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怪しい世界の住人〈狐族〉第八話「再び野狐について」

⑨ 再び野狐について

 管狐の中の〈山尾裂〉は人に憑きません。しかし〈里尾裂〉は人に憑いては厄をなす低級な悪霊です。ですが、一番良く人に憑いて厄をなすのはやはり野狐やこが多くなります。

——野狐が人を化かす時は髑髏どくろを頭にいだいて修行する。

 と伝わります。多くの化かす存在は、頭に何かを乗せて修行するそうです。髑髏の他は馬の草鞋わらじが知られています。また、猫は皮の足袋たびを頭に乗せて修行すると言います。
 われわれ陰陽師やお祓いをする者が祓う本物の狐憑き現象はほとんどが野狐です。〈本物の〉と書いたのは偽物も多いからです。偽物と言うか本人も狐憑きだと思い込んでいる場合が多いのです。もちろん、狐ではないものに憑依されている場合もあります。たとえば死霊しりょうだとか白蛇の霊に憑依されている場合もあります。しかし、本物に見える憑依の多くは、ただの思い込みです。
 狐憑きを祓うことを〈霊狐れいこを落とす〉と言います。
 基本的に野狐は塩気しおけを嫌います。本物の狐憑きでなく、ただの狂った狐憑きらしき現象も塩気を嫌うことが多いです。簡単な方法では、塩のついたオムスビを食べさせて落とすこともあります。
 また、生理中の女性に塩をつけていないオムスビを運ばせ、塩気がないと騙して、狐憑きの人に食べさせて落としたと言う記録もあります。塩気がそばにあっても祓えますが、振りかければ効果絶大です。祓いの基本にも塩を振ることがあげられています。たとえば葬儀の後に家に入る前に塩を振るのは、死んだ人に会った穢れを祓うためです。これは死者の霊と共に低級霊が付いて来るのを防ぐ意味もあります。
 天狐も、たまにですが人に憑くことがあります。ここで言う天狐は〈天狗あまつきつね〉のことではありません。人の頭に憑依する低級霊のことです。
 天狐憑きは落すのがとても難しい種類の現象です。天狐は人の言うことを先に悟って常に裏をかくような言動に出ます。祓う人が言葉に驚いて息を飲むと、その瞬間に心に入られます。すると祓う筈が頭に憑依されて、元々憑依していた人が正気に返るのです。
 白狐も時たま人に憑きますが、この時も天狐と同じです。その時、祓うには、

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