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「老視が入った適切な過矯正の処方を解説」

人はある程度歳を重ねると「老視」

いわゆる「老眼」が入ってきます。

近視の場合、測定していて「今までの眼鏡より度数を下げた方が見えやすい」と言われたことが多いのではないでしょうか?

こちらの図をご覧ください。


老視が入ると目のピントを合わせる機能が衰退することで、数値が遠視方向に進んでいくことが一般的です。

例えば、もともとが弱度近視(S-1.00)くらいの方なら加入が入り出すと、

数値が遠視方向に進み、正視に近づくことで眼鏡がなくても遠方が見えやすくなってくることもあるでしょう。

では、眼鏡の度数が過矯正だった場合、「見えやすい」と言われた測定データ通りに入れれば大丈夫か?というと、

答えはNOです。

なぜなら、人の目は「慣れている度数で1番見えるように目を合わせるぜ」と脳が働き、新しく変化させた度数に慣れるまで時間がかかるからです。

慣れる早さのイメージはこんな感じです。

10代から20代は度数の変化に脳が慣れやすいのですが、30代から先、年を重ねるごとに度数の変化は慣れにくくなります。

例えるなら20代くらいまではアイドルの顔と名前を覚えられるのに、30代以降はよほど好きでない限り覚えられなくなるようなものです。

これは眼鏡でも同じように「慣れ」という脳の機能が働き、度数変化に対する時間がかかるようになってくるのですよね。

測定時のデータでは見えるようになったのに、仕上がって眼鏡をかけたら「なんか前の眼鏡の方が見えやすい気がするから元に戻したい」

と言われたことはありませんか?

おそらく時間をかけて慣らしていけば、今の眼鏡よりも快適になるはずなんですが、年配の脳はその期間をガマンすることができないのです。

眼鏡の測定は、この「慣れ」を計算して処方しなければいけないのがむずかしいところですね。

では、どこでそれを判断しているのか?ですが、

僕の場合は大きく分けて2つの点を考えて処方しています。

それは、

・40代以降は4段階以上変化させない

・相手の主訴と実際の見え方のミスマッチを防ぐ

まず一つ目

40代以降は4段階以上変化させない ですが、

例えばKBがS-4.00で視力が0.6 測定数値がS−2.50で視力が1.0まで出るとします。

ここで年齢が40代以降であるなら、僕はおそらくS-3.50からS-3.00の中でおさめるようにします。

仮にS-3.00で視力が0.8だとしても、本人がそれ以上を求めない限り、変えないようにしています。

遠視の場合は特に「遠方が見えにくい」と言われることが多いので注意が必要です。

これは経験則になりますが、40代後半から4段階以上変化させて慣れられた方は、体感トータル処方件数の半分くらいだったということ。

あと半分はおよそ1週間から1ヶ月以内に「遠方が見えにくい」と言ってきます。

「もう少し時間が経てば慣れて見えやすくなりますから」と言ったところで年配の方に聞く耳はありません。

ですので、僕は「眼鏡の慣れ」を考えるようになり「4段階以上度数を変化させない」というルールを決めました。

それ以上は本人の強い希望がない限り動かさないようにしています。

KBの使用年数が3年以上で年齢が50代を超えていた場合はさらに2段階までの変化にすることもあります。

そうすることで、過矯正を下げすぎて「遠方が見えにくい」という処方交換は圧倒的に少なくなりましたね。

二つ目の

相手の主訴と実際の見え方のミスマッチを防ぐ ですが、

お客さんが想像する主訴と現実の見え方にはギャップがあります。

なぜなら、お客さんは「楽に良く見える」のが理想だからです。

ところが実際にお客さんが望む見え方にするには、度数変化による負荷がかかります。

ダイエットや筋トレのように、望む自分になるためには理想と現実に差があるほど、負荷がかかるのと同じですね。

お客さんが求める理想と現実のギャップに対して「どこまで本当に見たいのか?」を確認し、お客さんのリアクションを観察しながら提案することが理想だと僕は考えます。

例えば先ほどと同じ数値で、

KBがS-4.00で視力が0.6 測定数値がS−2.50で視力が1.0まで出るとします。

お客さんの希望が視力1.0だとして、過矯正分下げてS-2.50にした場合、40代以降なら仕上がった後ほぼほぼ「見えにくい」と言うでしょう。

これは先ほど話した「眼鏡の慣れ」によるもので、数値は少なくなっていますが、ある種の「慣れ」という負荷がかかっています。

これを測定時のコミュニケーションで「この人は今の眼鏡の見え方に本当に困っているのか?」を読み取らなければいけません。

しかし、なかなか人の気持ちなんて読み取ることはできませんよね?

ですので、僕はお客さんに「今の眼鏡で遠くが見えにくい」と言われても最大の1.0まで数値を変化させることはしません。

ひとまず2段階さげたS-3.50くらいで見てもらい、視力を確認して、0.8だったとしたら「このくらいでどうですか?」と確認します。

すると、今より見えるはずなので「よく見える」と言われることが多く「これ以上はどうかな?」と質問されたらさらにS-3.00くらいにして「よく見える」と言われても、「ここまで動かすと仕上がった時に慣れるまで時間がかかるかもしれないので、慣れやすいこちらの方がおススメですよ」とS-3.50くらいに落とし込みます。

体験して選択してもらう流れのなかで、人は慣れるのに時間がかかると言われたら、よほど希望しない限りはおススメにしてくれるものです。

これはおススメに誘導しているようにも見えますが、結局のところ本当によほどの希望がなければ過矯正は4段階下げると慣れるまで時間がかかります。

理想と現実のギャップを体験してもらった後に、本当に慣れやすい4段階以内におさえることで過矯正の下げすぎによるミスを防ぐことができるんです。

今回の内容を簡単に説明すると、

・40代以降は4段階以上変化させない

・お客さんが望む理想と現実を体験してもらい、今より少し改善するぐらいに着地する

遠近両用などの累進レンズを使用していて、過矯正だった場合、過矯正を適正にすることで、遠方も近方も見えやすくなる場合が多く、若くして強めの加入数値を入れられて慣れてきた方には特に有効な処方になります。

ただし「眼鏡の使用年数と年齢による慣れ」を考えたバランスで処方しなければ高確率で処方交換案件となりますので、

主訴と実際の見え方によるミスマッチを極力なくすようにお客さんとのコミュニケーションをしっかり取っていきましょう。


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