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愛と推しの話はしてなくない?

『くだらないものがわたしたちを救ってくれる」という本を読みました。
とてもよい本でした。おすすめです。

↑出版社さんは埋め込みカードくらい用意してよね……
映えないとAmazonのリンクしか貼ってもらえないじゃないの……

ところでちょっぴりこの帯に違和感があるのですが……

「愛、金、"推し"」「推し(線虫)」はミスリードすぎない?

この本の内容をご紹介します。
著者のキム・ジュン氏は韓国で線虫研究を続けている若手科学者です。
この本では、その研究生活が面白おかしく紹介されています。
線虫研究ってどういうことをしているのか。何の役に立つのか、どんな意味があるのか。どんな面白さがあるのか。具体的にどんな作業をするのか。1日のスケジュールはどんな感じか。
とても面白い科学読み物で、福岡伸一じゃ物足りない!という皆様にぜひともオススメ。逆に、ちょっとでも難しいこと言われると困ります、、、という方には若干難しい内容も含まれているかも?私は理系(医療系)パンピーなのですが楽しく読めました。

そして、それだけではありません。
金がない、就職先がない、未来がない、生活がきつすぎる、ということも赤裸々に書いてあります。
線虫の研究は「練習問題」だという言い方を著者はしていますが、その必要性が理解されず、「そんなものより癌の研究をしろ」と言われて研究費が取りにくいということなども。
そして、「人間らしい生活より研究生活を選ぶ」ということを言い切っています。

科学をしながら人間らしく生きられる道があるなら、すぐにでも脱出してそちらに行きますよ。でもそんな道はないので、苦労するしかないんです
『くだらないものがわたしたちを救ってくれる』、p165

そんな道はないそうです。
科学をしながら人間らしく生きられる道はないと断言しており、この本は、そんな韓国の科学研究をめぐる状況に対する問題提起にもなっています。
そして、とても面白くて、「線虫……いいじゃん!研究しなよ!!」という気持ちにさせてくれるので、そんな問題をいつか解決するための「味方づくり」として大きな効果を上げるポテンシャルがあると思います。
(ちなみに、日本でも状況は同じだと思います。ちゃんと日本語版あとがきにも書いてある。だから日本でもこの本が翻訳され、出版されたのではないでしょおか)

そして、上の引用の直後には、こんなことも書いてある。

結局、わたしが科学をあまりに愛していることが問題なのだ。
同上

つまり、著者が愛しているのは科学です。科学的営みです。
いうなれば、"推し"とは線虫ではなく、科学のことなのではないでしょうか。

タイトルの意味ははかりかねます。
「くだらないもの」とは線虫を卑下した言い方なのでしょうか。「救ってくれる」とは、「練習問題」として、生命科学全般の発展に貢献し、いつか実際に私たち全員を救ってくれるという意味なのでしょうか。それともやりがいある仕事に従事することによる精神的充足のことなのでしょうか。

まあでも別に推し(線虫)が尊いって書いてあったほうが手に取る人が増えて、その人たちが「もっと研究費だしなよお!あるいは生活を保障しろ!」という気持ちになれば、最高なので、帯はこれでいいんだと思います

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