ヤンデレvsツンデレ アナザーパート

神恵田 北斗はこの春から札幌デザイン&テクノロジー専門学校に通い始めた専門学生。
因みに将来はラノベ作家を目指している。
そんな北斗だが最近、妙に辺りから視線を感じる事が多い。
アパートから出る時。
学校へ向かう時。
授業中。
バイトの時。
最近では部屋で過ごしている時でさえも。
視線を感じた方を見ても誰も居ない。
だから、一体誰が北斗を見ているのか未だに見当がつかない。
正直言って北斗は霊感は強い方ではない。
それに、誰かに付け狙われる様な事をした覚えなんて無い。
だから心当たりなんて一切無いのだ。
そんな日々に、北斗は徐々に毎日が憂鬱になっていた。

「ハァ……、一体何なんだよあの視線は」
北斗が何時もの様に、溜め息をつきながら昼休みに3階のスペースでパソコンを開いて創作に耽っていると。
「あ、神恵田君! お疲れ〜! 今日もまた小説書いてるの?」
鈴を転がす様な声のする方を振り向くと、ニコニコと微笑みながら、長く艶やかな黒髪を伸ばした一人の少女がやって来た。
少し垂れ気味ながらも紅く輝く大きな瞳。
スッと鼻筋が通った小ぶりな鼻。
薄い桜色のぽってりとした唇。
それらが完璧な配置で並んでいるその美少女を見て、北斗は赤らんだ顔を伏せつつ挨拶をした。
「え!? あ、お、お疲れ、八雲さん。うん、まぁ、まだ途中なんだけどね」
彼女の名前は八雲 千歳。
この学校に入ってから知り合ったのだが、何故か北斗に良く構ってくる。
彼女は声優志望で、俺とは違って札幌ミュージック&ダンス・放送専門学校の方に通っている。
因みに彼女はその容姿と誰にでも分け隔てなく接する心優しい性格なのもあってか、友達も多い上に男女問わず人気がある。
平々凡々な北斗とは違って、まるで月とスッポンである。
「もう、私と神恵田君の仲でしょ! そんな恥ずかしがらなくてもいいよ!」
そう言って千歳は北斗の顔を覗き込もうとしてくる。
だが、女性慣れして無い北斗にとっては刺激が強すぎる訳で……。
「あ、そ、そうだ! 俺用事思いだしたんだった! そ、それじゃあね、八雲さん!」
北斗は慌てて荷物を纏め、その場から逃げる様に立ち去った。

「もぅ、北斗君ったら奥手なんだから。まぁ、そこに唆られるんだけどね♡あら? 北斗君ったら飲み物忘れてる。折角だし、私が貰っちゃお♡」
その場に残された千歳は、北斗の飲みかけのペットボトルを愛おしそうに鞄へと仕舞うのだった。

夕方、コンビニにて。
「ハァ……」
「ちょっと先輩、バイト中に溜め息は辞めて欲しいっすよ。こっちまで気が滅入って来るっすよ」
そう答えたのは、髪を金髪に染めた如何にもギャルっぽい感じの少女。
彼女は北見沢 旭。
高校時代の後輩で、北斗とは腐れ縁の様な間柄である。
「だってさぁ、最近ずっと何処からか視線を感じるんだよ。何処に行っても誰かに見られてる様な」
「先輩、流石に自意識過剰じゃないっすか。平々凡々なオタクの先輩をジロジロ見る人なんている訳ないじゃ……いや、嘲笑の視線ならワンチャンあるか」
「あのなぁ、こっちは真剣なんだよ。ただでさえそのせいで憂鬱になってるというのに」
茶化す様な物言いをする旭に対して、北斗はイラッとしながら答える。
「そ、そうっすか。それは悪かったっすよ。まぁ、どうしてもって言うなら、アタシが力になってやってもいいっすけど」
旭はバツが悪そうに、しかし若干頬を赤らめながらそう答えた。
「本当か! ああ良かった。俺は良い後輩を持ったなぁ!」
「ちょ、先輩! 大袈裟ですって! 全くもう……」

一方、コンビニの外では。
「あの泥棒猫……許せない」
双眼鏡でコンビニの中を覗き込み、奥歯をギリッと鳴らす少女の姿があった。

翌朝、北斗が起きてみると、何故か自分の写真が大きく目の前に貼られていた。

どういうことだ?

あたりを見回してみると、周囲にはいつの間に取られていたのか、自分の写真が壁や天井一面に貼られていた。

中には、北斗の隣が黒く塗りつぶされたものまである。

しかも、北斗を模したと思われるぬいぐるみや抱き枕なんかも飾られている。

なんだか気味が悪い部屋だ。

北斗は起き上がろうとするが、身動きが取れない。

手足の方を見ると、なんと手錠でベッドに固定されていたのだ!

「あらあら駄目じゃない、そんなに暴れては、まぁそんな北斗君も大好きだけどね♡ ハァ…ハァ…」

声の方を振り返ると、そこには千歳がいた。

だが、様子がおかしい。

大きな紅い瞳からはハイライトが消えており、目元が暗く頬を上気させながらハァハァと喘ぎ声を出している。

しかも手元には、ギラリと不気味な光を放つ包丁まで握られていた。

そんな千歳の姿は、今の北斗にはまるでいつもの彼女とは似ても似つかない様な狂気に満ちた女にしか見えなかった。

「や、八雲さん⁉ これは一体どういうことなんだ⁉」

「もう、八雲さんなんて他人行儀な呼び方はやめて! ち・と・せって呼んで♡」

戸惑い暴れる愛しい人をなだめるように、千歳は猫なで声を彼にかける。

「な、何故君はこんな事をするんだ⁉ 一体僕に何の恨みが⁉」

「恨み? 恨みなんてないよ。むしろ私は貴方を世界で一番愛しているの。初めて貴方を見た時から、今までずっとずっと。それなのに貴方は他の女とイチャイチャと……もう我慢出来ない! 今までは北斗君の使用済みの割り箸やペットボトルなんかを堪能したり、部屋にカメラや盗聴器を仕掛けたりしてたけど、貴方が本格的に女とイチャ付いているとなっては黙っているわけにはいかない! やっぱり監禁して何処にも行かないようにしないと!」

「ちょ、ちょっと! 昨日のはただの高校時代の後輩で」

ハイライトのない瞳で叫びだした千歳に対し、北斗は必死に弁解しようとするが……。

「北斗君はずっとずっと永遠に私のものなのに何であの泥棒猫は貴方と仲良さげなのかな? 許せない。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せないユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイ北斗君は私だけのもの私だけのものワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノワタシダケノモノ……」

(なるほど、こいつが今まで感じていた視線の元凶か。しかもこの女相当いかれてやがる。駄目だこいつ、早く何とかしないと)

ハイライトを失った瞳を浮かべながら、まるで壊れたラジオのように次々と言葉を紡ぎ出す千歳にため息を吐く北斗であった。

しかし、これがまだ序の口であることに、北斗はまだ気付いていない。

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