 私事で恐縮ですが、わたしはルールブックを書くのが好きでたまらないんですね。理由を聞かれても困りますが、10歳くらいの時からゲームを自作しており、そのころからとにかくルールを書くのが好きでした。なんでしょう。混沌としていたものが定義され、整理されていくのが気持ちいのでしょうか。部屋を掃除整頓するのは苦手なんですけどね。分かりやすく読みやすく、流れるようなルールブックが書けた(と思った)ときは最高のカタルシスを得ます。
 若いころはみんなもそうだと思っていたのですが、やがてルールブックを執筆するのが好きな人間はさほど多くない、どころかまずもって普通の人はルールブックを書く機会がない――と気付いたのは25歳くらいのころだったでしょうか。そのへんに気付いたとき、「他が苦手なものが自分にとって苦にならないということは、それで飯が食えるかもしれんな」という気付きがあったような気がします。いまだから言えることかもしれませんが(笑)。

「そのことが好き」というのは、すでにそのことに対する才能の半分くらいを有しているのだと思います。埋められないセンスのようなものはありますが、好きであれば続けられますし、続けていれば大体何らかの場所にたどり着けることができるものです。

 いきなり余談が長くなってしまいましたが、そんなわけでルールブックを書く際一番最初に考えたいことは、「ルールブックを書くことを好きになること」ではないかと思います。
「そんなこと考えたこともなかった」「必要だから書いていただけだった」という方は、ルールブックを書き始める前に、「うぉ~っ! ルールブック書くの、好きだーっ!」「ルールブック執筆できるのが、楽しみで仕方ね~っ!」と狂ったように自己暗示をかけてください(笑)。
「ルールブック書くの、たまらん楽しい」など大書して、目に入るところに貼っておくのもいいと思います。
 逆に「ルールブックを書くのが苦痛だ」「書いていても集中できない」といった方は、ぶっちゃけ向いていないということなので、別の人に代わってもらいましょう。

 またしても余談にそれますが、人間の人生は短いです。その中で、仕事は人生のかなりの部分を占めることになります。自分が好きでもない仕事に人生の時間を使うのは、相当無駄です。
 わたしはゲームを遊ぶのが好きで、ゲームを作るのが好きで、イラストを描くのも見るのも好きで、グラフィックデザインについて考えるのも好きで、ルールブックについて考えるのがたまらなく好きで、自分がディレクションしたゲームが世に出て、たくさんのお客さんに遊んでいただける様を見ることに無上の喜びを得ます(ついでに金儲けも好きならもっとよかったのに……!)。
 ですので結局、ボードゲーム編集が向いているのだと思います。ゲームデザイナーにもなりたかったのですが、自分がゲームデザイナーになるより、自分がボードゲーム編集者になった方がボードゲーム業界のためになりそうだなと思ったので、編集者の方を選んだ感じです。これはどちらも好きでやりたい仕事でしたから、特に後悔もありません。人生で選べる選択肢はひとつです。そして選ばなかった可能性に思いを馳せるには、人生は短すぎます。

 閑話休題。

 なのでルールブックを書くのが辛い方、ルールブックを書くのが好きだという自己暗示がかからない方は、無理してルールブック編集者としてルールブックを書くべきではありません。自分が心から楽しめる、別の仕事を探した方がいいです。
 インディーズの場合は好き嫌いに関わらず、ゲームデザイナー自身が書かないとどうにもならないので選択肢はないと思います。そのときはなるべくルールブックを書くのが大好きになれるよう自己暗示をかけ、一気に書き上げてしまいましょう。

 さあ、そういうわけでここから先は、ルールブックを書くのが好きでたまらない方向けに書いていきます。

 ルールブック執筆にあたって、まずは下記のポイントを押さえておきましょう。

◎ルールブックの構造を把握する
◎ゲームルールの構造を把握する
◎ルールブックの形状をイメージする
◎見出しの階層を意識する
◎文体を統一する
◎用語を統一する
◎例はルール理解の補佐
◎推敲する
◎ルールブックの長さについて

 細かい内容はゲームマーケット2016秋以降のカタログに掲載されている「刈谷式ボードゲームのルールブックの書き方」を参照してください。ここではダイジェストとしてまとめます。


◎ルールブックの構造を把握する

 まあなんでしょう。基本のキですね。
 ルールブックは構造として

・ゲームのタイトル
・プレイ人数、プレイ時間、対象年齢
・背景ストーリー(必要に応じて)
・内容物
・ゲームの概要
・ゲームの準備
・ゲームの進行
・ゲームの終了
・勝敗の判定
・オプションルールなど(必要に応じて)
・Q&Aなど(必要に応じて)
・クレジット

 などが必要になります。これらの要素はゲームに応じて取捨選択されます。


◎ゲームルールの構造を把握する

 これもまあ、当然の話ですね。
 しっかりゲームを遊んで、完全にルールの構造を理解して、どの順番に説明するのが一番わかりやすいかを考えます。複雑なルールの場合、要素を紙に書き出して上下や前後の並びをいじりながら形を整えていくとよいでしょう。


◎ルールブックの形状をイメージする

 とにかくルールブックを執筆し、分量に応じて後からルールブックの形状を決めるというやり方もありますが、ルールブックを書き始める段階で、おおよその分量は把握できているはずです。
 簡単なパーティゲームならB5サイズの裏表があれば足りるかもしれませんし、複雑なゲームならA5サイズで32ページとかになるかもしれません。
 基本的には執筆前にルールブックの形状をある程度想定し、例えば「1ページ1段組み、1行33文字で28行」とか、「1ページ2段組み、1行20文字で35行」といったフォーマットを決めてから書き始めるとよいでしょう。
 ルールブック執筆の経験がないと、1ページにどれくらいの文字量を載せるのがいいか迷うと思いますが、そうした場合は世の中に出回っているゲームのルールブックをたくさん見て、自分が一番気持ちよく感じたものを真似るとよいでしょう。


◎見出しの階層を意識する

 ルールブックの形状をイメージするのは、見出しの階層を意識するための準備と言っても過言ではありません。
 つまりルールブックにおいて、それほど見出しは重要ということです。
 基本的に1つのページに1つの項目が収まっていると読みやすいですし、1つの項目が複数の見開きにまたがるのは、可能な限り避けるべきです。

 また見出しの階層を細かくし過ぎると訳が分からなくなるので、多くても4階層くらいにとどめるべきです。


◎文体を統一する

 まあこれも当然ですね。
 当然と言いながら、書くタイミングが変わると結構変わったりするので面倒なのですが。本稿も通して読むと文体はガタガタになっているはずです。まあ本稿の場合、1投稿ごとに統一されていればいいでしょう。
 書いている途中はあまり気にせず、最後推敲するときに統一するのがいいと思います。


◎用語を統一する

 統一してください。

 ……それで終わるつもりでしたが、疲れて手を抜きだしたと思われるとあれなのでもう少し説明します。「ラウンド」と「ターン」、「タイル」と「チップ」、「コマ」と「トークン」といったゲーム用語を混同しないように気を付けましょうということです。あと「わたし」と「私」のような表記揺れも含みます。


◎例はルール理解の補佐

 カタログの方でも妙に熱く書きましたが、例の中にガチのルールが書かれていたりすることがたまにありますので、注意しましょう。


◎推敲する

 とにかく推敲は重要です。
 逆に言うと「最後に推敲するからいいや」と、いったん最後まで書き進めるのはアリです。
 人間ゴールが見えないと苦しいですからね(いかにルールブック執筆が楽しいとはいえ!)。
 ひとまず最後まで書きあげて、ゆっくり磨き上げるというのも楽しいやり方です。


◎ルールブックの長さについて

 個人的にはルールブックが長くてもさほど気にならないのですが、いわゆる一般の方はそうではないと多数の方から指摘を受けるので、たぶんそうなのでしょう。
 ただ確かに、イラストや図例がいっぱいのルルブはページ数が多くても楽しいですが、全部文字だときついですね。


 ……結局結構端折ってしまいましたね。
 繰り返しになりますが、詳しくはゲムマカタログで。あちらではもう少し真面目に、しっかり説明してあります。

 さて、次回以降いよいよ「ルールブック編集作業」編が始まります。ぶっちゃけここまでは助走期間と言いますか、ルールブックの編集作業そのものについて語るまでの予備知識といった意味合いの強い話でした。
 次回以降は、実際にわたしが描いたラフレイアウト案などを掲載しながら、より実践的な内容になる予定です。
 ……たぶん。


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