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刈谷メソッド_14「ルールブックは分かりやすさがすべて」

 気付くと4月が終わりかけていますが、「刈谷メソッド」も今回から第2部というべき内容に入ります。ゲームのライセンスの交渉も、イラストレーターさんやグラフィックデザイナーさんの選択と交渉も、指示やラフを介したやりとりも、企画書や稟議書の作成と会社への交渉、印刷所や運送会社さん、倉庫とのやり取りも、広告宣伝施策もボードゲームの編集屋は担当しなきゃならんわけですが、それでもやっぱり個人的には「ルールブックの文字通りの編集作業」が、もっとも編集らしい仕事ではないかと感じています。

 なんでしょう。いま改めて考えてみると、個人的な作業だからかもしれませんね、他はすべて相手がいて、相手とのやり取りで生み出すセッションと言いますか、ハーモニーなわけですが、ルールブックをどうレイアウトするかは、真っ白なキャンパスに自分で絵を描いていく快感があるからかもしれません。
 ただその快感には当然、責任が伴います。逃げる場所のない怖さと言えるかもしれません。まあ、最初からそこと戦っている作家さんやイラストレーターさんの恐怖心に比べれば、笑ってしまうようなレベルですが。
 でもまあ、そうした責任感、緊張感に対する恐れと言いますか、畏れと言いますか、つまりは敬意だと思いますが、神聖な気持ちで仕事に臨む気持ちは重要だと思います。

 さて、そうした「ルールブックの編集作業」についても、どういう内容を語るべきか分解してみましょう。


・分かりやすさがすべて
・ルールブックを読み込み、構造を理解する
・ルールブックの形をイメージする
・1ページのテキスト分量を決める
・見開きを意識する
・見出しの階層を考える
・例と図の頻度
・レイアウトの実際
・文体を統一する
・用語を統一する
・修正の指示
・分かりやすさがすべて


 ……という感じでしょうか。
 最初と最後が同じですが、つまり最初と最後に「分かりやすさがすべて」という呪文を唱えろということです。
 だって、ルールブックですからね。「行間から何を感じ取るかは読者次第」みたいなルールブックでは困ります。すべての技術は分かりやすさのために使われます。ほとんど「自分はルールブックの分かりやすさのためのマシン」くらいの自己暗示をかけていいレベルです。「雅な文学的表現」とかは自分のブログで披露しましょう。

「分かりやすさがすべて」について、くどいくらい書いたところで、それ以外の項目を順番に説明していきましょう。
 なおゲムマカタログに掲載されている「刈谷式 ボードゲームのルールブックの書き方」や「13_ルールブックの執筆」とかぶる内容がありますが、ルールブックの執筆は編集を意識して書くところも多いので、そのあたりはご容赦ください。
 ここではあくまで「他の方が執筆されたルールブックを編集する」というスタンスで、もろもろ説明させていただきます。


◎ルールブックを読み込み、構造を理解する

 これもまあ言葉通りで、特別説明するようなことでもないと言えばないのですが、でもこれは本当に大事なことです。
 慣れてきたら次の「ルールブックの形をイメージする」と同時に行えるようになりますが、慣れないうちはきっちり丁寧にこなしていった方がいいです。

 構造を理解するには、ルールブック執筆者さんが書いた見出しを全部抜き出して並べるのが手っ取り早いです。
 執筆者さんが見出しの強弱をつけているなら、それも当然残します。
 下記に『のびのびTRPG ザ・ホラー』のルールブックの実際の見出しを抜き出したものを用意してみました。

のびホルルブ見出し

 見出しのサイズ違いは、行の頭に入れているスペースの数で表しています。「ゲームの流れ」の下に「ゲームの準備」「ゲームの進行」「ゲームのクライマックス」があり、そのうちの「ゲームの進行」の下に「判定」と「ロールプレイ」があるということが把握できます。
 どうでしょう。これだけで何かルールの構造が見えてくる気がしませんか? いま見えてこなくても大丈夫です。慣れてくれば、いずれ見えるようになってきます。


◎ルールブックの形をイメージする

 上記のように分解して構造を理解したら、次はざっくりとした形をイメージします。本来的には、その形を決めるために「1ページのテキスト分量を決める」「見開きを意識する」「見出しの階層を考える」「例と図の頻度」といったことを固める必要があるのですが、まずは「レイアウトの実際」をアップしてみましょう。
 テキストばかりだと頭に入りにくいですし、最初にビジョンがあるとこの後の理解も早いですからね。

のびのびホラールルブ-1

のびのびホラールルブ-2

 上記はわたしが実際にタンサン株式会社さんにお渡しした、『のびのびTRPG ザ・ホラー』のレイアウト案です。
「手書きかよ!」と思われた方もいるかもしれませんが、手書きです。
 いや、エクセルでやったりもしますよ。
 下記は『リトルタウンビルダーズ』のときに作ったレイアウト案です。

レイアウト0828

 まあぶっちゃけ伝わりさえすればなんでもいいです。実際『のびのびTRPG ザ・ホラー』のルールブックも、『リトルタウンビルダーズ』のルールブックもいい感じに仕上がっているでしょ?(笑)
 重要なのは皆さんが「こういうことか」「こんな感じでいいのか」と思ってくれることです。手書きかどうかとかは、自分がやりやすいやり方を選んでかまいません。
 個人的感覚で言えば、手書きは自由度が高くてこねくり回しやすいですが、まあ正直見づらいものになりがちです。エクセルとかを使えば、見やすてスッキリしますね。でもまあ、やっぱりわたしの場合はエクセルにまとめる前に、実際に手書きでああでもないとこねくり回しますね。
「どういう構成にすれば、より読者に伝わりやすいルールブックになるだろうか」ということを突き詰めている時間は本当に楽しく、時が経つのを忘れるほどです。

 次回はこうしたレイアウトを組むに至るまでの技術について説明します。他の方が書いたルールブックのテキストを修正する際の話にも触れたいと思います。ぶっちゃけわたしは「ガンガン手を入れる」派です。「分かりやすさがすべて」だからです。

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