刈谷メソッド_番外編1「イラスト発注に関する質問」
突然番外編を始めて申し訳ありません。
今週あまり余裕がなく、きちんとしたメソッドが書けそうにありませんでしたので、番外編として「10:イラストレーターさんの選択」の内容を書いた際、ウチの部署のメンバーから募集した質問に答えてみたいと思います。
あまりきちんと調べていないんですが、noteには投稿ページとかはないんですね。まあ荒れる元なのでない方がいいと思います。わたしもテキスト内容に関係ないことや、単なる誹謗中傷は聞きたいと思いませんが、「ここ、もう少し詳しく説明してほしい」といったご要望はウェルカムですので、そうした引っ掛かりを覚えた方などは、わたしに直接(twitterやFacebook、LINEなど)投げていただけますと幸いです。
それでは質問の方にいってみましょう。
Q:イベント、ゲムマ、Twitterで調べてイラストレーターさんを見つけるのはあり?
A:何の問題もないと思います。
Q:良いボードゲームがあったとして、そのイラストを描いている人に頼むのはあり?
A:インディーズ版のイラストレーターさんをそのまま起用するのはアリかということですね。
そのイラストレーターさんを起用するのがベストと考えたのであれば、むしろそれが最も良い着地点です。すでにゲームのことをある程度ご理解いただけているはずですし。
むしろ難しいのは、編集サイドで別の方にお願いしようと考えていた状況で、ゲームデザイナーさんサイドからオリジナル版のイラストレーターさんでいきたいと相談された場合です。
インディーズでゲーム制作をしている場合、ゲームデザイナーさんとイラストレーターさんが友人という話も珍しくありません。プロにイラストをお願いするとなると、それなりにまとまった金額が必要になりますが、インディーズでそんな金額を払える企画というのはまれです。自然、イラストは身近にいる上手い人に、「1回焼肉おごるから」とか言ってお願いしたりすることが多くなると思います。
そうして苦楽を共にして、幸いゲームの評価が良かったときに、イラストを変えたいと言われてもためらいを感じる心理はよく理解できます。
糟糠の妻を捨てるようなものですからね。
そこはまあ、お決まりのフレーズになりつつありますが、ケースバイケースです。オリジナル版のイラストのクオリティも千差万別ですからね。ほとんどプロレベルなら、ライセンス版のイラストも継続してお願いさせていただく可能性は高まりますし、「言って素人さんですよね」というレベルの場合、今度はその商品にお金を出すお客さんにとって真に魅力的かという話になります。
ですのでそのあたりは、ゲームデザイナーさんと相談しながら、商品にとってベストな落としどころはどこかを探すことになります。
Q:イラストレーターさんがボードゲームを知ってる必要ある?
A:知らないよりは知っている方がいいと思いますし、可能ならそのゲームを遊んでいるとなお良いと思いますが、必須ではありません。
結局のところ、お金を出すお客さんにとって「買いたい!」と思わせること、そして購入後、商品に満足いただくことが重要だと思いますので、そこが担保されるのであればイラストレーターさんがボードゲームのことを知っている必要はありません。
ただ実際に遊んでいる方が、よりお客さんに商品の魅力が伝わりやすいイラストを描ける可能性が高まるのは事実だと思います。
Q:発注メールの書き方、例を知りたい
A:「08:メールの書き方①」「09:メールの書き方②」を見て自分で頑張ってください。
……で終わりたいところですが(笑)、いろんなパターンのメールの例が必要ということでしょうか。でもやりすぎると本稿は「ボドゲ編集のいち手法」ではなく「メールの書き方」になってしまうような。
1年間連載する中で、ネタに困ったら「イラストレーターさんへの発注メールの書き方」の例を書いてみます。
Q:予算感が知りたい
A:イラスト原稿料の話をここに書くのはセンシティブすぎて無理です(笑)。
ただ、ひとつ言うと、原価から考えて原稿料を決めるというのは建設的でしょうね。
つまり初回に3,000個作るとして、ゲーム本体の印刷費と送料の原価が500円だったとします。
グラフィックデザインに30万円、イラスト原稿料に30万円かけたら、それぞれで原価に100円ずつ加算され、合計の原価は700円ということになります。
定価は原価の3倍で考えるのが素直ですので、この場合商品の価格は2,100円、通常は突発的な出費(送料が上がるなど)のリスクをヘッジするために、少し余裕をもって2,300円あたりとするでしょうか。
そこで「2,500円になってもいいからビジュアルにお金を使おう」と思えばグラフィックデザイナーさんやイラストレーターさんに支払う金額に幅が出ますし、「どうしても2,000円で出したい」と考えるなら、コンポーネントを見直し、ビジュアルに使うお金を押さえて原価を600円に収める……といった話になるわけです。
予算感という意味で言えば、上記の通り3,000個で小売価格2,000円の商品をイメージするなら、イラスト代に50万円を超えるような金額を使うのは難しいということが分かると思います。
正直なところ、20万円以内に収めないといろいろ厳しくなってくるでしょう。20万円でどれだけの点数描いてもらえるかということに関しては……先に書いたとおりここでは触れません。
Q:どの程度の期間を与えてあげるもの?
A:スケジュールは金銭ほどセンシティブではないですね(笑)。
点数にもよりますが、ゲームひとつのイラスト全部を仕上げるという話であれば、普通に考えて発注から2か月後くらいではないでしょうか。
普段イラストレーターさんと仕事をされたことのない方は、あまり思い至らないことなのですが、イラストレーターさんも仕事が発注されたからと言って、即その仕事に取り掛かれるわけではありません。イラストレーターというだけあって、それで飯を食っているわけですから、普通は常に仕事が入っています。
でそのイラストレーターさんが人気であれば、「いま余裕がないので取り掛かれるのが半年後になります」といったこともあります。半年後に描いてもらえればいい方で、「いまは新規の仕事は受けていません」といったこともあります。
ですがまあ、大体の場合、1か月後くらいには着手していただけることが多いでしょう。そこから実際にイラストを仕上げていただくのに1か月。合計2か月という計算ですね。
もちろん、ケースバイケースです。
人気の方でもエアポケットのようにスケジュールに隙間があることもありますし、人気に関係なく、いま抱えている案件の都合で3か月後の着手になるということも十分あり得ます。またパッケージイラストのみであれば実作業は2週間足らずで終わることもあるでしょうし、カードのユニークなイラストを50点描いていただく場合などは、実作業時間を2か月くらいと考えておくべきでしょう。
それから、こういうことをこういう場で書くべきではないかもしれませんが、イラストレーターさんという生き物の性として、キワになると「最後どうしてもここをこうしたい」といった話になります。
そのとき「いや、そこもう手を加えなくていいのでいまの状態の原稿をください」と言えるかと言えば、なかなか言えません(笑)。お客さんにとっても、イラストレーターさんが「ホントはもうちょっと手を加えたかったけど、まーもうこのへんでいいや」と思って仕上げたイラストの商品を買うよりは、「今回もやり遂げたぜ~」と思って仕上げたイラストの商品を買った方がハッピーなはずです。
ですので、締め切りにはある程度バッファを持たせておくべきです。
バッファもケースバイケースですが……普通は1週間程度。印刷所さんに頭を下げてさらにプラス1週間というあたりでしょうか。
それを破ったら発売延期です(笑)。
Q:戻しの回数と、戻しの細かさの目安についてラフが見たい。
A:これもケースバイケースですね。大御所の大先生に「デッサン狂ってるんで直してください」とかは言えないですし(笑)、逆にキャリアの少ない新人さんとかだと、そうした指摘をしてあげた方が、その人のためにもなるわけで。
あとパッケージなら2~3回やりとりさせていただくこともあるでしょうが、ちょっとしたカードイラストとかで何度も直してもらっていると、イラストレーターさんも「この回数の直しがあるならこの原稿料では合いません」という話になってくるでしょう。
戻しの細かさのラフですか。難しいことを言いますね。ケースバイケースですね(笑)。ただ先に書いた話と同じで、ベテランの方に細々直しを入れまくるのは失礼ですし、新人さんにはむしろその方の今後の成長のためにいろいろ指摘してあげた方がよい場合もあります。ただそのへんは相手の性格にもよります。先方が「気付いた点があればどんどん指摘してください!」と言っているならそれでいいですが、打たれ弱い方にガンガン指摘を入れると落ち込ませてしまうことにもあるでしょう。
もちろん、もっとも重要なのはお金を出してくださるお客さんの満足度なので、必要な場合は相手がどう思おうが、修正指示を出さなくてはなりません。ただ往々にして良いイラストは良い精神状態から生まれるので、あまりくだらないことをゴチャゴチャ指摘して相手のテンションを削ぐよりは、伸び伸び描いていただいた方が最終的に良いイラストになる可能性は高いと思います。
そもそも修正指示を出すというのは、編集も試されているわけです。訳の分からん修正指示を出されたら、イラストレーターさんも「なんじゃこいつ」と思うことでしょう。
細かい修正をガンガン出して、それでなるほど凄く良くなりましたという話になればいいですが、結局元の方が良かったとかになると、信頼関係もなにもあったものではありません。
ですので個人的には、あまり細かいことをゴチャゴチャ言わないように気を付けています。
そもそもイラストの発注段階で、星の数ほどおられるイラストレーターさんの中から、吟味を重ね「この方なら」と選ばせていただき、そのうえで最初に「こんな感じでイラストをお願いします」と発注している以上、それであがったラフにゴチャゴチャ細かい修正指示を出さなくてはならないのは、編集側の力不足以外の何物でもありません。
それからラフですが、自分が描いたものならともかく、先方が描かれたラフに修正指示を書いたものをこの場に載せるのははばかられますね。
Q:最初に提示するラフの例が見たい
A:なんかいいのあったかな……と思って探してみました。
『クトゥルフキッチン』のパッケージ案は、下記2点を出させていただきました。
実際のパッケージは下記の通り。
案の2を採用いただき、イメージを広げていただいた感じですね。
ただまあ、当然ながら「これが正解」とかはありません。別にラフは丸と点だけでもいいと思います。絵を描くのも構図を考えるのも苦手であれば、最悪「このイラストの雰囲気で」と別のイラストを参考に渡すのもありです。ただ、これはあまりいいやり方ではありません。イラストレーターさんが、そのイラストのイメージに引きずられてしまうからです。
「イラストレーターさんが手を動かすきっかけになればいいな」くらいの気分で、上手いとか下手とかではなく、どういうイラストが商品を魅力的に見せるかを必死に考えて提出すればよいかと思います。
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