見出し画像

歳を取ることは、宝だ。

今月一つ、歳を取った。
小さな不具合はあっても、大病せずに演奏でドタバタと過ぎてゆくのは幸せなことだなあと、今年は特に実感している。ライブ本番の数日前、母が救急搬送されるという緊急事態があったから余計にそう思う。検査の結果、入院もなく無事に帰宅できたのでホッとした。健康一番、お金じゃ買えないね。自分ではどうしようもない部分もあるけれど、だからこそ感謝感謝。

人はどうして、若さを重要視するのだろう。
もちろん自分もそういうところがあって、10年前の動画と今の映像を見ると、たるみやらシワやらシミやら気になって凹んでしまう。気づけば4Kが主流になり、8Kも目の前だ。もはや隠しようもない。30万画素の時代に思いを馳せる……あれくらいがちょうど良かったよ。お化粧をする人は、嫌でも自分の肌のコンディションと向き合わなくてはならないから、よりシビアになってしまうのかもしれないね。

歳を取るたびに、若さと引き換えに溢れ落ちて失われるものがある気がしてしまう。得ているもののほうが実際はずっとずっと大きいはずなのに。実際、今が一番しあわせで、身軽で、楽しい。
それなのに、肌のハリと21年の実績や48年の経験を天秤に乗せようとしてしまうのは何故なのだろう。まあ半分は本能的なものなのだろうから、仕方ないか。抗う気持ちも大事は大事だ。と思いながら今日もパックを顔に貼る。


先日テレビでたまたま、あるコンサートの様子を見た。

その番組での中島みゆきさん、研ナオコさん、シャンソン歌手のクミコさんの歌がそれはそれは素晴らしかったのだ。

私の憧れのシンガーは研ナオコさんなのだけれど、あんなふうに肩の力を抜いて淡々と歌いたいといつも思っている。隣でつぶやくように歌うのはとても難しい。個性的なのに、それがとても儚く美しいと感じるのだ。
中島みゆきさんは可愛らしさを見せたかと思うと、突き放すように一気に壮大な、誰も辿り着けない世界へ行ってしまう。万華鏡のようなその世界を見るのが楽しい。
クミコさんは今まで正直なところ、ピンとくる人ではなかったのだけれど、その時の歌唱映像が、凄まじい気迫で圧倒されてしまった。感情の昂りを思い切り乗せて、最後はもう音程も取れていない、語りのままのような歌唱。それがまた気迫をさらに伝えるようだった。


ああ、なんてすごいんだろう。みんな違う、ビリビリと伝わるそれぞれの情感。そこにはとてつもない深みがあり、神々しさすら感じられた。清濁併せ呑む、という言葉が合う、濁流と清流が入り混じるパワー。慈悲、悲しみ、喜び、慟哭、愛。隣り合わせにもつものを全て内包するような。

若さゆえのフレッシュな歌もいいけれど、いつかこれだけの深みのある歌が歌えるようになりたい。なんて素晴らしいんだろう!! なんて美しいのだろう。これまでの、これからの、出会うものがなんだって糧にしてしまえそうだ。まだ20年は時間がありそう。なんて楽しみなんだろうか。こういう歳の取り方をしよう、と、彼女たちを見て、歳を重ねてゆくこと、歌うことにワクワクした。


これは聞いたのとは違う曲だけれど、クミコさんを貼っておくね。最高。

時間は平等だ。どんなに急いで詰め込んでも、流れゆく一歩ずつの時間はどうしたって飛び越せないのだ。そのステージでなければ経験できないことがどうしてもある。それはポジティブだけではなくネガティブもあり、それを傷つきながら葛藤しながら受け取り、越えて行くからこそ、その亀裂の深さを自分の力にできるのだろう。わたしも戻ることのできない時間をだいぶ重ねてきたけれど、今となっては大切な経験なのだ。

そうした時間は宝だとわかっていても、時々それが重くて降ろしたくなる。そんな時に若かった頃に戻りたいと人は思うのかもしれない。


何が不安だったのかしら。怖がること、全然ないじゃない。
ピチピチな若い時は確かに可愛い。生物的にもフェロモン出てるし。だけど歳を重ねた大人の女神もかっこいい。いつまでそんなことやってるのって言われがちな歳なんだけど、いつまででも気が済むまでやろう。
ただ健康だけは気をつけよう、ほんと。こればっかりはもうヴィンテージなんだから仕方ない。素敵な古民家になれるよう磨けたらいい。

わたしが演奏するボサノヴァは壮大に歌い上げないのが美学の音楽だから、情感を込めることはわたしはあまりしないで歌う。受け取った人が自由に想像できるように、余白を残したい。けれど自分の奥に、生き方に、情を持っているのは大事だと改めて思う。

先日のバースデーライブの後で、ひとつ、描いていたところに指先が届いた思いでいる。それはもしかしたら思い違いかもしれないけれど、グッとホールドして次へ手を伸ばしてみたい。その時間やチャレンジはまた、わたしの新しい宝物になるんだろう。泣いたり笑ったりの年輪がいつか大きな樹になったら嬉しい。

軽やかにさりげなく、気迫を帯びていけたらいいな。

サポートありがとうございます(^^) 機材購入費や活動費に、大切に使わせていただきます!