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366Birth stone&flower 旅の記録 #1

English version is here


Update: 2022/08/13
This is the story of the collection I am developing at opensea. 

まえがき

1年366日それぞれの日の『模様』があるという
その模様は『誕生石』と『誕生花』が合わさってできたもので
ひとつずつに特別な『意味』を宿しているらしい

その話を知ったある少女が模様を探す旅に出た。

これから紡がれるのは少女の旅の記録ーーーー

1日目〜1月1日の模様〜

「よく来たね。君は模様を探しているんだね。
何でわかるのかって?ここは探す意志がないと来れない場所だからさ。
『早告げの森』の入り口まで案内しよう。ついておいで」

s21_1ふくろう

そう言うと彼はばさりと飛び立ち、私を導いてくれた。

「さあ、ここから君の旅は始まるよ。
君が見つけようとするなら、必ず見つかる。そういうものさ」

早告げの森ーー緑色の森、と感じた。生い茂る葉は濃い緑色。
そしてその幹も鈍く光る薄緑色で、表面は磨かれた石のようにつるりとしていた。
その下には細く白い筋のような道が続く。

「では、良い旅を」
お礼を言った私に彼は優しく微笑み、美しい羽を広げた。


あのフクロウさんの名前を聞けば良かったな、と思いながら歩を進めた。
どれくらい歩いただろうか。ひんやりとした木の根に腰をおろし空を眺めると青い鳥が見えた気がした。
「幸せの青い鳥かしら」
そう呟くと、背後でくすりと笑う声がした。
見ると小さなー広げた手のひら程の大きさのー妖精と思われる少女が宙に浮かんでいる。

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「妖精さん?」
「私は精霊。あなたが探しているものを守っているの」
私が探しているものーつまり
「そう、私が守っているのは『1月1日の模様』
あなたは旅を始めたばかりだから今回は特別に案内してあげる」

そう言うと彼女はふわりと私を導き、道すがら色々なことを教えてくれた。
それぞれの『模様』を守護する366人の『精霊』がいること。
『精霊』は様々な姿形をしているということ。
全てを見つけるのはとてもとても難しいということ。

そして辿り着いた場所、小さな花が咲き乱れる中に一つ目の模様を見つけた。
その姿形はどことなく精霊である彼女に似ている。

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「あなたが次の模様を探すなら、きっと誰かが助けてくれるわ」

「探しに来てくれてありがとう。今日のこと、忘れないでね」
去り際に彼女は笑った。

私は絶対に忘れないと心に誓い、旅の記録をつけることにしたのだった。


2日目〜1月2日の模様〜

どうもここには「境界」というものがあるらしい、とモンシロチョウの女の子が囁いた。

s1_2モンシロチョウ


「探し物を見つけた人が超えられるんですって」

成る程、と後ろを振り返る。
ここも早告げの森の一部なのだと彼女は言うが、先ほど通り抜けたはずの緑色の木々はもう見えない。
扉を開けたように視界に違う景色ーー背の低い花々が飛び込んできた時は驚いた。
それから注意深く歩いた先、花畑の端っこで歌を聴いていたこの小さな蝶を見つけたのだ。
「お姉さん、かっこいいね。知らない場所に行くの、こわくないの?」
「こわい時もあるけど、とっても楽しいよ」
「ふうん、私はここで歌を聴いている方がいいなあ」
あ、でも、と小さな蝶は付け加えた。
「知らない歌を聴くと楽しい。それと似てるのかな?」

「お姉さんの探し物、あるとしたらあそこかも…時々キラッと光が見える気がするんだ」


女の子が指差した先はキャベツ畑…のようでそうではなかった。
キャベツとレタスーー正確には違うのかもしれないーーが交互にならんでいる不思議な場所だった。
「なんだか間違い探しみたい」
一つ一つ確認しながら歩いていくと、一つだけ上の隙間から微かに光が覗くものがある。

「あらあら、見つかってしまいましたかー」

s1_2ふくろう


そう言うと、彼女は丸いクッションから身を起こした。背丈の倍よりも長い三つ編みの髪が目を引く。
「先の子は親切でしたでしょう?だから私は少しだけいじわるなのですー」
先の子、というのは『1月1日の模様』を守っていた子のことだろうか。だとしたらーー
「ふふ、お察しの通り私は『1月2日の模様』を守る精霊です。
あなたの探し物、この畑のどこかにあるから探してね、と言いたいところだけど
私にも歌を教えてくれたら、場所を教えてあげる」
一瞬なんのことか考え、はっとした私に彼女が微笑んだ。

「モンシロチョウの女の子に歌を教えてあげていたでしょう?私、耳がいいのよー」

歌を教えると、彼女は満足そうに私を案内してくれた。
1月2日の模様はキャベツのような葉の外殻に守られてそこにあった。
その姿形はどことなく精霊である彼女に似ている。

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「あなたが教えてくれた歌、忘れないわー」

ひらひらと手を振り、彼女は言った。
背中の向こうで綺麗な歌声が響いて遠ざかっていった。


3日目〜1月3日の模様〜

「お嬢さん、そんなに見ていると泉に姿を取られてしまうよ」

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目の前に現れたキラキラ光る泉を覗き込んでいると、水面から顔を出した魚がそう告げた。
青色の体、ひらひらなびく尾びれがとても美しくて、思わず「綺麗」と呟く。
「それは光栄。でも私の目にはあなたの方が綺麗に映る。そういうものだよ、お嬢さん」
くるりと一回転しながら青い魚は優しげに笑った。

「泉に姿を取られてしまうってどういう意味かしら」
「あるお方の口癖なのさ」
あるお方、反芻しながらはっとし、口を開こうとした私に
「会いたいのなら、大きな声で呼ぶといい。あの方は木霊を愛しているから」
そう言い残して美しい青色は水中に消えていった。


「精霊さん、精霊さんーーーー」
「「精霊さん、精霊さんーーーー」」
できる限り大きな声を出すと、開けた場所なのに不思議と声がこだました。

すると、泉の上にぼうっと光が浮かび上がり、小さな人へと形を変えた。

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「呼んでくれてありがとう。君が見たいのは真実の姿かい?それとも理想の姿かい?」
黄金色の瞳がいたずらっぽく笑う。
「なんてね。君が見たいのは僕が守っている模様なのはわかっているよ。
でもそうだな、一つ質問させてもらおう。君は自分のことが好きかい?」

何の意味があるのかしら、と思いながら考えを巡らせ、正直に答えた。
「嫌いになる時もあったし分からない時もあるーーでも、今こうして旅をしている自分は好きよ」

「そうか」と頷き、彼は泉の中央に咲いている一輪の水仙に視線を移した。
「神話の青年は泉に映った自分に恋をして死んでしまった。そうして水仙になった。
彼が不幸だったのは自分のことだけしか愛せなかったことだ。でもーー
自分のことを愛せることは素晴らしいことだと思う。あの水仙は僕の願いの化身だ」
そう言うと彼は両手を広げた。金色の光の輪が浮かび、その中に『1月3日の模様』が映し出された。
その姿形はどことなく精霊である彼に似ている。

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「あなたは自分のことが好きではないの?」
私の問いには答えず、彼は自分の影を指差した。
「精霊の姿は守っているものに似ているとは限らない。それを覚えておくといい」


4日目〜1月4日の模様〜

「ああ気になる気になるわ」

s1_4生き物


ガサガサと音を立てて草陰から飛び出してきた女の子は、ウサギに似た耳をひょこひょこ動かしながら唸っていた。
何がそんなに気になるのかと聞いてみると
「おしゃべりなキノコ達の集会があるらしいの。気になるわ。気になるわ」
細い腕を組みながら彼女はうーんうーんと再び唸った。
ここでは風に乗って色々な噂が流れてくるらしい。
「気になるなら探しに行ってみたら?」
「場所も時間もわからないんだもの。あるかどうかもわからないんだもの」
噂ってそういうものだから、と言いながら彼女はまた耳をひょこひょこ動かす。


「あとね、この頃あの丘の向こうから聞こえるの。『私を探して』っていう声が。ああ怖い、怖いわ」
そう言うと彼女は大きな耳を塞いでぱたぱたと走っていった。
『私を探して』ーー
もしかしたら、と私は丘へ向かった。


丘を越えた先には大きな岩の壁があり、そこに不思議な光景が浮かんでいた。
風が吹くたび、岩肌のあちこちがじわじわと霞む。まるでモザイクがかかるように。
恐る恐る近付いて触れるとごつごつとした確かな岩の感触があった。
思い切って岩壁に寄りかかってみる。固い岩肌が体重を支える。
じわじわと霞んで見えている部分も、岩であることは間違いないようだった。

本当にここから声がするのかしら
そう思いながら、少し離れて岩壁を眺めた。
しばらく眺めていると、風が吹くたびに起こる霞みが一定の周期で繰り返されていることに気づいた。
そして、さらによく見ると岩壁の下の方、ある一箇所だけがにじむことがない。

体を丸めてその箇所に触れてみると、手が岩をすり抜けて奥に届く。
目には映らない小さな空洞の中、思い切り手を伸ばすとあたたかい何かが指に触れた。

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「探してくれてありがとー…」
指にしがみついて空洞から出てきたのは手のひらほどの大きさの女の子だった。
「私は『1月4日の模様』を守る精霊……上、見て……」
彼女の言う通り顔を上げると、岩壁の一番上に1月4日の模様が浮かんでいた。
その姿形はどことなく精霊である彼女に似ている。

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「この模様はとても繊細だから……大事に守っているんだよ……」

「私を見つけてくれる人、なかなかいないから嬉しかった……他の子も探してあげてね……」
そう言うと彼女は霞むように消えていった。私の指先に温かさを残して。

5日目〜1月5日の模様〜

緑深い森の中、ざくざくと落ち葉を踏みしめて進んでいく。
時折さらさらとした風が木々を奏でるのが心地良い。
切り株に腰を落としてうーんと背伸びをしていると、顔の横を何かが横切った。
今のはもしかして、と思いながら何かが飛んで行ったと思われる方向に歩き出すと

「今度の集会ではとっておきを披露しましょう。みんなを驚かせたいわ」
「ええ、ええ、驚かせたいわ。今までの頑張りを見せましょう」

s1_5生き物

綺麗な色のキノコ達が何やらお喋りをしている。立ち聞きをするのも悪いのでこんにちは、と声をかけた。
「あらやだ、あなたいつからいたの?え、集会があると噂になってる?あらまあ、困るわ」
「大丈夫よ、私達の本当の言葉がわかるのはあの方だけだもの」
あの方、と繰り返すと
「会ってみたいなら木が歌う方へ行ったらいいよ」
小さなキノコがこちらを見上げて笑う。
「お姉さん、旅人なんでしょ。きっと歓迎してくれるよ」
耳を澄まして辺りを見回すと、横にあった葉から見覚えのある紫色が飛び去っていった。
もしかして、あの子も境界を超えてきたのだろうかーー
なんだか頼もしく思いながら、私は木が歌う方向を目指した。

木々の歌が途切れた先は崖の上だった。眼下には水色の大地が広がっている。
空の青を薄めたみたいな色だなと思い上を見上げると丸い目がこちらを見下ろしていた。

「僕が思うに、君はキノコ達の集会が気になったが深追いしなかった。
キノコ達が困ると思ったからか。探し物を見つけたいと思う心が勝ったのか。
おそらく後者だね。良いんじゃないかな、二兎を追うものは一兎を得ずと言うからね」

頭の中に声が鳴り響く。大きな羽に空気を含ませて、ふわりふわりと降りてきたのは、私の背丈よりも大きいーー

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「そう、君が思った通り僕は精霊さ。と同時に冒険家でもある」
また頭の中に声が響いた。どうやら彼との会話はこうして行われるらしい。
「僕が思うに、君は僕の同士だ。君は旅人であり、冒険家だ。同士に会えるというのは嬉しいものだね。
君が探しているものを見るには少しの勇気と僕への信頼が必要だ。高いところは平気かい?」

大丈夫、と頭の中で返事をし、きゅっと口を結んで彼を見た。

「よし、では行こう」
彼は私の手を取り、崖から身を乗り出す。
瞬間、彼の背中の羽は魔法の絨毯のように広がり、私達を乗せて飛んだ。

身を切る風とともに流れて行く景色の中、水色の大地の中に『1月5日の模様』が見えた。
その姿形はどことなく精霊である彼に似ている。

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地面に私を降ろすと、彼の羽は形を変え、風を含んで舞い上がった。
空高く昇っていく姿に手を振ると、頭の中に「また会おう、同士よ!」という声が響いた。


6日目〜1月6日の模様〜

境界を超えた先に広がっていたのは海岸だった。
空は夕闇を飲み込んで夜を映そうとしている。
波のない、穏やかな海。靴を脱いで少しだけ入ってみようかな、と思った時だった。
「おやめなさい。さらわれてしまいますよ」

かけられた声にどきりとして振り返ると、そこには美しい天馬がいた。

s1_6生き物


「この海には猛獣がいるんです」
「こんな浅瀬にも?」
「そう、ここはまだ浅い。だからこそ気をつけねばならないのです」
いまいち噛み合っていないような返答の意味を考えていると、辺りはたちまち夜になった。
天馬の翼は淡く光り、黒い毛並みを照らしている。綺麗だと思って眺めていると、天馬はふいと体を横に向けた。

「乗りますか?あなたが探しているものは人の足では届かない場所にある」
私の探し物を知っているのかしらーー不思議に思いながら背に跨ると銀の翼が大きく広がって
「私は綺麗ではない」
羽ばたく音に紛れた呟きとともに駆けた体が空の闇に溶けていった。


「まあ、あなたが客人を連れてくるなんて珍しい」
海の真ん中、突き出た岩の陰から出迎えてくれたのは人魚のような姿をした精霊だった。

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天馬は精霊には言葉を返さず、私を岩の上に降ろすとすぐに飛び去ってしまった。
ありがとうと叫んだ声は届いただろうか。
「あの子はね、私のことが苦手なのよ」
彼女は私に微笑むと、胸の前で手を組んで歌い出した。澄んだ声が虹の帯のように空に昇る。
歌が終わり、きらりと光った海面に現れたのは大きな星ーー『1月6日の模様』
その姿形はどことなく精霊である彼女に似ている。

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「あの、この海には猛獣がいると聞いたんですが」
「ええ、いますよ」
「あなたは平気なんですか」
「ええ、私がその猛獣だから」
予想外の言葉を返され、一瞬頭の中が真っ白になる。
「私の歌は鏡歌。悲しい人には悲しくて、嬉しい人には嬉しくて」
淋しそうに彼女は笑った。
「あの子にとっては、聞きたくないものなのでしょうね」

「穏やかに見えますか」
「ええ」
天馬の背の上で交わした会話はあれだけだった。
見下ろす海はどこまでもなだらかだったけれど、はたしてあれは海のことだったんだろうか。


ー物語は続くー

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