三題噺パート1「僕のヒメ」

テーマ、「鴉」「ゲーム」「焼肉」


あれから1年がたった、、

僕は君を愛していた。君は僕をどう思っていたのか、、いまだに僕はわからないでいる。


2020年8月26日AM5:00

「カァ~カァ~」

「うるさいなぁ~」

僕は半年前から飼っているカラスのヒメに起こされる。

「カァ~カァ~カァ~」

「わかったって、今ご飯あげるから」

こうしてお腹を空かしたヒメに起こされるから最低限人間の生活が出来ているんだと思う。

「さて、ゲームゲームっと」

餌をあげたらゲームをする。これが堕落しきった僕の日常だ。


半年前に大学を辞め、親に縁を切られバイトで生活していたが、1月前にはバイトをクビになり今は無職の引きこもりというわけだ。

幸いにも大学に在学中に貯めておいた貯金があったので生活が出来ている。


「そろそろ仕事しないとな」

そう意識では思っていてもなかなか踏み出せない。

「カァ~?」

ヒメは僕と話すような鳴き方をすることがよくある。

意味は分かっていないと思うが、ヒメがいてくれるおかげで孤独死しないで済んでいる。


ヒメと出会ったのはゲームの試合の帰り道だった。

この日は決勝戦で優勝すれば賞金100万円、夢でも見ているのかと思った。

地区大会や小規模な大会では何度か入賞したこともある。ただ、この日は僕が人生をかけてでも勝ちたい試合だった。

決勝戦の相手、西園姫(にしぞのひめ)僕の青春はこの子だった。

高校時代のクラスメイト、初恋の相手だ。


僕が人生をかけた決勝戦、、結果は、、、


盛大に負けた

試合前、姫にどうしても言いたくて大勢の前で

「僕がこの試合で勝ったら、お付き合いしてください!!」

今思えばバカだったと思う。

初恋は不思議なもので後先考えずに感情で行動してしまう。

この子と一緒にいたい、ただそのために全力だった。


試合に負けた僕は誰にも見つからないように帰った。

準優勝者にも表彰があったが、大勢の前で告白して負けたんだ。

恥ずかしくてあの場にはいられなかった。

何度も鳴る着信音を無視し帰宅した。家に着くと玄関前にカラスの雛が倒れていた。まるで何もできない自分と重ねてしまい、家の中に運び米粒を与えてそのまま爆睡してしまった。

「カァ~カァ~」

連れ帰ったカラスに起こされた。

昨日のことを思い出し死にたくなったが不思議と涙は一滴も出なかった。

カラスはおとなしく机の上でペン立てを突っついたり、歩き回ったりしていた。

「お前はどこから来たんだ?」

「お腹すいてるか~」

起きてから1時間はカラスを観察していた。

「カラスって雑食だっけ」

カラスについて調べようとスマホを手に取ると、着信履歴が25件メッセージが124件来ていた。

「メンヘラかよ」

思わず口に出てしまった。

メッセージを確認すると「賞金があるから受け取りにだけでも来てほしい」

という内容だった。

仕方がないので受け取りにだけ行こうと思い、カラスの雛を家に置いたまま出掛けた。

受けとった賞金は20万、正直嬉しくはなかったが、使い込もうと思いカラス用のケージや餌を買い、お腹が減っていたので普段買えないような高級な肉を買って帰った。

家に着くと同時にカラスの雛がものすごい勢いで飛んできた。

「カァ---」

「うわっっ!!!」

手の中に飛んできた雛は帰りを待っていたようで嬉しそうな目でこちらを見ている。

「ただいま」

「カァ〜」

おかえりと言われたような気がした。

「待たせてごめんな」

「ご飯食べよっか」

そう言ってカラスの雛を机の上に寝かせて、ご飯の準備をした。

「姫、、、」

僕はまだ諦め切れない未練があった、初恋と共に失ったものの大きさをまだ受け入れられなかった。

フライパンの上でジューと音を立てながら焼けていく肉を見るが、全然食欲が湧かない。

焼けた肉を盛りつけ、テーブルに餌の皿と共に並べる。

「カァ~カァ~」

よっぽどお腹を空かしていたのだろう、餌を見てすぐにカラスの雛はやって来た。

「おいしいか?」

「カァッ」

皿を割りそうな勢いで餌を食べている。

「そうだ、ヒメって名前にしよう」

最悪のネーミングセンスだと思う。

でも、カラスの雛は嬉しそうに僕のほうを見た。

僕は西園姫とヒメを重ねているのかもしれない。それでも傷心を紛らわすには十分すぎた。

「これも食べる?」

名前を付けて愛着が湧いたのか、ヒメのことを可愛がっている僕がいた。

「カァ~」

焼いた肉を細かく刻み、嬉しそうに鳴いているヒメにあげた。

どうやら気に入ったみたいで、焼肉がヒメの好物のようだ。


次の日、僕は大学にいつも通りに行き2限の講義を受け帰ろうとしたとき、、

周りの視線に気が付いた。

「告白したってホント?」

「盛大に負けて表彰も受けずに逃げたらしいよ」

大学に来たことをすごく後悔した。

「噂というのはこうも簡単に広まるのか、、」

ボソッと一言言い残し、その場を静かに去った。



そして僕は大学に行けなくなり、中退した。


それから半年間最初はバイトもしていたが、いつしかそれも辞め堕落した生活を送っている。


2021年8月26日AM5:00


「ふぁ~」

時計を確認した。

「おかしいな」

朝になってもヒメが鳴いていない。

いつもなら決まって「カァ~」とお腹を空かせて鳴いているのに。

不安になってヒメを探すと。


「ヒメ、、、」


ヒメは倒れていた。


冷たかった。


本来カラスの寿命は2、30年はあるというが、そもそもヒメは衰弱しているところを助けた。

もしかしたらと期待して病院にも連れて行ったが、

「臓器が衰弱していてきっと寿命ですね」

ヒメが家に来たいきさつを話すとそう言われた。

「衰弱していたのにここまでよく頑張って生きてくれましたね」

短い寿命だった。

それでもヒメは頑張って生きていたのだ。


「ヒメ、、、」


悲しみに押し潰されそうになりながら僕は医者に言った。

「この子の葬儀ってどこかでできますか?」


医者は黙って頷いて葬儀屋を紹介してくれた。


葬儀を終えて、小さな墓を建ててもらった。

ヒメが大好きだった焼肉を墓の前に供え、手を合わせた。


「ヒメ、、僕も頑張って生きるから」


「またいつか会えたら焼肉一緒に食べようね」

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