天動説と地動説 その5

技の誕生

主役とした一つが頑張るのか、全体が動くのか、その違いが天動説と地動説です。
身体は様々な部位に分かれているので、つい、あれこれ、様々な動きを試したくなります。
掴まれた腕を何とかしよう、と考えた時、腹に力を入れて、背骨を整え、胸を張り、肩甲骨を動かし、腕を力ませないように肘を伸ばしていく。
「動く」という事を求めた時に、あれこれ、する事ができます。

色々な事が出来る、というのはうれしいもの。そして、それぞれの動きを試している時、うまくいくか行かないかをチェックする。それも楽しい事です。
自然と「手順」が生まれて「技」になります。

技を捨てる勇気

たくさん技を持てれば上達します。技を学んでちゃんとそれをこなせるかどうかは習熟度のチェックにもなります。誰もその「技」を捨てよう、などとは言いません。

ある基準に従い採点をする時、何も知らない素人は良い点が取れません。基準を知り、技を学び、練習してやっと、舞台に立てます。
しかし、「自由かどうか」を身体的に求めた時、技が要らない場合もある、と知っておかなくてはなりません。

動物は人の何倍もの大きな力を出します。彼らに技はありません。持って生まれた本能が体を動かしています。
人ももちろん、動物です。自然の中で生まれてきた動物でした。ただ、脳があまりに大きく、想像する力を得た事で、持って生まれているものを忘れて、新しいものを生む事に力を使うようになりました。

掴まれた腕をどうするか。
腰も落としたくなるし、姿勢も無駄なく整えたくなります。しかし、それは「技」。目的の場所をどう動かすか、それを考えた時、動かない基準を身体の中に作ってしまいがちです。

しかし、この時、つかまれた腕がいくつもの部位に分かれて、それが太陽系の惑星群のように、それぞれが動き出したとしたら・・・
掴まれて動かない、と思っていた腕は相手との衝突を作らず、望むままに動きだしたりします。技を知らない素人の方がいい事だってある、変な話です(笑)。

衝突を考える

技が必要になるのは衝突をしているから。動きたいのに逃げられず、抑えられているから。この時、抑えられた接点には衝突が生まれています。逃げようとすれば接点の圧力は増します。もし、相手が私よりも力の弱い相手であれば、強引にでも接点の圧力を高めれば逃げられるでしょう。
しかし、現実に襲われた時、それは大抵、相手の力の方が勝ります。だから心が揺れ、恐怖が生まれてきます。

この時、相手は無意識のうちに、こちらの動きを読み、圧力が高まっている場所を抑えてきます。
骨を基準としたなら、どうしても動きは読まれやすく、抑えられてしまいます。しかし、地動説的に腕が分かれてくれば、抑えていたはずの腕がスルリと流れ出します。接点圧力は高まる事なく、常に逃げて、ずれていくような動きが生まれてきます。

衝突はお互いが衝突をした時に起こります。
こちらが「1つ」の時、相手は簡単にそれを止めます。これが衝突、動けなくなります。
しかし、こちらが「たくさん」ある時、一つを止めても他の部分が移動を始めて、止まる事はありません。もちろん、相手も「たくさん」であれば衝突も生まれるかもしれません。ただ、そんなレベルの身体感覚のやり取りはこの便利な世の中にはもう、ありません。もし、出会えたなら、抑えられる恐怖よりも、共にその感覚を知っている、という一体感の方が得られるかもしれません(笑)。

腕が割れてくれば、衝突自体が生まれなくなります。衝突がないのですから、技は要りません。ただ、何がしたいか、どうしたいか、その思いが腕を自然と動かし始めます。

首から上で考える

地動説の動きを確かめ始めた時、邪魔になったのは体幹でした。
体幹は人気です。技を捨てろ、と言いましたが、体幹を鍛えるな、というのもなかなか難しいことかもしれません(笑)。

しっかりとした腹、まっすぐな背骨、元気を出す胸、なにより大地に根を張る足。多くの人はそれを「必要」だと思っています。その信頼熱い体幹を捨てろ、と言われて、ハイ捨てます、と言える人はほとんどいないでしょう。

弱さに価値を見つけていてよかった・・・

幸い私は「弱さ」に価値を持てていました。昨年、たまたま、前庭神経炎というめまいを起こす病気になり、立っていられない、という状況を経験しました。どれだけしっかりとした体幹があっても、耳の奥の小さな部位がちょっと悪くなるだけで、長い年月をかけて得てきた技、術理が何も使えない、という経験をしました。

その後、その経験を生かして探ってみたところ、なんと、姿勢的にどんどんと「弱くなる」方へと導いた時、考えもしない動きと働きが現れてくるのに気づきました。
そして、念願だった「魂の実感」まで得られてしまったのですから、弱っていく身体があったとしても、そこに感謝を持つ事が出来るようになりました。

一点を止め、それ以外が動く、という感覚から地動説の動きへと気づきを拡げていけたのは「弱さ」を手掛かりに出来たから、と言っても過言ではありません。
首から下の体幹を捨てながら確かめていった方法を次回は書きたいと思います。

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