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「良く見える眼鏡とは何?」を解説します


皆さん、「良い眼鏡」って何だと思いますか?

一般の眼鏡ユーザーの多くは「遠くがよく見える眼鏡」を思い浮かべるんじゃないでしょうか?

しかし、眼鏡屋が考える「良い眼鏡」とは、いかにお客さんの主訴や副訴を満たせる「明視域」や「レンズ設計」を提案できるか?なんですよね。

大切なのは、この「良い眼鏡」の概念を、一般の方と眼鏡屋の概念を

「できるだけ近く合わせないといけない」ということです。

簡単に言えば、「視力〇〇の眼鏡」ではなく「ここからここまでを見えやすくする眼鏡」で

補足的に「ちなみに視力は〇〇です」みたいな感じですね。

よく、「強い度数は疲れやすいから弱めで処方しろ」とか

「弱い度数だと眼鏡を作る意味がないから完全矯正値入れておけ」

みたいな処方の話があると思うんですけど、

僕はどちらも不完全だと思っていて、

「それはお客さんの主訴や眼鏡の慣れによるだろ?」ということなんですよね。

そもそも「強い度数は疲れやすいから弱めで処方しろ」というのは

「測定に時間取れないからとりあえずレフ値だけ測定して

そのまま入れたらキツイだろうから、そこからちょっと下げた度数入れとけば大丈夫」とか

「完全矯正値は最高矯正、最弱度数だから大丈夫」みたいなのは、

「とりあえずちゃんと測定できてれば最弱度数のはずだから慣れれば大丈夫」

というのは、「お客さんの主訴は無視するけどな」みたいにも聞こえるんですよね。

この測定マスター塾では、今まで「眼鏡の慣れ」と「処方の法則」、「問診」についてずっとお話ししているんですけど、

あくまで最強矯正値での処方は、マックスまで遠方を求められた場合の提案の1つであり、

必ずしも「マストで入れないといけないわけではない」ということです。

ここら辺を測定し初めの頃に教わっていないと、完全矯正値絶対主義になり

ムダな処方交換の山を築くことになります。

「もっとよく見たい」と求められたら最高矯正値まで入れてみて、本人が「大丈夫」と言えばそれでOKですし、

「やっぱりちょっとしんどいかも」と言われれば変更すればいいということなんですけど、

その塩梅が初心者には判断がつきません。

ちょっとわかりにくいと思うので整理すると、

あくまでお客さんの主訴から「明視域とレンズの最適設計」を提案し、

「会話の中で遠方がどれだけ見たいのか?」

それに合わせて

「手元もどれだけ見ることがあるのか?」という話になった時に、

「ここまでは視力が出ますよ」

「でもそうするとこんなデメリットがあるので、こんな提案がありますけど?」

という話をしなければいけないんですよ。

ただ単に「完全矯正値入れとけ」「しんどそうなら少しだけ下げろ」「加入は測定数値を信じて入れろ」

という教え方と比べてこの違いってわかりますか? 

お客さんの期待する見え方や、度数変化に慣れるしんどさを考えずに

なんとなくこちらが度数と設計を決めつけているんですよね。

ちょっと尖った言い方をすると、

「弱めに処方しろ」とか「完全矯正値で処方しろ」という話は

選択肢を持たない測定者の一方的な押し付けなんですよ。

でも、ここで言いたいのは、弱め処方や完全矯正処方が悪いと言っているわけではないです。

あくまでそれは「主訴によるよ」ということを前提にお伝えしたいだけなんですよね。

この考え方の大きな違いは、お客さんがそれを望んでいるのか?を聴いているという点です。

よく、問診は「お客さんの声をよく聞きなさい」と言われると思うんですけど、

測定時には、この「聞く」と「聴く」の意味の違いをしっかりと区別しておかなければいけないんですよね。

「ただ聞く」は話を全て受け止めて情報過多になり、できることやできないことを説明できなくなる状態に入ります。

測定の迷路に迷う人は、お客さんに測定のペースをいつも握られています。

もちろんお客さんがたくさん話してくれるのは良いことですが、

今回の測定の趣旨に関係ないことや、「一本の眼鏡でできないことをできるようにしたい」といった話を延々としていると

いつまでもゴールが見えてきません。

眼鏡の測定をしている人なら、「全てを完璧に楽に見える眼鏡は存在しない」ということは知っているはずですよね?

でもみなさん、なぜかお客さんにそれを求められたら「その希望に答えられるようにしたい」となっちゃうんですよね。

測定が上手い人は、この情報の裏ごし、つまり必要な情報と不必要な情報を頭の中で常に整理できるように

「で、今回の眼鏡はどこを見るのを重視したいですか?」などの

お客さんをリードする間(ま)をとった「質問」をしているはずです。

僕の場合は、必ず

「できることと、できないこと」はやわらかい言い方ではっきり伝えるようにしています。

例えば、「遠方も近方も全部見たい」という方には、

「眼鏡は性質上、遠方寄りか近方寄りのどちらかに重点が寄ってしまう性質があるので、

今回の眼鏡ではどちらが要望にあっていそうですか?」と言います。

ここでもまだ悩むお客さんはたくさんいますが、「では眼鏡を用途に合わせて使いわけできませんか?」と質問します。

ここで「できない」と言われれば、「では遠方寄りと近方寄りのどちら寄りにしましょうか?」となりますし、

「できる」と言われれば中途半端な設計や度数にせず、用途に合わせて特化した設計と明視域を提案するだけです。

ここの所はものすごく大切なので、測定が苦手な人はこの2点を必ず覚えてください。

①「遠方か近方のどちらかに見え方の重点は寄る」

②「使い分けをできるか確認する」

これを言えるようになれば、処方交換は減りますし、測定時間もムダに長くなりませんし、

あわよくば眼鏡を複数本購入してもらえます。

さて、ここまで「良い眼鏡」について話してきましたが、逆に「悪い眼鏡」というのもあります。

それは、その人の生活スタイルや主訴に合っていない眼鏡のことです。

「そりゃそうだろうよ!!」という声が聞こえてきそうですが、

意外とこの「主訴を深く聴き取ること」は苦手な方が多いんです。

例えば、デスクワークが多い人に、加入のみをどんどん強めた視野の狭い遠近両用や

若い方に意味もなく視力1.0とか1.2にして遠方をがっつり見えるようにする眼鏡がその代表ですね。

ちょっと知識が不足していることも考えられますが、

遠近両用でパソコンが見えにくいという主訴に対して

加入のみを上げる処方は最後のやむなし手段です。

特に遠近両用は加入度数が2.00を超えてくると急激に中間視野が狭くなります。

ハイグレードレンズはもう少し広く感じるようですが、あくまでチェーン店での取り扱いレンズの範囲での話をします。

遠近両用系の累進レンズは、いかにこの2.00の加入をいきなり使わず、中間視野を広く取れる方法から考えます。

本当は「パソコンが今より見えるようにしたい」という主訴があるけれども

「運転は絶対にする」などの譲れない要望がある場合には、やむなく加入のみを上げたり、設計をショートにしたり

過矯正分を抑えた度数で加入度数を抑えた処方をします。

問診してみると「お客さんの希望は〇〇を見やすくしたい」と言っていたので処方してみたけど、

「なんか前の眼鏡の方が良かった」と言ってくるパターンってありませんか?

これを僕はお客さんの「裏主訴」と呼んでいて、「今のいい所をキープしながら改善できたらしたい」

という具合に聞くようにしています。

もう少し具体的に言語化すると、

初めに話していた主訴が「今の眼鏡のいいところは残して、改善できたらいいなぁ」

くらいの気持ちで言っているんだろうなぁと装用時のリアクションから判断し、

「用途別に眼鏡の掛け替えをしてまで本気で改善したいわけではないいんだろうな」と推測するようにしています。

もちろん全ての主訴を実現できるように試行錯誤はしますが、

眼鏡の設計や特性上、ムリな場合もあるので、そこはお話ししてなるべく理解してもらえるようにしています。

これはお客さんと話をしながらリアクションをよく観察しないと判断が難しいと思いますので、

「どれだけ本気で改善したいのか?」を問いかける質問をすると判別しやすくなります。

例えば、「今回の要望を叶えるためにはこんなデメリットがありますが大丈夫ですか?」と質問すると

その主訴がどれだけ本気なのか?がわかりやすくなります。

本当に改善したいと思っている方は別設計の提案や、複数本の使い分けを理解してくれます。

逆に、それを悩む人は「そこまで本気で改善したいとは思っていない」ということです。

「良い眼鏡」の定義は人それぞれですが、僕は「お客さんが納得できる見え方を実現する眼鏡」がそうだと思っています。

「良い眼鏡」を作るためには、お客さんと眼鏡屋のコミュニケーションが不可欠です。

これは長年、眼鏡屋で働こうが、測定を覚えたてであろうが、意識的に取り組まないと身につくことではありません。

「お客さんが考える理想の眼鏡と、眼鏡屋が伝える現実の眼鏡の壁」をなるべく取り除き、

よりお客さんに寄り添った測定、提案ができるように日々試行錯誤していきたいと思いますね。


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