映画『アナと雪の女王1・2』 感想: 雪だるま作ろうの深淵な叡智


幼い日に、誰が夢を見せてくれましたか? 人ではないけれど、私は岩波少年文庫に恩義があります。『西遊記』も『ナルニア』も、100冊に厳選されたセットで読みました。岩波少年文庫の編集部の編集者さんのお名前は存じ上げないけれど、心の故郷です。

おそらく『アナと雪の女王』1・2は、幼い子達の心の故郷になると思います。

2019年の『アナ雪2』の公開直前に、『アナ雪』と発表されている短編集を全て鑑賞しました。力の管理と自己成長を扱い、従来の王道路線である問題解決の特効薬としての王子様の出番がない、新しい時代の物語です。

「王子様はいらない」かどうかではなくて、「自分の問題を、自分と仲間でどうにかする心意気」の話です。アレンデールは架空の世界だけれど、その背後にあるのは現代のアメリカの文化と課題です。

両親  恐ろしい力だからコントロールを教えよう
エルサ みんなと違う私は他者を傷つける
アナ  姉さんは人と違うし、両親を独り占めする
両親  危険はあるけど解決策を求めよう

不幸な事故
エルサ 私がいけないんだ(忌々しい力
アナ  (姉を責めずに済むから)どこかへ行きたい

不幸な出会い

『アナと雪の女王』(1)の冒頭のプロットを抜き出してみました。こう考えると、「アレンデール王国』『魔法』はフィクションですが、家族の困難を抱えたご夫妻と、それぞれの寂しさを抱えた姉妹のお話です。このミュージカルの『雪だるま作ろう』は、3つのメッセージが読み取れます。

①大人の視点が育つに連れて、ノックして誘うことが出来なくなる
愛しているから鍵を開けない場合もある
③幼い日には出来たのに、大人になると何故出来なくなるのだろう?(制作者のメタ視点)

LGBTQ+の方々がエルサに反応したのも理解できます。いつ来るか分からない王子様を待たずに、女王が自分で成長して問題解決するのですから。みんなと違うエルサは、歴代のプリンセス達と違うのです。たしかに作中に「敵」もいますが、内なる敵や運命などに向き合います。

しかも、強くて聡明なだけで、王子様が「来ない」ような魅力の欠落は無いです。来ないから仕方なく頑張るのではなく、当てにしていないだけ。待つより自分でやった方が早い、強い!

また、エルサは自己解放も経験しますが、適度に行う必要も、冒険から学びます。後先考えずに、雪山に氷のお城を作ってはいけない。長年抑圧してきたのだから、弾ける時があるのも自然なことです。

『アナ雪2』のパンフレットによると、ヒットしたアナ雪を心理学的なアプローチでも考え抜いて、姉妹のトラウマや力のルーツが描かれました。

エルサ 私のせい
アナ  ちゃんと見て。両親自身の決断でしょ

エルサ 世界の秘密の最奥まで行ける! →やりすぎました。
アナ  何かあったんだ。オラフも消えてしまった。それでも、なんとかしなくちゃ。

エルサはクールビューティーですが、ブレーキが弱いので、あの家はアナがバランス取ってると思います。責任重大。強いけど繊細な姉のカウンセリングもしますし。

『アナ雪』は、エルサと力の管理、自己受容と他者受容(※妹や仲間や世界からの)の話でした。言い換えると、異なる力があろうと、どこまでなら迷惑をかけてもいいのかを知る、お互い様の学習でもあります。

対して『アナ雪2』は、魔法の力自体はおおよそ解決しているので、魔法とは関係ないアナの成長を通して、不思議な力ではなく、アナのカウンセラー精神で、困難な道を切り開きました。

魔法がある世界で、それでもなお、人の力で、考えることや諦めない勇気を自分で保つことが語られます。それは、魔法よりも魔法のようなことで、望めば誰でもアナのようになることが出来ます。幼い子達が嫌がる、物語の妨げになるお説教を使わずに、受け取りたい子が望むなら受け取れるように配置した手腕に、Disneyのプロの仕事を覚えます。

そんなことを一切考えず、ミュージカルを楽しむことも出来るから、多面的というより多層的な作品です。だから、子どもも大人も楽しめます。

我々の日常に魔法は少ないかもしれない。しかし、多層的に楽しむことが出来る体験自体が、太古から現代までずっとそばにある、フィクションやナラティブという、魔法そのものです。

一番古くて、一番強い魔法。


たぶんカミュの言う実存主義と、この場面は矛盾しないはずです。『アナ雪2』を観ていたら、この場面を幼い子と共有出来るから、困難に立ち向かうこと・問題解決に挑む勇気・行動に責任を持つことなどを教える際の、身近なお手本になると思うのです。『アナ雪2』で、アナはめちゃめちゃ大人になります。

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