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刈谷メソッド_04「ストレスとの付き合い方」

 01~03で、わたしの考える仕事に取り組む姿勢のようなものを書いてきましたが、「いや、ちょっと待ってくれ」と、「『編集は関係者全員に気持ちよく仕事していただくためのハブ』とか言ってるけど、そんなことを真面目に実践しているとストレスですぐ死ぬぜ?」と思われた方が少なくないかもしれません。
 確かに、仕事でのストレスというのは編集に限った話ではないと思いますが、編集は基本的に間に立つことの多い仕事なので、ストレスのコントロールは特に重要です。
 例えばゲームデザイナーさんが、イラストのラフに対し「イメージと違うからここを直してもらってくれ」と言ってきたとしましょう。イラストレーターさんにそのまま伝えたら、イラストレーターさんもイラっとするでしょうから、そうしたときは「いや、いいイラストラフをありがとうございます! ゲームデザイナーさんも凄く気に入ってくれました! ただ1点だけ気にされている箇所がありまして、ここだけこうしてもらえるとなお嬉しいとのことです。イラストレーターさんの方でもお考えがあると思いますので、『ここはこういう意図で描いているからどうしても直したくない』などありましたら、遠慮なくおっしゃってください。ただもし可能でしたら、ここをこうしたバージョンもお見せいただけますと、ゲームデザイナーさんにもさらに喜んでいただけるので大変助かります」みたいな伝え方をするわけです。
 そういう細かな気遣いをして、みなさんに楽しく、前向きに仕事をしていただく環境を整えるのは、実際なかなか大変です。
 では編集のストレスは、誰が取り除いてくれるのでしょうか。
 結論から言えば、自分です。
 自分以外にストレスを処理してくれる人はいません。
 もちろん幸運にもストレスを解消してくれる配偶者やお子さん、親御さんやペットといった存在に恵まれている方もいることでしょう。
 ただ、究極的には自分でストレスをコントロールする能力を身に付けない限り、長くはもちません。

 そんなわけで、わたしなりのストレスコントロール法を書いていこうと思いますが、ストレスというのは非常に個人差の大きいものです。ストレスに敏感な人がいれば鈍感な人もおり、また多くの方にとってどうでもいい一言が、ある人にとっては心がえぐられるほどの痛みを伴うといった例は、いたる所に転がっています。

 ですのでわたしの方法論を語る前に、まずわたしのストレス耐性について触れておきます。
 数値を測って比較したことはありませんが、普通に考えて、わたしのストレス耐性は一般より高い方なのだと思います。そうでなければ、3万人が集まるゲームマーケット事務局の事務局長など、到底やっていられません(笑)。
 基本的に楽天的でポジティブ。空気は読める方だと思っていますが、それなりに鈍感力もあり、怒りの感情もあまり持続しません。

 うーん。
 なんて幸せなキャラクターなのでしょう(笑)。
 ただまあ実際のところ、これはある程度自覚的に手に入れた部分もあります。「タフでなければ生きられない」というやつですね。元々のわたしの性格で言えば、かなり短気な方ですし。でもまあ、イライラしたまま生活してもロクなことにならないと気付いてからは、いかにうまくストレスをコントロールするかに心を砕いてきました。
 ストレスをコントロールしない限り、編集として「関係者全員に気持ちよく仕事していただく」ことは不可能だからです。


 ではその具体的な方法を書いていきましょう。
 結論を簡単にまとめれば、「ストレスのコントロールを日常生活で習慣付けする」ということになります。
 常日頃から、自分にある種のマインドコントロールをかけ続けるわけです。

 わたしの場合は「食う、浴びる、寝る」ですね。

 ストレスがたまってるなと感じたら、まずはとにかく美味い物を食う。大体の人間は腹が減ると攻撃的になり、美味い物を食ったら幸せになります。
 逆に言うと、美味い物を食っているときに、他人の悪口とかは言わない方がいいでしょう。メシが不味くなります。ちょっとしたグチ程度ならむしろストレス発散のためにいいと思いますし、建設的な意見交換を行う上での相手の意見の批判であれば、大いに行えばよいと思いますが、純粋な悪口や相手の不幸を願うような悪意のある言葉を口にするのはアウトですね。
『鬼滅の刃』(著:吾峠呼世晴 集英社)の煉獄さんよろしく、「美味い! 美味い! 美味い!」と言いながら美味い飯を食ってれば、大体幸せな気分になれるはずです。別に口に出さなくていいです(笑)。心で思えばいい。

 浴びるは風呂に入ることですね。「風呂に入るのを嫌がる者は多いが、風呂に入ったことを後悔する者はいない」みたいな言葉を何かで耳にした記憶がありますが、真理ではないでしょうか。
 湯で温まって汚れを落としてさっぱりして、それでお風呂に入る前よりストレスがたまっているという方は、ちょっと何か根本的な部分でわたしとは価値観が合ってない気がしますので、たぶんこの文章はお役に立てないと思います。
 わたしは半身浴をしながら1時間くらい本を読むことがザラなのですが、自律神経がどうとかいった効果があるのかもしれませんね。ぶっちゃけ科学的なことはわたしには分かりませんが、実際に自分がリラックスできているという事実が重要です。

 寝る際重要なのは、何も考えないことだと思います。「アイツぶっ○してやる」とか思いながら布団に入っても、気分良く眠るのは難しそうです。
 まあ、ストレスがかかっているときに、何も考えずに眠るのは難しいと思いますが、なるべく別のことを考えるなどして一旦ストレスの原因を打ち消して、何も考えずに寝る。逆に言うと、寝るとき何も考えずにいるために、美味い物を食べたりゆっくり風呂に入るというところがあるかもしれません。
 そして目が覚めたら、「今日もいい日になりそうだ!」と思う。

「いや、そんな気分で目覚められるなら苦労しねーわ」という声が聞こえてきそうですが……そこが習慣付けの技術です。「そう思うようにマインドをセットし、自分に暗示をかける」のです。
 できれば毎日。
 普段から「美味い飯を食うと幸せ」「風呂に入ると幸せ」「寝て起きると幸せ」というマインドセットを自分に繰り返し刷り込む。
 そしていったんキツイことがあった際も、実際に美味い物を食って風呂入って寝る。
「それをすれば基本スッキリする」という感じの自己暗示のルーチンを1つ持っていると、人生が楽になります。

 もちろんこのやり方は、ある種の一時しのぎです。自分の生活圏に明確なストレスの原因が存在しており、その存在と頻繁に顔を合わさなくてはならない状況があれば、原因を排除しない限り問題は解決しません。それはまた別問題です。
 ただ、常日ごろ細かく降り積もるストレスをため込まず、日々払っておくことは、自分のパフォーマンスを高いレベルで安定させるうえで非常に重要です。
 性格的な向き不向きも大きいと思いますが、頑張って「幸せ気分になれるマインドセット」を育ててください。コツとしては、「こんなんで自分を騙せたら苦労しねーわ」といった感じで斜に構えず、「うひょー! ホントに幸せだーっ!」と素直に信じることです(笑)。
 ずっと続けていると、やがてクセになり、反射でそう思えるようになります。
「美味い! 美味い! 美味い!」と言い続けるのと同じベクトルで、何かあれば「幸せだなあ」としみじみ口にするのもいいと思います。『柔道部物語』(著:小林まこと 講談社)という漫画で、主人公たちが強くなるため、日々「オレってストロングだぜ~!」と叫びながら練習するというシーンがありましたが、考え方はそれと同じです。


 今回は日常で積もる小さなストレスのコントロールの仕方を書きましたが、ガツンとやってくる大きなストレスをどうやり過ごすかも、よい仕事をするうえで非常に重要です。
 そちらもまた機会があれば書いてみたいと思います。先に結論を書いておくと、基本は「あまり深刻に考えない」ということかなと思います。
 人間だれしも、「いま振り返ってみると、あの頃はどうでもいいことを深刻に悩んでいたな」という思い出が1つや2つあるのではないでしょうか。
 いま絶体絶命に思えていることも、数年後にはどうでもいい昔話になっている可能性があります(もちろん、いつ振り返ってもシャレにならない案件もあるでしょうが……)。
 その瞬間は「死んで詫びるしかない」くらいに追い詰められた気になっていたとしても、深呼吸をして美味い物を食って風呂で温まって、誰かに相談すれば大体のことは何とかなります。

 ここに書いたのは、あくまでわたしなりのストレスコントロール法です。自分に合った方法を見つけて、楽しく仕事に取り組んでください。

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