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『ビルド・ア・ガール』におけるファッションが示す、ジョアンナ=ドリーの内面的成長について

『ビルド・ア・ガール』は、主人公であるジョアンナが大人達に振り回され、毒舌ライター、ドリーに変身するという苦い経験を通して、本当の自分を見つける物語である。

彼女のファッションとリュックは、彼女の変化を示す象徴となっている。

1980年代のUKロックのファッションは、ビジュアルの派手さを競い合っているかのように(ザ・スミスは例外)、男性アーティストでもアイラインはギラギラだし、かなり華美だった。それに対し、この映画の舞台となる、1990年代のUKロックのファッションは、オアシスやブラーのように、外見の派手さよりも、音楽性で勝負しようとし、服装は中流階級、労働者階級の若者が着古したクッタクタの服をそのまま着ているようなものだった。

毒舌音楽評論家になったジョアンナ=ドリーは、1980年代のカルチャー・クラブのボーカル、ボーイ・ジョージを思い起こさせるような派手な身なりをしている。一世代前の格好をしていることは、彼女が田舎者で流行に乗り遅れていて、イケてない女子であることを示している。また、帽子の高さは、身長の低さを目立たなくする役割があり、大人の世界で、子どもだからとなめられたくない気持ちの表れである。悪い大人たちに出会い、どんどん露出の多い格好に変わっていっても、彼女はベースとなるこの身なりを、悪びれもしないし、変えようともしない。

どんなに稼ぐようになっても、彼女は犬の刺繍で満たされたリュックだけは変えない。冒頭で彼女の家が犬を繁殖して不当にお金を稼いでいたことから、このリュックは「家」の象徴であると考えられる。彼女が家庭を「背負っている」=大黒柱であることを示すと同時に、彼女がどんな環境にいても、「家」「家族」への思いを持っていることを暗示している。

劇中に「ピグマリオン」への言及があったが、彼女は失敗もするが、男性のために「変身」するのではない。苦い経験を通して、自分の意志で変わるのだ。物語の最後で彼女は、毒舌音楽評論家、ドリーであることをやめ、ジョアンナとして新たな職を求めて面接に向かう。彼女のファッションに注目して欲しい。もう自分の背の低さを隠すほどの大きな帽子を被ってもいないし、肌身離さず持っていた犬の刺繍のリュックも持っていない。さらに、過度な露出もしていない。少し小さくなった帽子とピンクのバッグは、彼女が、自分自身を束縛していたものから解放され、真の意味での「自分らしさ」を見つけたことを示しているのではないだろうか。

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