久しぶりに取り出したギターの音を聴いたら自然と楽しくなった。
時間が経って少し錆びている弦の音がまあ嫌いじゃなくて。
昔みたいに指が上手く動かなくても、あの頃に作った歌は今でも覚えているし、あの頃一緒に夢を追いかけていたあの子の曲もすんなりと弾けたし歌えた。

押入れの右端に閉まってあったケースは埃まみれで、ひとまず掃除機でそれらを吸いとってから、乾拭き、少し濡らしたタオルで拭く、乾拭きをしてみた。
まだちょっと汚れているのは諦めた。

中のものを取り出すと、多分あんまりあの時から変わっていない姿が出てきた。
わたしはよく指で弾く人だったから、ギターホールのとこの弦が少し錆びている。哀愁だと言いたい。
特に4弦の色が変わっている。音も錆びている。そんなに長い間放置していたか、とキモイ不協和音をチューニングした。
うん、いい音が鳴る。
これと決めて買ったのだから、当たり前のようにわたしの好きな音が鳴る。少しあたたかめのマホガニーの音。
あんまり威張っていない感じ。

特番でこういう時期は音楽番組をやっているから、なんだか感化されやすい。
あの当時まだインディーズだったアーティストがテレビで活躍している。
わたしはスマホよりも断然テレビっ子だったから、どんなにサブスクで売れてようが、テレビに出ているというのが1番「売れたな」と実感するものだった。

ふと、ゴミ箱に放った埃が目に止まった。
この人たちは埃を一切被らないまま音楽をやっているんだと思ったら、指も止まった。
天才なあの子もきっとそうなんだろう。
腐らず真っ直ぐ、否、腐っても真っ直ぐだった。
わたしは腐った瞬間に駄目になった。
埃をかぶるのはあっという間だった。

いいな、羨ましいな、
そう妬む気持ちはいつまでたっても新鮮なままなのに、あの頃の夢を抱いていた幼気な心はすっかり埃を被っている。

無意識にケースに戻していたギターは、また数年後にひょっこり顔出すかもしれない。
その時は、また掃除機で埃を吸う。取りきれないものは諦める。
わたしはあまり器用ではないから、埃を被るしかない。

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