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刈谷メソッド_19「グラフィックデザイナーさんに渡す素材について」

 イラストの完成データを受け取ることができたなら、グラフィックデザイナーさんにお渡しする素材は揃っているはずです。
 念のために箇条書きにしてみましょう。

・各種イラスト
(イラストがない場合もアリ)

・パッケージレイアウト案

・パッケージ周りのテキスト

・ルールブックレイアウト案

・ルールブックテキスト
(タイトル、プレイ人数、プレイ時間、対象年齢、ゲームデザイナー名を含むクレジットを含む)

・カードやタイルなどの内容物周りのテキスト
(必要ない場合もアリ)

・テンプレート(ダイカットとも)


 あとはスケジュールがあれば、作り上げてもらえるはずです。
 せっかくなので順番に軽く注意点を説明しておきましょう。


各種イラスト

 詳しくは「10_イラストレーターさんの選択」「18_完成イラストの回収」で説明したので割愛します。
 気合で取得しましょう。


パッケージレイアウト案

 実際にはロゴデザイン案と一緒に出すことが多いでしょう。
 あなたが自分のデザインセンスに自信がない限り、基本的にはグラフィックデザイナーさんにお任せすることになると思いますが、それでも「こんなイメージ」というものは提示すべきです。
 ラフイラストを描く必要はありません。言葉でかまいませんし、既存のロゴやパッケージデザインを集めて、「こんな感じをイメージしている」と伝えるのでもいいと思います。

 わたしはグラフィックデザイナーさんではありませんので、本当のところは分かりませんが、既存の例をサンプルとして挙げる場合、1案のみであるとか、相当似たものばかりを渡すのは、かえってイメージを制限してしまう恐れがあるように思います。
 つまりサンプルにイメージが引っ張られ、どうしてもそれに似たようなものになってしまう可能性があるのではないかという気がします。最終的にそれが正解だとしても、やはり複数案を比較検討して正解を判断したいものです。
 そういう意味では、編集者の中でよほど強固にイメージが固まっているのでない限り、あえて冒険したアイデアを提示してみてもいいかもしれません。

 グラフィックデザイナーさんも日々アウトプットとインプットを繰り返しているはずですが、普段の日々のインプットはどうしても自分の趣味に偏りがちなはずです。
 そういう意味で、例え編集者にデザインセンスがなかったとしても、頑張って提案することがグラフィックデザイナーにとって刺激になることもあるのではないかと思います。まあ、単なるノイズにしかならないことも多いと思いますが(苦笑)。

 ロゴやパッケージのデザインで気を付けたいのは、「フワッとした修正を口にしない」ことですね。
 イラストに口を出すのは大変ですが(「右腕の肩とのつながりのデッサンがおかしい」とか、「明暗のコントラストをもっと大胆に」とか、言えますか?)、なぜかデザインには口を出す人が多い印象です。難しさでは変わらないと思うんですけどね。
 そして明確な修正を伝えられるならいいのですが、「なんか違う」とか、「暗くして」と言って暗くなったら「やっぱ明るくして」と言ってみるなどしていると、グラフィックデザイナーさんとの信頼関係を構築するのは不可能です。

 逆に言うと、つまり依頼する最初が非常に重要ということです。
 しっかり準備をして、自分の中で具体的なイメージをある程度固めて発注すべきです。
 そこでフワッとした発注しかできなかった場合、どんな案があがってきても受け入れる覚悟をしなくてはなりません。「こっちは素人なんだから、フワッとした発注でアイデアを複数出してもらい、そこから模索させてもらってもいいじゃないか」という意見があるかもしれませんが、そのスタンスに立つ場合はつまり、出てきた案の中からどれかを選ばなくてはなりません。「どれも違う」というのはマナー違反と言いますか、ハッキリ言って編集が無能です。会社から給料をもらっていることを恥じるレベル。わたしが経営者ならクビにします。

 その上での注意点として、グラフィックデザイナーさんから自分のイメージとまったく違うものがあがってきたとして、一度自分の中に受け入れる態度が必要です。
 ときどき「自分のイメージと違うから直して」という態度を目にすることがありますが、それこそ自分のデザインセンスを疑うべきです。そしてグラフィックデザイナーさんが、どうしてそのデザインを選択したかを理解しようと努めるべきです。
 そのうえで「やはり商業的な観点から自分の最初のイメージの方に寄せてほしいのですが」と提案するのはかまいません。


パッケージ周りのテキスト

 パッケージ周りのテキスト、特にパッケージ裏のそれは非常に重要ですね。正しく広告的センスが問われると思います。オビを付けるなら、オビのテキストやレイアウト案も考える必要があります。

 パッケージ裏のテキストは、基本的に「キャッチ」と「リード」で構成されることになると思います。あとは「内容物」や「クレジット」。箱が小さくて文字を入れられるスペースがあまりない場合、「内容物」や「クレジット」は箱のソデ(横側)に回してもよいでしょう。

「キャッチ」はつまりキャッチコピーと言いますか、見出しですね。
 アークライト版『モンスターメーカー』で言えば(いま目の前にあったからひっくり返した)

「行こう、ディアーネ!」
無限に広がる迷宮に挑み
数多の財宝を持ち帰れ!!

 これがキャッチです。
 だいたい1~3行で収めた方がいいでしょう。
 複数行になる場合気を付けたいのが、それぞれの行の長さを揃えるということです。ここがガタガタしていると、なんだかみっともなく見えます。上記の例でもほぼ揃っていることがご理解いただけるかと思います。
 これが

「行こう、ディアーネ!」
無限に広がる迷宮に挑み数多の財宝を持ち帰れ!!

 こうなると、なんだか収まりが悪く見えるということです。
 あとついでにこのキャッチの意図を言いますと、ゲームの説明だけであれば「無限に広がる迷宮に挑み 数多の財宝を持ち帰れ!!」だけでいいのですが、「『行こう、ディアーネ!』」と、『モンスターメーカー』を象徴するキャラクターであるディアーネの名前をわざわざ出すことで、昔『モンスターメーカー』に触れたことのある人々の郷愁を誘いたいという狙いがあります。
 ぶっちゃけわたし自身が、いまでも郷愁に誘われます(笑)。

 オビのテキストも基本的な考え方は同じですが、オビの方がより直接的にターゲットに向けたテキストが多くなるでしょうね。「初心者でも楽しめる!」とか「みんなで楽しめる協力型ゲーム!」といったテキストです。

 リードの注意点は、長々書き連ねないということです。
 かくいうわたしもついつい長々書いてしまいがちです。その商品い思い入れがあり、これも伝えたい、あれも伝えたいとなって、削り切れないんですね。
 でもそこは心を鬼にして削り込むべきです。そうでないと、やはりお客さんに読んでもらえません。そのゲームのことが気になっている方であれば、どれだけ分量があっても読んでくれると思いますが、例えばイラストなどを見て気になって、何気なく箱を裏返してテキストがびっしり書いてあったら……。そっと元に戻して次のゲームの箱を裏返すことでしょう。
 箱のサイズにもよりますが、リードは100~200文字以内に収めるべきだと思います。ポイントを3つくらいに絞り、箇条書きにするのも読みやすさが上がって良いでしょう。


ルールブックレイアウト案

 このへんは「14_ルールブックは分かりやすさがすべて」から「17_レイアウトの実際」あたりで説明しているので、グラフィックデザイナーさんに渡すまでの準備の話は割愛します。

 グラフィックデザイナーさんから初稿があがってきてからの話をしましょう。
 自分のレイアウト案通りに収まっていたとして、安心してはいけません。自分の脳内のイメージと、実際のアウトプットを比べると、違和感があるということは、残念ながらまま起こりえます。

 先にパッケージやロゴで、グラフィックデザイナーさんの案に修正をお願いするときは覚悟を持ってやるようにと書きましたが、ルールブックのデザインにおいては、より積極的に修正をお願いすることになると思います。
 そこは逆に、最初からグラフィックデザイナーさんにもお伝えしておくべきです。

 つまり「初稿で決め込もうとせず、まずはテキストをザックリ流し込んだものを用意してもらえませんか」と伝えるということですね。
 その初稿は、ガンガンに手を入れることが前提のものです。

 そしてその初稿に対しては、ゲームデザイナーさんや営業にもチェックしてもらえるとよいでしょう。
 実のところ、割と最近まで、わたしもこのタイミングでゲームデザイナーさんや営業に見せることをしていませんでした。なんでしょう。恥ずかしながら、自分のルールブックに過剰な自信があったのだと思います。あとはまあ、その工程を入れるとどうしても2週間ほど作業が延びてしまうので、それを嫌ったということがあります。
 ですがやはり、より完璧に近い商品を提供するために、この工程は必要だと考えを改めたところです。

 日本の将来のボードゲーム業界の発展に少しでも寄与できたらと思い、このテキストを書かせていただいていますが、わたし自身日々勉強です。
 みなさんもぜひ、わたしより良いやり方を編み出していってください。

 やや脱線しましたが、そんなわけでルールブックのザックリ流し込みを作ってもらって、そこで読みやすさ、見やすさを最終的に確認し、ゲームデザイナーさんや営業からの意見を汲み上げ、グラフィックデザイナーさんに戻します。
 その修正には、そこそこの時間を取ってあげてください。
 と言いますか、その作業こそが本来的なルールブックのグラフィックデザインの時間になります。
 逆に言えば、これであがってきたものにはあまりゴチャゴチャ言うべきではありません。誤字脱字は大いにチェックしてください。ですがこのタイミングでレイアウトを云々するのは間抜けです。

 なお、初稿から大幅にテキストが増減したとかは別です。
 そのときは「ザックリ流し込み」をもう一度作ってもらうのがいいでしょう。


ルールブックテキスト

 これも「14_ルールブックは分かりやすさがすべて」から「17_レイアウトの実際」で説明したので割愛します。
 狂ったように書き、かつ読みましょう。


カードやタイルなどの内容物周りのテキスト

 必要なら、このへんも忘れずに。
 基本的にゲームデザイナーさんが用意してくれるはずです。

 注意点としては、ルールブックを編集する過程で用語や言い回しが変わった場合などですね。
 表記ゆれが起こらないよう、丁寧にチェックしてグラフィックデザイナーさんに渡すようにしましょう。

 あと特にカードゲームの場合など、極端にカードテキストが多い場合はグラフィックデザイナーさんが困ることになります、
 そのあたりはグラフィックデザイナーさんに渡す前に編集がチェックして、もっと短い効果に削れないか、削れないならそもそもその効果を採用すべきかについて、ゲームデザイナーさんと協議すべきです。

 また言語依存をなくすべく、効果を全部アイコンにしようと考えることもあるでしょう。
 そうした場合も、グラフィックデザイナーさんといろいろ意見交換することになります。
 行き過ぎたアイコン化は、結局ゲームの理解を妨げるので注意が必要です。

 カードのデザインに関しては……まともにやるとそれだけで1項目になるので、次回に譲りましょう。


テンプレート

「11_グラフィックデザイナーさんに発注する」でも説明しましたが、入稿データを作るための型紙のようなものです。ダイカットと呼ばれることもあります。

 これがないと、グラフィックデザイナーさんは実作業に入れません。忘れないように印刷所さんから取り寄せ、グラフィックデザイナーさんに渡してあげてください。


 ……ひとまずこんな感じでしょうか。
 カードデザインは重要な項目にもかかわらず、説明するのを忘れていました。
 次回で説明することにします。

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