点字用郵便の制度・歴史

日本郵便は、郵政公社の流れを汲んで様々な割引を設定しています。ゆうパックの持ちこみ割引や、同一のDMを大量に送る広告郵便物などのほかに、社会政策的に設定された割引も多くあります。心身障害者用の定期刊行物を8円(新聞50gまで)~で送れるほか、通信教育用の郵便物は15円(100gまで)~、学術刊行物37円(100gまで)~など、通常の郵便と比較して低廉な料金がいくつもあります。そのなかでも異彩を放つのが点字用郵便で、3kg以内であれば無料という設定です。

この概要編のほかに、実際に送受信する実践編、特殊な取り扱いである点字内容証明編の3部作で記事を書くつもりにしています。今回は、制度の具体的な内容のほか、制定経緯などを探ります。

点字用郵便の条件

点字用郵便の条件について、日本郵便の内国郵便約款には次のように書かれています。

(第四種郵便物)
第33条 次の郵便物で開封とするもの(略)は、第四種郵便物とします。
(1) 略
(2) 点字のみを掲げたものを内容とするもの(以下「点字郵便物」といいます。)
(3) 盲人用の録音物又は点字用紙を内容とする郵便物で、この約款の定めるところにより、点字図書館、点字出版施設等盲人の福祉を増進することを目的とする施設(当社が指定するものに限ります。)から差し出し、又はこれらの施設にあてて差し出されるもの(以下「特定録音物等郵便物」といいます。)
(4)略
(5)略

内国郵便約款

いわゆる点字用郵便には「点字郵便物」と「特定録音物等郵便物」の2種類があり、どちらも送料は3kgまで無料です(3kg以上は第四種郵便としての引き受けができません)。

条件は約款にある通りなのですが、点字郵便物については送受信する人に制限がありません。宛名以外の部分を墨字ではなく点字で書き、同封物も無ければ誰でも無料で送ることができます。
特定録音物等郵便物は指定された施設に限定されるものの、録音物や点字用紙も送ることが可能で、点字図書館の貸出・返却などに利用されています。また、日本視覚障害者団体連合の通販サイトでは、点字用郵便で発送可能なものとして「点字用紙、タックペーパー、タックロール、 盲人用普通ハガキ、盲人用年賀ハガキ、ロール紙、点字用紙付き点字用バインダー、点字メモ帳」を挙げており、点字用紙が主であればバインダーなどがあっても良いようです。

いずれのものでも郵便物を開封とする必要があります。ここで言う開封とは、中が確認できるように穴を開けたり、透明なもので包装したりすることです。詳しくは実践編で書きます。

点字郵便物の無料化

点字郵便物は現在の郵便法制定(昭和22年)当初から設定がありますが、当時は無料ではありませんでした。当時の条文を引用します。

第二十六條(第四種郵便物) 左の物を内容とする郵便物で開封とするものは、第四種郵便物とする。
一 印刷物(盲人用点字のみを掲げたものは、これを印刷物とみなす。)
二 業務用書類(特定の人にあてた通信文でない事項を紙又はこれに類する物に記載したもの)
三 写真、書、画及び図
四 商品の見本及びひな形並びに学術上の標本
 第四種郵便物の料金は、重量百グラム又はその端数ごとに一円二十銭とする。但し、盲人用点字のみを掲げた印刷物を内容とするものの料金は、重量一キログラム又はその端数ごとに十五銭とする。

国立公文書館デジタルアーカイブ

当時の郵便料金は、書状5円、はがき2円でしたから、15銭というのはかなり安く設定されていたことがわかります。重量の制限が緩いのは、点字だとページ数が増えて重くなりがちなことが考慮されたのかもしれません。また、点字以外でも書状でなければ第四種郵便物とされていたようです。なお、現在第四種郵便物に内包されている植物種子などは、当時は第五種郵便とされており、料金は100g又はその端数ごとに15銭です。

日本で最初の郵便法が制定された明治33年のものには、18条に「第四種 書籍、印刷物、業務用書籍、寫眞(※写真)書、書画、圖、商品見本及雛形、博物學上ノ標本 重量三十匁又ハ其ノ端數每に 金二銭」(当時の書状は4匁まで3銭)とありますが、点字郵便物は含まれないと考えられます。もっとも、明治23年に東京盲唖学校で6点式点字が採用されていたものの、官報に載ったのは明治34年のことです。

点字郵便物を無料とする法律が公示されたのは昭和36年です。10年以上据え置かれた郵便料金を改定する目的の改正で、通常の送料は据え置いたものの第三種郵便などの値上げを実施しています。点字郵便物については、逓信委員会での審議において、「盲人用点字等につきましては国際的な例にならいまして無料とする。」(昭和36年4月21日 板野學郵便局長)、「盲人用の点字の郵送料のごときは、これは国際条約等の関係もありまして、また金額も比較的少ないのでこれを無料にいたしました。」(昭和36年4月25日 小金義照郵政大臣)などと答弁されています。また、「盲人用点字につきましては、大体、これで減収になる額が百七十万円見当」(昭和36年4月28日 板野學郵便局長)とのことです。

社会貢献業務維持は郵政民営化の時にも議論されており、郵便事業株式会社法第4条第2項には点字用郵便も含まれています。また、郵政民営化に関する特別委員会で「盲人用点字、録音物につきましては、一通当たりの費用を三百四十円ほどと想定しております。なかなか、具体的にどこを参考にするかというのがあるわけですが、想定といたしまして約三百四十円の費用を想定しております。(略)料金は無料でございますから、一通当たりの収益はゼロと。それで、今委員御指摘の平成十五年度の通数は三百二十万通でございます。これを掛けまして約十億円という数字を出しております。」(平成17年6月6日 伊東敏朗内閣官房内閣審議官)と答弁されています。昭和36年の1件あたりの金額を15銭と仮定すると、44年間で差出件数は3割程度まで落ち込んでいることになります。計算の誤差や、コンピュータで音声読み上げができるようになったことを考慮しても、相当減っている印象を受けます。

点字ゆうパック

無料ではありませんが、ゆうパックにも点字の特別料金があります。また、特定の事業者が録画物の貸出及び返却に利用できる聴覚障害者用ゆうパックも同じ料金です。見本を提示しない場合には、封筒等の場合は一部を開くか、大部分を透視できるようにし、それ以外の場合は包装の外部に無色透明の部分を設ける必要があります。

料金は60サイズの場合で100円、80サイズで210円、100サイズで320円、などとなっており、最大が170サイズで730円です。セキュリティサービスや本人限定受取の料金は通常のゆうパックと同様です。

点字内容証明

内国郵便約款には、点字内容証明の規定があります。B5の点字用紙に20行まで書くことができ、通常の内容証明と同様に謄本を2通作ります。また、内容証明である旨などが点字で印字されます。料金は一般書留料金と内容証明料金で、基本料金にあたる部分が無料です。通常の内容証明を取り扱う局で差し出しができますが、証明文などの処理は銀座郵便局で行っています。実際に差し出してみて、別の記事として詳しく書く予定です。

国際盲人用郵便

点字用郵便は、国内だけでなく、国際郵便も無料で送ることができます。このとき、船便での料金だけでなく、航空割増料金も無料です。万国郵便条約には次のようにあります(一部抜粋)。

第二部 業務の質に関する基準及び目標
第十六条 郵便料金の免除
3盲人用郵便物
3.1 差出側の指定された事業体の内国業務において引き受けることができる範囲内で、盲人のための機関に宛て、若しくは盲人のための機関から差し出され、又は盲人に宛て、若しくは盲人から差し出される盲人のための全ての郵便物については、航空割増料金を除くほか、郵便料金を免除する。
3.2.3 盲人用郵便物には、音声を含むあらゆる形態の通信文及び刊行物並びに盲人が盲目であることから生ずる問題を克服することを支援するために作成され、又は調整された各種の器具又は用品であって、この条約の施行規則に定めるものを含む。
第十九条 引き受けられない郵便物及び禁制
7 印刷物及び盲人用郵便物
7.1 印刷物及び盲人用郵便物については、通信文の要素の記載をしてはならす、また、このような要素を有する書類を包有してはならない。

万国郵便条約

条文にあるように、盲人用郵便物には通信文の要素の記載はできません。また、郵便切手や有価証券なども包有できません(返信用封筒は除く)。
なお、内国郵便の条件が厳しい場合には、それを適用できると条例では定めています。インドネシア、セントビンセント及びグレナディーン諸島、トルコ、フランス、ブラジル、ニュージーランド、フィンランド、カナダ、デンマーク、スウェーデン、アイスランド、オーストラリア、ドイツ、アメリカ合衆国、オーストラリア、オーストリア、アゼルバイジャン、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、日本国及びスイスについて、万国郵便条約の最終議定書第五条に例外規定があります。

盲人用郵便物を日本から送る場合には、国際郵便約款第4款に規定があり、盲人は、差出しの際、身体障害者手帳の提示が必要になります(点字の書状又は点字の記号を有する原版を内容とするものを除く)。国際の盲人用郵便は点字用具や白杖など多くのものを送れますが、国内の点字郵便物に該当するだけは誰でも送れるようです。なお、郵便の公用語は英語とフランス語ですので、名宛面の上部右隅に「Items for the blind」又は「Envois pour les aveugles」と表示又は記載をすることになっています。開封とすることは同じです(ただし、封筒であれば蓋を中に折り込むなどし、一部切取りでは認められないことがあります)。

参考文献など

Webサイト掲載のものはリンクだけで失礼します。いずれも2022年1月19日時点の掲載内容をもとに執筆しています。

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