嫌いな姉の話

歳の離れた姉はマイペースな人だった。
そんな姉がわたしは大嫌いだった。

女性にしては身長が高く、170cmで足が長くて顔が小さい。小さな頃からモデルになれるとまで言われていたくらいにスタイルが良くて美人な姉。
東京に行った際はよくスカウトをされていた。怪しい名刺ばかりだったが。
とても優しくて面倒見がいいのに天然。
先輩からも後輩からも、親戚のおじちゃんからも、チビからも、同性からも異性からも好かれる姉は勉強はそこそこだったが運動神経が良かった。

姉を嫌いなのはわたしくらいなのだ。

前提として、姉はわたしのことをとても好いてくれている。それがまた厄介で。


姉はとても謙虚だ。そのくせ他力本願。
口癖は「〜〜しちゃ、だめだよね…?」

わたしと姉は10cm差があるが、彼女は華奢なため、平均的な体つきのわたしが着る服を着ることができた(わたしがメンズライクが好きなのもある)。
そこで服を借りたい時、彼女は決まってこういうのだ。

「このパーカー、借りちゃだめだよね…?」


親戚の集まりの時、姉は率先して手伝いをする。
家事をしているところなんて一切見たことがないのに。

「(姉の名前)ちゃんはいつも気がきくわね!」
「(わたしの名前)も姉ちゃんを見習うんだな!」


実家を出て行く時、わたしはとてつもなく反対した。
両親は賛成していたのでわたしの意見なんて聞いてくれちゃいなかったが。

案の定、25年間使っていた部屋の整理整頓をせずに、汚い部屋をそのままに、姉は綺麗なワンルームへと引っ越した。
姉のもので散らかっていた部屋はわたしが断捨離と片付けをした。


姉はわたしとどこかに出かける時必ず遅刻をする。
彼女から誘っておいて。

「ごめんね、バスが遅れちゃって。」
「ごめんね、仕事が長引いちゃって。」
「ごめんね、昨日友達が振られちゃって…」
「ごめんね、彼氏が寂しがり屋で…」
「ごめんね、」
「ごめんね、」

ごめんね、

その一言で済まされているあなたの世界はどんな世界なんだろうね。

「うん、仕方ないもんね。」
「ありがとう、いつもごめんね」
「いいから、早く行こう。」

わたしは許したわけではない。諦めているのだ。
それに気づいていない彼女は、穏やかに笑って再び「ありがとう」と言うのだ。
いつものこと。



マイペースで他人任せな姉と、神経質なわたしは価値観が合わないのだ。
昔、母に相談したことがある。
姉のことをどうしても好きになれないと。
返ってきた言葉は

「そんなこと言わないの!
 たった一人のお姉ちゃんなんだから、大事にしなさい!
 お姉ちゃんはこんなにあんたのこと大事にしてるのに…」

どうやらわたしが悪いみたいだった。


ブー、とスマートフォンが振動する。
姉からLINEが来ていた。

「映画見に行かない?
 〇〇っていう映画、気になってるんだけど…
 空いてる日ないかな?」

ない。わけがない。
ああ、またわたしは断ることができないまま彼女に振り回されるのだろう。

わたしはなぜ姉を好きになれないのだろう。
他人に自慢ができる姉を、わたしはどうして嫌いなのだろう。

わたしが姉を嫌いなこと。
姉はまだ知らない。

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