怪しい世界の住人〈狐族〉第二話「狐族の末裔」
❸「きつねのあたえ」
妻は、正装して夫の元に姿を現します。夫は妻の正装を見てそれが永遠の別れであることを悟ります。
夫は、去って行く妻の顔を見て恋しくなり、ここで歌を唄いました。
その歌は、
——恋は皆 わが上に落ちぬ たまかぎる 遥かに見えて 去にし子故に
と言うものです。
そして、自分の息子に妻との思い出である〈岐都禰〉と言う名を与えますが、やがてその子が成長し、姓を〈狐直〉と名乗ることとなります。
その子は強い力を持ち、
「走ること疾くして、鳥の飛ぶが如し」
と言われました。
やがて、三野の国に〈狐直〉と呼ばれる集団が現れます。彼らの祖先はこの者だそうです。
この物語は姿を変え微妙に内容が変更され続けて後の世に多くの亜流を生み出します。そして様々な地方に伝説として残されます。
多くの伝説では、その昔、夫が妻に〈来つ寝〉と言ったところ自分の正体がばれたと思った妻が、庭にいた獣に姿を変えて逃げたと言うものに変わって行きます。
その時に、庭にいた獣が狐であり、その時からその獣を〈狐〉と呼ぶようになったと言うものです。しかし、前のページの原文の部分、
「毎に来たりて、相寝よ」
を思いだ返してください。どう読んだら、〈きつね〉となるのでしょうか?
アカデミズムの視点ではこれを語源としています。ここに大きな疑問が含まれているのです。そして、この『日本霊異記』の仲に登場する物語、どこか何かに似ていませんか? そう、かの有名な安倍晴明公の物語も、この物語の影響を受けているのです。
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