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羽生結弦東京ドーム公演 GIFT 感想~アイスショーであり音楽ライブであり一人芝居だった作家・羽生結弦のデビュー作~


■筆者について
 2023年2月26日、羽生結弦東京ドーム公演GIFTのライブビューイングに行ってきました。
 筆者は00年代後半からライトなスケオタで、羽生結弦には09年JGPF優勝でその特異な名前から興味を持ち、
それ以降ずっとライトに追いかけています。テレビ放送される試合やアイスショーは欠かさず録画、ニュースの独占インタビューを見る程度です。
 最初は見た目が好みで時に恋愛感情も抱いたりしましたが、人間として尊敬しています。すべてにおいて物事の考え方が素晴らしすぎると思います。
 それと並行してアニメやソシャゲも大好きで10数年前にアニメ評論を少しかじりましたが挫折しました。
でもプロローグは未履修です。

GIFTの世界観に魅せられてしまい、ディレイ配信も見ました。
シナリオ文字起こしもしました。
そして感想文を残したいと思い
初めて表立った場所で羽生結弦の話をしようと思いました。

■東京ドームで初のソロアイスショー
 GIFTに興味を持った理由、史上初の東京ドームでアイスショーをやるからである。
 東京ドームといえば音楽業界では頂点に立つグループしか立てないステージ、多くのアイドルやアーティストの憧れの地を一人で埋める羽生結弦を見てみたい、まるでロックスターのように滑る羽生結弦を見てみたいと思ったからである。『Let's go crazy』の頃に「まるでロックスターのようだ」と言われていたことを覚えていたし、この人いずれ歌手デビューしそうと夢想していたから。

https://www.youtube.com/watch?v=3p8rkk1tb9I

 ロックスターのように滑る羽生結弦を見る夢は叶った。
 しかも生演奏で!!
 生演奏といえば開演前の映像でフルオーケストラが見えて豪華だなぁと思ってたら東京フィルハーモニー交響楽団が演奏しているとエンディングで知ってひっくり返った。
 でも、本当に、ほぼ全部生演奏!!完全に音楽ライブだ。

■羽生結弦の好きそうなものだらけのセットリスト
 『Let Me Entertain You』でギターとドラムも出てきて生バンドでやってくれて天才かよ!!ふおおお。『阿修羅ちゃん』で氷上なのに陸のダンサーのように踊り狂う羽生結弦かっこいいいい!

これらの楽曲以外にも新作の『あの夏へ』『いつか見た夢』などめちゃくちゃいろんなことやってたけど、羽生さんが好きそうな曲だらけだった。(筆者の勝手な判断だが、彼は邦ロックとピアノのせつない旋律の曲が好きだと思っている)

 しかし、GIFTの中身はそれだけじゃなかった。

 テレビで報道されないプログラムとプログラムの間の映像パートこそがGIFTの真意だった。そして、全く想像していない羽生結弦の世界を見せられたのであった。

■プログラムに潜んでいた真実の意味の解説と心の内を明かす物語
 オープニング、羽生結弦の声が流れ始めた。
 「あなたのみかたのおくりもの」
という言葉が引っかかる。「みかた」とは「見方」なのか「味方」なのかどちらなのだろう、不思議な表現だ。そしてやはりこれはギフトの和訳、贈り物なのか、今まで応援してくれたファンへの贈り物なのだろうとわくわくした。

 1曲目の『火の鳥』に乗せて世界地図や地球や炎が投影されると
巨大モニターの割れ目から羽生結弦が登場!!火山の中から飛び立つ火の鳥の如く現れ、空を舞うかのようにリンクを舞う羽生結弦。
曲が終わり羽生結弦も退場すると、新しい映像が流れ始めた。

 光や自然の映像の中で、詩のような短文で淡々と語られる物語が始まった。生まれた瞬間の話から、なにかをできるようなりたい話、夢を叶える話だと思いきや途中から太陽と月の関係性の話になる。
 きらきらした希望の話なのに、どこか物悲しい。


 (ちなみにこのあたりは、映画館で初見の時は記憶がない。我々は羽生結弦のアイスショーを見に来たのであって、宇宙誕生の話を聞きに来たのではない、とスペースキャット顔で映像を眺めていた)

 そして始まったのが『Hope and Legacy』
 この曲と衣装が大好きなので流れただけで嬉しい。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm30947351

 そして物語は一気に悲しい空気に進む。さっきまで大地と対話するような話だったのに、一気に孤独な人間の話になっていく。我々は何を見せられている?もう話についていけない。
(筆者は映像作品を見る時は途中で止めないとついていけないタイプ)

 ここで私は、この物語が羽生結弦の過去プロに物語を付与したものであると感じた。そしてそれらを繋いでいき、ひとつの作品として成立させたのだろう。

 そして流れたのは『あの夏へ』
 『千と千尋の神隠し』サントラだが、この空間、近いと感じたのは『君の名は。』で立花瀧が口噛み酒を飲んだ後のシーンだった。
まるで天も大地も時空も超えてすべてのエネルギーが一人の人間の身体に降り注ぐようなシーンだった。

■スケーター羽生結弦の歩みと引退試合
 そして幼少期の羽生さんを思わせる少年のアニメーション。
 映像の中のスケート少年は次第に成長し、バラード一番などの著名な衣装まとっている。あぁ、これは羽生のスケート人生の振り返りなのだ。そこからのモニターに映された2022年2月10日の日付。北京五輪男子SPの日である。
 そして上半身にジャージ、その下にロンカプ衣装をまとった羽生結弦が登場。まさかの、6分間練習の再演である。見たことない。こんなの見たことない。現役時代に、何度も見たあのルーティンを再現している。プーさんのティッシュケースもリンクの脇にいる。
 そして『序章とロンド・カプリチオーソ』が鳴り響き、予想は確信に変わる。北京五輪の再演、及び引退試合のやり直しである。五輪当日に失敗した4Sを見事成功、 4T4T 3Aも成功させていった。羽生さんよっぽど悔しくてやり直したい一日だったのであろうか。それも叶えたい夢だったのだろうか。
 でも、個人的にはこのプログラムこそ5曲目とかじゃなくて冒頭にやるべきだったのでは。アスリートからプロスケーターへの転身への象徴として。

https://www.youtube.com/watch?v=usRntZb4404

■製氷中のインタビューに本作への真意を仕込む
 40分という長い製氷を挟みインタビュー映像が流れる。
羽生結弦のGIFT開催へのきっかけ、本作への思いなどが語られた。
こっちは休憩どころじゃない。とりあえずメモを取った。


「みなさんへの感謝、贈り物」として本作が計画されたこと
「アイスショーの中でしか味わえない物語、意味、背景を改めて感じて欲しい」
「違ったストーリーを感じてもらいたい」


といったことを発言していた。

特に印象に残ったのが、


「人って一人じゃ生きていけない」
「でも一人がいいなって思う」
「一人でもいいよ、大丈夫だよ」
「心の扉を開けたいなって時には自分のプログラムがそこに存在してるよ」

という言葉である。
 なんか一般論と逆だなぁ。普通は一人になりたい人には一人じゃないと無理やり人の輪に入れようとするのに。

■ゲーマー羽生結弦の描くゲーム中の自分
 後半は、ELEVENPLAYのダンスと映像でいかにもMIKIKO先生演出のピコピコ音が鳴り響くゲーミング空間へ。東京ドームが一期に異空間へダイブする。そこからAdoの『阿修羅ちゃん』で登場した彼は今まで見たことないくらい踊りまくっていた。まるで陸の上での振り付けをそのままスケートに移したように。
 そして、ゲーム空間にいる時の彼は、「楽しい」と何回も口にしていた。でも「できない自分なんか存在する意味がないんだ 必要ないんだ」と急に自己肯定感の低い発言をする。ゲーム好きの彼らしい構成なのに、幸福感を感じていたのに急に己のあり方に自問自答して鬱になっていく展開に。ゲーマー羽生結弦の描くゲームとはスケートからの逃避なのだろうか。そうおもわずにはいられなかった。

■黒羽生と白羽生と黒にひきずりこまれた彼
 しかしその次に出てきたのは、真っ白な空間で全身黒い衣装をまとった羽生結弦であった。その時の彼は「なにもできない」「温かい世界にいきたい」とぽつりとつぶやいた。
 そんな黒い彼に手を差し伸べるかのように出てきたのは同じ顔をしたもう一人の彼だった。彼と対話をしたが、『オペラ座の怪人』が終わると居なくなってしまった。

https://www.youtube.com/watch?v=MVlThcYzaRE

そこからは真っ白な空間で彼の真っ黒い感情が吐露されていく。
光の方角へ行くと思いきや闇堕ち一直線なストーリー展開。
心を塞いだ、特別じゃないと言い切る。
自問自答した結果、独りだったと言い切る。
その間に『notte stellata 』で星降る夜に飛び立っていったのに
目に影があるげっそりした顔が忘れられない。

https://www.youtube.com/watch?v=1gRoIy0YWQo

 本当に、羽生結弦なのだろうか?

 これは、羽生結弦本人なのだろうか、信じたくない。
 むしろ物語の主人公を演じているのだと、信じたい。

 この羽生結弦は役者としてお芝居をしている

 ここまで来るとアイスショーというより一人芝居だ、演劇の文脈で考える べきなのでは?

一人になりたいって製氷中のインタビューでも言ってたなぁ。

■誰があの物語の脚本を書いたのか
 あの独白はフィクションなのか、事実なのか、羽生結弦の姿なのか、物語の主人公を演じている羽生結弦なのか?
そもそも誰があの物語を描いたのか。

おそらく………羽生結弦本人?

 GIFTのスタッフに脚本家らしき人の名前が出て来ないあたり、羽生結弦本人と考えるのが一番正当である。もしプロの脚本家が書いていたなら、もう少し理路整然として言葉の並びにすると思う。

 と推測していたら2月28日、本公演の2日後に絵本版GIFTの書誌情報が更新された。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000376956

ギフト
文:羽生 結弦 絵:CLAMP

ええええええええええええええ

 確信していたとはいえ、実際にその情報を見ると複雑な気持ちになる。
 本公演をもとにした絵本の文章を本人が書いてるということは、GIFTの脚本も羽生結弦本人が書いたという可能性が非常に高い。個人的は信じたくなかったけど、本当に彼が書いた物語なんだ。羽生結弦本人が伝えたかった物語があれなのか…。

■羽生結弦の自叙伝かもしれないGIFT
 GIFTの映像は物語形式だけどそれがある種のプログラムの本人解説だという内容を製氷中のインタビューでも言っていたから…

つまり、我々は羽生結弦の自伝的な物語を見せられたわけ?


 羽生、困る、あんたは遠い世界の王子様だったのに自意識さらけ出してこちら側に降りてきてもらうと困る。
 隣にいたらとかそんな距離感じゃない、隣にいるとバグる。
 あの闇堕ちした顔の羽生はお芝居をしているのだと信じたい。信じたかった。
 だけど、もしや、羽生、闇堕ちした時期があったのか?
 まさか、コロナ禍で10ヶ月表舞台から消えた時期に、もしや…?そこから仙台で一人練習して家族以外と極力交流しなくなったから…?
 そういえば、過去に「何度も死のうとしました」という発言をしたことを思い出した。その時は平昌五輪後の凱旋ショーだった。

 私はこの発言以降羽生結弦は歩く少年ジャンプのような向上心の持ち主でありながら、実は、裏で闇を抱えている人間なのだと思った。
だから、あの脚本は彼が闇を抱えた時に生み出された言葉なのかもしれない。プロが書いた小説や脚本のようではない、理路整然としていない文の組み合わせは人間が病んだ時の心の動きをそのまま描いたようだったから。

■セカイ系作品としてのGIFT
 GIFTを鑑賞している途中、ある言葉を思い出した。「セカイ系」である。
宇宙誕生から自意識に向かう、つなぎのない文の組み合わせの観念的な言葉が続く物語


完全にセカイ系のそれであった。


 セカイ系とは端的に言うと『エヴァンゲリオン』のような心の闇、自意識と世界の終わり、あるいは主人公とヒロインの関係性と地球滅亡の危機のような世界規模の話が融合したも物語である。主に00年代のギャルゲーやラノベを席巻した物語体型で、『エヴァンゲリオン』シリーズや新海誠作品の多くもこれに該当する。
 そして「セカイ系」作品の特徴として政治経済などの「社会」領域が欠落しているのが特徴である。


 GIFTで描きたかったことはまさしく「セカイ系」であったのではないか。
 羽生結弦といえば、フィギュアスケートで二度の五輪王者に輝く一方、高校生で東日本大震災に被災したことをきっかけに、被災地への寄付や支援も積極的に行うなど、社会貢献活動も広く知られている。そして、国民栄誉賞を史上最年少で受賞、そして数多くのテレビCMにも出演するなとタレント活動も行っている。
 いま、あえてこの事実を述べたのは、これらが羽生結弦の功績は羽生結弦の「社会」領域でもあるからだ。
 いまや国民的どころか世界的大スターである羽生結弦の「社会」領域がすっぽりと抜け落ち、ひたすら自意識の世界を吐露するような物語であった。
 羽生結弦は東京ドームをいう日本最大級のライブ会場を地球規模の演出と己の自意識で埋めてしまった。

 本作前半は地球誕生から太陽と月に関わる話であった。宇宙と地球と大地の映像が流れ、羽生結弦の声で水が流れるように数々の言葉が流れていった。完全に「世界」領域の話である。それこそ新海誠監督の『君の名は。』『天気の子』のような世界観であった。
 後半は、真っ黒な衣装を身にまとい、見たこともないようなくらい表情で椅子に座り、ぽつりぽつりと孤独と闇を口にしていく。少なくとも私が初めて見た彼の心の闇であった。これはまさしく「私」の領域である。世界誕生に自分自身の心理を混ぜていく叙述形式はまさしく「セカイ系」そのものである。

■夢の実現
 GIFTとはなんだったのか。今まで応援してくださった方々への感謝の贈り物であると同時に、それは羽生結弦が叶えたかった夢の実現なのではなかろうか。

  • 東京ドームでライブをする夢

  • 作家になる夢

  • 自分の描いた物語を大御所漫画家に描いてもらう夢

 羽生結弦本人がこういう発言をしたわけではないが、東京ドームという巨大な空間を己の自意識と好きなものとやりたいことで埋め尽くした作品、それがGIFTだったのではなかろうか。

 私はかれこれ10年以上彼を追っかけている。確か2011年くらいにBUMP OF CHICKENとアニメやゲームも好きだと知って彼とは趣味が合うかもと思い、新プロ出る度に好きな曲だらけでそういう所も好きだった。
でも、まさか、自ら製作総指揮を取った作品が、こんなに自分にクリティカルヒットするものだらけで構築されたものをお出しされると…

狂う、マジで狂う。
そして、大好きだ!!!


 確信した。やっぱり羽生結弦とセンスが合うからずっと好きでいられたと。総合プロデュースなんて脚本演出も絶対本人好みがフルに反映されたものだろうし。それで出されたもの全部私好みときたら…

作家・羽生結弦をこれからもずっと追いかけ続けます!!


フィギュアスケーターとしての羽生結弦も、人間としての羽生結弦も
作家・クリエイターとしての羽生結弦も全部大好きですべてが合う人に出会えることは本当に稀だから。

■最後に
それはそうと、自分が書いた小説をCLAMP先生に作画してもらうという、
オタクなら、とくにラノベ作家志望なら誰でも描く夢を叶えてしまったことに???

うらやまけしからん!!!!!!


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