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播磨陰陽師の独り言・第536話「バスの思い出」

 バスに乗るのが好きです。バスにはいくつもの思い出があります。
 はじめて実家を出て、ひとりで旅をするようになった時、バスの窓から外を見ていました。ザーザーと激しい雨が降っていました。景色は雨にゆがんで、遠い景色はボケていました。何だか未来を示唆しているような不安な景色でした。その光景は、今でも目の奥に焼き付いているように思い返せます。何か大きなイベントがあるたびに、バスに乗っていました。どの場面でも激しく雨が降っていました。
 今、住んでいる家からバスに乗って小倉こくらへ行く時も、いつも雨が降っていたような気がします。家の前からバスに乗ると、小倉の松本清張記念館まで行けます。私はこの記念館が好きで、時々、行っていました。松本清張さんの小説が好きです。かなり読みました。映画になった作品もたくさん観ています。
 大阪の平野ひらのに住んでいた頃も、意味もなく難波から自宅までバスで帰ったことがあります。かなりの遠回りで金額も高かったような気がします。何度か平野から様々な場所にバスで行きました。なぜか、どの日も雨が降っていました。雨は好きでしたが、だんだんと嫌いになりました。と言うのは、雨が降ると体調不良になるからです。
 バスと言えば、子供の頃のバスはいわゆるボンネットバスでした。先が前に突き出たレトロな形のバスです。確かはじめの頃は木炭か何かで動いていたと思います。中にバスガールさんがいて、切符を売ってくれました。ワンマンカーではないので再生されるテープなどではなく、生の声で次の停留所を案内してくれました。独特の節回しで歌うような感じの声が美しかったです。
 そんなバスに乗っていた子供の頃のことです。突然、急停車したバスの中で、私は椅子から転げ落ちてしまいました。その時、怪我こそしませんでしたが、驚いて、しばらくジッとしていました。それから大騒ぎになって病院に連れて行かれましたが、何事もなく、大丈夫でした。その日の夜、バス会社の人が菓子折りを持って家に来ました。菓子折りは柳月りゅうげつでした。このお店は地元で有名なお菓子屋さんで、今でもあります。
 そう言えば、大人になってから富山に旅行した時も雨でした。電車で行けるところは知れているので、バスの時刻表をPalmに入れて、バスを乗り継いでの旅でした。Palmと言うのは昔の携帯端末です。富山の城端《じょうはな》駅からバスに乗って白川郷まで行きました。白川郷の周りに父方の田舎があったので、妻とふたりでそこを見たかったのです。

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