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刈谷メソッド_22「恐ろしきは在庫」

 前回まででボードゲーム制作についての話は大体語り終えましたので、あとは「在庫」と「広報宣伝」について語り、最後は「仕事に対する姿勢」についていくつか語ってこのメソッドも終了かなと考えています。

 そんなわけで「在庫」です。
 インディーズとメーカーでは在庫に対する考え方も多少違うと思いますが、大元のところは同じではないかと思います。

 今回のタイトルに「恐ろしきは在庫」とありますが、在庫は何が恐ろしいのでしょうか。もちろん売れない在庫は恐ろしいですね。でも当然ながら、需要があれば在庫を持つ必要があります。需要がなくなったときに在庫がゼロなのが理想ですが、まあそんなに上手くいくはずがありません。

 また難しいのが、「たくさん作ると1個あたりの製造原価が下がる」ことです。
 3,000個作ると500円の原価が、5,000個作ると400円になったりします(言うまでもないことですが、数字はあくまで例です)。そうすると5,000個作りたくなりますが、それで2,500個しか売れなかったら、残りの2,500個は不移動在庫、いわゆる不良在庫となります。

 じゃあ多少損するとしても3,000個にしたらいいじゃないという話ですが、今度はこの3,000個が機嫌よく売れた際、増産するかしないかが問題になります。
 増産するしないは、初期ロットがどんなスピードで売れたかによっても、判断が変わります。
 例えば最初の3,000個を完売するのに3年かかって、最後の半年の月平均出荷数が30個を下回っているとかであれば、もう増産しなくていいかなという判断になります(商品は流通在庫、店頭在庫を残して絶版)。
 これが逆に初月で1,500個出荷され、翌月500個、翌々月300個みたいな感じで在庫が減っていくと、これは当然増産することになります。ただ問題は、「いくつ作るのか」ということです。
 この場合も当然ながら、作る個数で原価が変わります。
 さっきの例で言えば3,000個作ると500円だったものが、1,500個作ると700円になったりします。
 製造原価500円を前提に小売価格を決定していた場合、ここが200円上がってしまうと、商品を売っても会社が儲からないということがあり得ます。ですが2刷を3,000個作って、結局1,000個しか売れなければ、残りの2,000個が不良在庫になります。
 ここの判断が非常に難しいのです。

 もちろんイラストやグラフィックデザインが買い切りであり、印税支払いが発生しないなら、増産分からはそのぶんが安くなります。ですのである程度の原価増は吸収できるのですが、それでも限界があります。
 インディーズですと、ここはもっとシビアになると思います。よほど評価の高いタイトルでない限り、だいたい次のゲームマーケットで旧作として出すと、極端に売れ行きが鈍ることが多いからです。
 春のゲムマで200個完売し、結構評判も高かったタイトルが、秋に100個再販したら80個売れ残った……そんな恐ろしい話を耳にすることもあります。
 みなさんも「評価が高いのになぜ再版されないんだろう」と思うタイトルがあるかと思いますが、上記のようなリスクがあるから、制作者さんが踏み出せないのだと思います。


 さて実のところ、原価うんぬんは在庫の恐ろしさの入り口にすぎません。
 在庫の本当の恐ろしさは、会計上「資産」と考えられることにあります。

 わたしは経理畑の人間ではありませんし、本当に経営のことを勉強したい方は、きちんと説明された書籍を読むことをお勧めしますが、在庫が資産として計算されることで、「損益計算書(P/L)」上において会社が儲かっているように見えてしまうことが恐ろしいのです。
 また「損益計算書(P/L)」上でそう見えるということは、税務署もその利益に対して課税してくるということになります。
 なんと恐ろしい……!

 ……いきなり話の方向が変わって、付いて来れていない人がいるかもしれませんが、これは本当に恐ろしい話なのです。
 特に「売上」を重視して「損益計算書(P/L)」を見ながら経営戦略を練っていると、気付くと在庫ばかりが増え、キャッシュがないということが起こりかねません。キャッシュがなければ、いわゆる「黒字倒産」という話も起こり得るのです。
 なんと恐ろしい……!

 また不良在庫は出荷されないわけですから、存在するだけで倉庫代がかかり続けます。これも数が増えてくるとバカになりません。
 ですので不良在庫は定期的に廃棄する必要があります。
 この廃棄がまた恐ろしい。
 言うまでもないことですが、在庫のときは資産だったものが、廃棄されると何の価値もなくなってしまいます。純粋な損益です。
 そのタイトルの販売によって1,000万円の利益を得ていたとして、500万円の在庫がある日廃棄されてしまったら、会社は500万円の損益を出したことになります。
 ただ、あくまでそのタイトルが稼いだ利益は1,000万円であり、その利益から500万円引かれるわけではありません。計上されていた会社の資産が500万円減るだけです。
 だから因果関係が分かりにくくて恐ろしいのです。

 ……あまり突っ込んだことを書くと、本当は詳しくないことが分かってしまいそうですし(笑)、ここまでですでに付いて来れていない人もいそうな気がしますので、一旦このへんで話を終わろうと思いますが、需要があればわたしももっと勉強して続きを書くようにします。

 とにかく在庫は恐ろしいというのが今回の結論です。
 需要があるのに在庫を切らし、売り逃しが発生するのも確かに恐ろしいですが、在庫を持ちすぎる恐怖と比べるとその質はまったく異なります。
 わたし自身、昔は売り逃しを恐れていたといいますか、より正確には「欲しいと思っている方がいるのにお届けできない状況」の発生を恐れていましたが(転売とかマジで許せん。最大懲役20年くらいの罪にしてほしい)、より経営者的な目線で考えることが増え、在庫のリスクということがようやく本当の意味で分かってきたところです。

 楽しくゲームを作り続けるために、平の社員であっても金の流れについてある程度理解を深めておく必要があるかと思います。

(……というか金のこととか、義務教育で教えるべきじゃないかな。中学とかで、国語数学英語理科社会+財務みたいな感じで。「ゲームが作れて楽しい」みたいな人生を送ってしまうと、50になってから勉強しなきゃならん(笑))

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