三題噺パート2「Cold summer」

テーマ、「夏休み」「紅茶」「探偵」


雨夜探偵事務所、、

小さい探偵事務所で探偵の雨夜さんと見習いバイトの僕と2人で経営している。

「見習いく~ん」

「どうしたんですか雨夜さん?」

「紅茶いれて~」

「今から入れるのでちょっと待っててくださいね」

見習いの僕は雨夜さんに言われるがまま紅茶を入れる。

「はい、出来ましたよ」

「熱いので気を付けて飲んでくださいね。また火傷しますよ。」

「あつっ」

言わんこっちゃない

仕事をしている時の雨夜さんは周りの声があまり聞こえないので、

こうしていつも火傷する。


「あの、、」


お客さんだ


「はい、依頼ですか?」

接客は基本僕の仕事だ。

「はい、、」

見た目は高校生ぐらいの女の子だった。

「どうぞこちらへ。飲み物はコーヒーでいいですか?」

女の子は首を縦に振る

「はい、どうぞ。それで今回はどんな依頼ですか?」

「実は、、」

僕は依頼を聞き、雨夜さんに簡潔に説明した。

内容はこうだった、

彼女は私立高校の3年生で、友人2人と合宿をしようと言い計画を立てていたのだが、3日程前から連絡が取れず、不安になった友人と彼女が友人宅に行き確認した所、友人の母からは自宅にはいないと言われ。合宿の予定は明日のはずなのにおかしいと思い、再度携帯に連絡を入れようとしたが、現在使われておりませんとアナウンスが流れるだけで、連絡が取れないというのだ。

「なるぼど、状況は分かったよ。私も話を聞くわ。」

雨夜さんは依頼者の彼女から話を聞くことにした。

「内容はわかったよ。それで君は私に何をしてほしいのかな?」

僕は質問の意図が分からなかった。

雨夜さんは僕が不思議そうな顔をしているのを察したのかクスッと笑い彼女の方を向いた。

彼女は答えた。

「友人を助けてください」

僕は意味が分からなかった。

「依頼料は10万、1週間後にまたここにおいで」

雨夜さんは依頼をすんなり受け入れ、彼女を見送った。

いろいろと疑問が多すぎてわからない。

僕は我慢できずに雨夜さんに質問した。

「どういうことですか?」

「見習いくんは可愛いな。ほら、急いで片付けて出かけるよ。」

雨夜さんは僕の話を軽く受け流し、出掛ける準備を進めた。

「人使いが荒い人だな、、」

雨夜さんが最初に向かったのは、予定していた合宿先である静岡だった。

事務所がある東京から新幹線で約1時間、晴天だったので車窓から見える富士山がとても綺麗だった。

「さぁ、見習いくん!今日は美味しいものいっぱい食べるぞ~」

雨夜さんは涼し気なワンピース姿でまるで旅行に来たようだった。

「雨夜さん、依頼のこと忘れてないですか?」

「忘れるわけないよ。見習いくん」

「そろそろ見習いくんっていうの辞めてほしいです。」

「え~じゃあ、みーくん」

「見習いを略しただけじゃないですか、、」

きっと名前を覚える気がないのだろう。

僕は諦めた。

「ここが今日泊まる旅館だよ!」

依頼、本当に大丈夫なのだろうか。


外で昼食を取り、少し早いが旅館へと向かった。

「見習いくん、問題です」

「彼女の友人はどこにいるでしょう。」

まるでどこにいるのかわかっているような質問だった。

「わからないです。そもそも探しに来たんじゃないんですか?」

僕は友人を探すために合宿を予定していた静岡に来たのだと思っていた。

「違うよ。」

雨夜さんは、少しまじめな表情で言うと改めて友人の名前を僕に再確認した。

「神崎夕ですよ。」

「失礼します。夕食をお持ちしました。」

仲居さんが夕食を運んできてくれた。

「あなたが神崎夕さんね」

「えっ」

「えっ」

僕と仲居さんは驚いた。

「あなたの友人の依頼を受けてきたの」

「そんな、、」

「女将さんには了承取っているから、話を聞かせてくれるかしら」

「はい、わかりました」

女の子は泣きそうになりながら話した。

両親から虐待され、家出する口実として合宿を計画したこと。

合宿先は住み込みで働くための旅館であること。

その為の最後の旅行と見送りの計画を友人3人で考えていたこと。

「合宿の計画に気付かれて家から出れなくなるところを逃げてきたんです。」

神崎夕さんが今まで生きてきた世界は、同じ高校生としては考えられないようなもので、ここまで逃げてくる彼女の意思はとても強いものだと感じた。

「じゃあ、このままここで働き続ける?」

雨夜さんは彼女に聞いた。

「あそこに戻るぐらいならここで働いて生きていきます!!」

泣きながら言う彼女に雨夜さんは言った。

「あなたの親は連れ帰ろうとするわよ。未成年で学生であるあなたがいつまで逃げ続けられると思う?」

冷酷な現実だった。

彼女がいくら逃げようと親である両親は必ず連れ戻しに来るだろう。

「放っておけば誘拐罪で女将さんにまで迷惑が掛かるのよ?」

彼女は黙って泣いていた。

「どうしたらいいの、、?」

小さな声で囁くと

「けりをつけましょ」

「5日後に事務所まで来て」

雨夜さんはそういうと名刺を渡し

神崎さんは仕事に戻った。

「雨夜さんは最初から分かってたんですか?」

「えぇ、そうね」

「今は食事を楽しむわよ、みーくん」

笑いながら雨夜さんは僕をからかった。

「やめてください、雨夜さん!!」

その後、雨夜さんに振り回されながら旅行を楽しんだ。

次の日、事務所へ帰ったのは夕方だった。

「見習いく~ん、紅茶いれて~」

帰って早々に雨夜さんは紅茶を要求してきた。

「本当に紅茶が好きですね。すぐ火傷しますけど、、」

「何か言ったかしら?」

「いいえ、なんでもありません」

危ない、普段は温厚な雨夜さんだが怒ると怖い。


そして約束の5日後、、


「すいません、雨夜探偵事務所はこちらですか?」


「あ、神崎さん、どうぞこちらへ」

僕は席に案内し雨夜さんを呼びに行く。

「雨夜さ~ん、神崎さん来ましたよ」

それを聞いた雨夜さんは立ち上がり言った。


「では、始めましょうか。」


そこからは早かった、神崎さんに今回のスケジュールと手順を説明し、警察や裁判所などで手続きを済ませ、最後に神崎さんの家へ向かう。

「神崎さん、本当にいいのね?」

「決めたことですから、、」

少し震えながら彼女は答えた。


「ピンポーン」

インターホンが鳴って少し経ってから母親らしき人物が出てきた。

バチーン!!!

「夕、帰るわよ。」

一瞬の出来事のように感じられた。

「お母さん、待ってください!」

雨夜さんは鋭い口調で言った。

「あなたは誰、娘に変なこと吹き込んだのはあなた?!」

甲高い声で怒鳴る母親に雨夜さんは冷静に説明した。

「夕さんに何かあれば問答無用で児童相談所が来るわよ」

母親は顔を真っ赤にして睨みつける。

「お母さん、もう二度とここには帰らないから」

神崎さんは母親に告げて事務所に戻った。

「神崎さん、あれでよかったの?」

「はい、あの人たちは一生変わらないって分かったので」

寂しさよりも重荷から解放された事で明るくなったように感じた。

「神崎さん、今日はもう遅いから泊まっていきなさい」

雨夜さんは彼女に言った。

「ありがとうございます」

結局、彼女が選んだ道が正しいのか、最後まで僕には分からなかった。


次の日、、

「あの、、」

「あ、先日の依頼の件ですね。少し座って待っていてください」

訪問者は今回の依頼主の女の子だった。

「雨夜さん、依頼主の子来ましたよ!」

「早かったのね、神崎さんを呼んできてもらえるかしら?」

依頼者に1週間後にここに来るよう伝えたのはこれが理由だったのか、

それから二人は話をして別れを告げた。

神崎さんはお礼を言うと静岡へと帰っていった。



「見習いく~ん、紅茶まだ?」

「はい、出来ましたよ」

「あら、今日は早いのね」

「紅茶飲みたそうな顔してたので準備しておいたんですよ」

「流石見習いくん」

雨夜さんは少し笑みを浮かべて

またいつもの日常に戻った。


探偵というのは本当に分からない仕事だ。

雨夜さんはどこまでも先を見ていて何を考えているのか見当もつかない。


夏休み初日、、


「君は今日から私の見習いとして働きなさい。」

「君の依頼は私が受けるわ。」


僕がここでバイトをする本当の理由、この探偵事務所で働くきっかけについてはまた別の機会に、、





ps.もし今後評判があった三題噺は続編も書くかもしれないので、

これが好き!!って思ってくれた作品があったら教えてね!

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