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わたしのお守り。垣間見た、一流の人たちの言葉と姿勢

テレビを見ていたら、デビューの頃にNHKの歌番組に出演した日のことを思い出したので、少し書いてみようと思います。もう20年前ですね!

デビューして2年目の時(2004年)に、出演することになった歌番組。新人は私だけで、錚々たる方々ばかりだったの。メインコーナーは布施明さん、ささきいさおさん、田辺靖雄さん、九重佑三子さん、渡辺真知子さん、森口博子さん……。わたしの出演するコーナーはその方々とは別で、夏のボサノヴァコーナー。ご一緒するのはマルシアさん、マリーンさん、南佳孝さん。

ガッチガチのわたしに一番最初に「初めまして」と声をかけてくれたのが、森口博子さんでした。抜けるような白い肌と明るい声。キラキラなんていうものじゃありませんでした。テレビで見るより何倍も美しい。これが芸能人のオーラ……!!眩しすぎて直視できませんでした。緊張していると話すと「大丈夫、大丈夫♪」と笑顔をくれました(一瞬で恋に落ちました)。

右往左往でしたし、緊張しすぎて記憶がいまいち残ってないけれど……。
台本は厚みがありました(探せばどっかにある)。言葉だけではなく、どこから入ってどこへハケるのかの動線まで、細かく指示が書かれていて。覚えられるのかしら。不安…。ひとり迷惑はかけられない。嬉しさよりも怖さが勝っていたと思います。

幸い、当日はプロンプターで舞台の前にほとんどの指示が映し出されたので、迷うことはありませんでしたが、芸能人の方々は日々こういう中で生きているんだなと実感しました。すごい人の数。舞台装置。強い照明の光。この中で立ち振る舞うのか……。
頭の回転が良く無いと、生き残れない世界なのだろうなと思いました。

一度スタジオでアレンジなどの確認リハをした記憶がありますが、コンサート会場では「ゲネプロ」と言って通しのリハーサルが行われました。着る予定の衣装が照明で透けないか、どんな色かを、歌うわたしの隣でスタッフさんが掲げてチェックして下さっていました。

シルクの羽衣のようなシースルーブラウスと薄いブルーのBCBG MAXAZRIAのロングスカート。この頃は「衣装はシワになりにくいのが正義」と知らず、少しいいもの着てた(笑)

高知の大ホールでの公開収録でした。左手後ろには、ギターを抱えた南佳孝さん、シェーカー(ガンザ)をもったマルシアさん、それからマリーンさん。


NHKのオーケストラのサウンドって特徴があるから、その中で歌うのはとても感激したのを覚えています。ああ、聞いてきた音だ〜!って。
しかし、本番は記憶が飛ぶくらい緊張して、正直まともに歌えなかったです‥‥(本番ゲキよわ人)思い返しても、貴重な体験だけれど、穴があったら入りたい。うう。

照明も、普段のライブハウスの何倍も強くて、目がちゃんと開けられない。舞台俳優さん、タレントさんたちの目が照明やけして、視力が落ちるのもうなづけます。ホールの手前1〜2列目くらいまでは見えても、その先はほとんど見えません。

1,500人の拍手が聞こえるけれど、ほとんど見えない。でも収録しながらのコンサート、一発勝負です。見えないけれど、圧がある‥‥気がしました。嬉しさよりも、気持ちよさよりも、とにかく怖かったな。


なんとか本番を終えてから、マリーンさんがマネージャーさんと一緒にきてくださいました。「やっぱりボサノヴァは囁くのがいいですね、リハであなたが歌うのを聞いてそう思ったから、本番はウィスパーにしたの。勉強になりました」なんという身に余るお言葉……。こういう方がいいな、と思ったらすぐに対応できる技術力があってこそ。何より、新人にわざわざ伝えにきてくださるなんて。


そしてマルシアさんは歌う曲目を替わってくださいました。本当はわたしが「美味しい水 Água de beber」で、彼女が「イパネマの娘 Garota de Ipanema」の指定だったのです。でも当時、美味しい水、ニガテだったの。快く変わってくださって、しかも黒いドレスにピッタリでとってもかっこよかった‥‥!

「ブラジルでも日系のコミュニティで育ったから、ボサノヴァはあまり知らなくて習ってるの」と話してくれました。森口博子さんと「そういうふうに歌うには、どうしたらいいの?一旦バーンと出す歌い方にすると、ウィスパーにするのは難しいから」と言ってくださって。わたしはむしろバーンと歌えるようになりたいのですが…!!
そんな言葉をかけてくださることに、また感激しました。

打ち上げでは、布施明さんが「お疲れさま、素敵だったよ」と微笑んでくれました。朗らかな太陽のような笑顔はテレビでみるあのまま。なおも端っこの席でひっそりしていると、ささきいさおさんが話しかけてきてくださいました。

「あなたはブラジル出身なの?声の響きが他の人と全然違うから、あの子はきっとブラジルで育ったんだね、とリハの時みんなで話していたんだよ。そうかあ、違うんだ。本番は緊張しちゃったんだね、響きがちょっと変わっちゃったもんね。でも素晴らしかったよ。あなたを見ていて、幾つになっても初々しさ、初心を忘れないようにしなきゃいけないなと思ったよ。ありがとう。頑張ってね」

穏やかな声と笑顔で、そんなふうにお話ししてくださいました。もう泣きそう。
わたしはこの時の会話をきっとずっと忘れないでしょう。ありがとうだなんて‥‥100万回のありがとうございますをお返ししたい…‥!

皆さんとてもステキな、謙虚な方々ばかりでした。学ぶ姿勢と努力、気遣いを持っていて。「わたしも昔はすごく緊張したなあ」「だから大丈夫だよ」「とっても良かったよ」
自分が通って来たこと、気持ちを忘れずに、シェアしてくださって。だからこそ、長く活躍し、周りからも愛されるのだろうと思います。

どれだけ表舞台に立っていても、ほんとうは舞台袖で、ギリギリまで緊張で手を冷たくしている方も多いのです。簡単にやってきたわけじゃない、粘り強く学び、ステージに立ち続けてきたからこその、プレッシャー……。


先輩方からもらってきた言葉や姿勢、励ましは、わたしの中にお守りのように、宝物のように残っていて、時々そっと取り出してエネルギーをもらっています。わたしもいつか、誰かにそんな気持ちをあげられたらいいな。出会った方々のようには大きくはなれていないけれど、そういう姿勢を忘れずにいたいな。

怖かったけれど、学びの大きな、とってもいい思い出です。

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