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Contemporary

7月1日(月)
・荷物
先週、気の赴くままに北海道へ行った。
なんとなく、あの頃には戻れなかった。
新千歳空港行きの電車に揺られていると、
「ふるさとは遠きにありて思ふもの」
という一節が浮かんだ。
ほんまやわ、と今になって思う。
寂しさ、悔しさ、センチな感情。
要らないものばっかり荷物になった。
リュックが膨らんでいる、
まだお土産買ってないのになあ。

・ハッ
移動だけで筋肉痛になっているのはどうしてだろう。
不思議だ。
「東京に戻ってどうするの?」
退化していく身体から、心から、声が聴こえる。

・都市
箸を割る、乾いた音が部屋に響いた。
消費して、捨てて、買って、消費して、捨てて。
日に日に進化する文明の片隅で、
なにか大切なことを忘れている気がした。

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7月2日(火)
・渦
仕事の執筆を進めている。
なんだかなあと思うものを褒めちぎる文を書いている。
昔の雑誌で、こんな冒頭で始まる文を見たことがある。
「何がいいのかわからない…(以下略)」
今、同じことを書いたらさぞ弾き返されるだろう。
本音を落っことした、「多様性」という渦の中に。
今日はひとつ嘘をついてしまいました。

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7月3日(水)
・マグロのおすし
電車内ビジョンに時折ピクミンが登場する。
「これなんだ?」と訊かれ、全体の一部を少しずつ見せられ正解を導く形式の広告だ。たまに分からないこともあるのだが、今日は非常に簡単ですぐに分かった。
しかし、どういうわけか自信を持って答えることができないでいる。映っているのは間違いなく「マグロ」であり「寿司」なのだが、なんとなく困ってしまった。
「マグロのお寿司」でいいのだろうか…
それとも単に「マグロ」という可能性も…
あれ、急に難しいのだけれど。
ええい、こうなったら可愛さもプラスして…
答えは「マグロのおすし」これだろう!
おっと、ちょうど目的の駅に到着してしまった。
降りる間際にちらっと顔を上げると、
色とりどりのピクミンが「寿司マグロ」の横で踊っているのが見えた。

・明るい
バイトが終わるといつも夜なのが憂鬱で、
今日は早い時間に帰ることにしていた。
夕方の空は明るくて、
夏の入口に立っているような気がした。
心が浮ついたのも束の間、いつも通りの電車に乗る。
押しに押されている、できれば推しに推されたい。
ホームに降り立つと、今度は背中を押された。
誰かと思ったら、
あまりにも堂々とした夕日がこちらを見ていた。

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7月4日(木)
・敗北
何も考えずにゲームしてる、十連勝した全部完封。

・村行き
村で暮らしている同級生のことを思い出した。
居候させてくれと頼む場面をさっきから想像している。

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7月5日(金)
・梅走る
確実に寝坊したであろう人を見かけた。
梅干しみたいな顔をして風を切っていった。

・向こう側
銭湯にて、鏡に映る自分を見つめている。
痩せ細った身体と、心までもが透き通る。
鏡の向こうに未来を重ねる歌を思い出す。
もし、今すぐに向こう側へ行けるなら…
いや、行きたくない。見たくもない。
これ以上痩せ細っていたらと思うと、明日すらこわい。
それに、未来は時間が経てばいずれやってくる。
それよりも鏡を割って、壁を突き破りたいと思う。
限りなくこちら側なのに、向こうを覗くことは決してできないのだ。

・流れ
昔ながらの長屋に電動自転車が止まっている。
あのチャイルドシートでは白菜や大根、長ネギが運ばれているに違いない。

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7月6日(土)
・ピシャーン
風の音かと思っていたら大きな雷だった。
大したことないだろうと思い、外に出ると秒で濡れた。
ちょっとどころじゃない、プールに突き落とされた。
ハンガーに服をかけている、何もしてないのに。
今日が土曜日なんて、いったい誰が信じるだろう。

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7月7日(日)
・願い
銭湯ざぶん、波の音が聴こえた。
選挙に行こう、珍しく声が揃っていた。
昨日と今日の区別もつかない、銃声が鳴っている。
いつかの未来で今日を思い出すだろうか。
きっと、ふたりのようには思い出せない。

・郵便
郵便物を抱えて歩く深夜3時。
ポストの下で猫が眠っていた。
届けばいいな、と思う。
優しい気持ち封入パックで、行ってらっしゃい。

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